このコーヒーがあったからお嫁に来た!?

これは、10年ほど前の話です。
当時私は、都内の都市銀行で働いていました。

 

その時お付き合いをしていた彼は、夢を叶えるべく都内の専門学校を出て修行を積み、開業のために彼の地元に帰ってしまったのです。
地元で開業をすることが決定した後にお付き合いを始めた為、何も言えず遠距離恋愛からのスタートでした。

 

彼の地元は小さな港町。都内からは車でも電車でも二時間半くらいかかる所でお互い仕事もあるし、なかなか会えません。
彼は夢へ向かって頑張っているし、会えないせいで時間も有り余っている。
私も何か夢中になれる物を見つけて行動したい!!と思い、すぐに求人を見つけて会社に内緒でダブルワークをしました。

私の好きなもの、それはコーヒーです。
そして、見つけた求人は大手コーヒーショップのオープニングスタッフでした。

 

およそ二ヶ月かけて座学と店舗研修があり、コーヒーについての基礎知識と接客、コーヒーの作り方を学びました。
会社はとにかくスタッフを大事に考えてくれており、社員もベテランのアルバイトもみんないい人で、
何よりコーヒーとこのお店が大好きな人ばかりでした。
働く人たちは、「ありがとう」の感謝の言葉が飛び交い、楽しい思い出ばかりです。
好きなコーヒーについて学べるし、ついでにお小遣いも増える。なんとすばらしい職場だと思いました。

 

地方出身の私は、コーヒー好きの父と子供の頃から喫茶店に行っていました。
昔ながらのサイフォンで作るコーヒーでした。
小さかった私はクリームソーダ。父はコーヒー。
小さい頃は、コーヒーの香りは好きだけど、おじさんの飲み物だと思っていたのです。
しかし、学生になると、普通にコーヒーを飲むようになり、就職する頃には毎日欠かせない物になっていました。

 

さて、仕事も内緒のアルバイトも順調で、彼とは遠距離ながらも毎日のように長電話。
電話代がかさみ、スカイプで話そう!となりパソコンを購入。毎晩お互いの出来事を二時間近く話す。
そんな生活が一年くらい経ちました。

たまには会いにも行きました。
ただ、彼が開業したての時は仕事が不定期だったため、仕事中は一人で待っていることが多かったのです。
その頃彼は実家暮らしだったため、彼のお家には行かず、街をぶらぶらしながら彼が仕事が終わるのを待っていました。
夜は彼の開業した職場に泊まり、翌日はまた一人で街をぶらぶら。

そんな時、一件のカフェを見つけたのです。

 

その街ではあまり見かけない、おしゃれだけど素朴で、気取っていない外観。
お店の前には、木のベンチと可愛い郵便受け。
ドアを開けるとカランコロンとベルが鳴り、コーヒーの良い香りと、なにやら美味しそうなにおい。
すぐに素敵な女性二人が「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれました。

「一人で・・、ちょっと人と待ち合わせをしていて、時間がかかりそうなんですけど良いですか?」と言うと。
「大丈夫ですよ。お好きな席にどうぞ。」と言われ、カウンターに座りました。

そこは小さなカフェでカウンターが三席、テーブルが三つの席でした。
バリスタとホールの店員さんの二人です。
聞くとオープンしたてのお店だと言います。

 

メニューも一つ一つ丁寧に書かれてあって、説明も商品に対しての愛情を感じます。
おすすめのホットラテとベーグルを頼みました 。

そのカフェは手作りのベーグルやマフィンやケーキがあり、小さなショーケースにキラキラと置かれています。
種類が豊富でランチやティータイムに利用されていました。

 

コーヒーの種類も豊富で、バリスタが一杯ずつ丁寧にエスプレッソを作っていました。

店内には静かなBGMとおしゃれな空間があり、自分がどこにいるのか、わからなくなるような感覚になりました。
外観もそうですが、店内の雰囲気も店員さんも、良い意味でこの港町っぽくない、上品でおしゃれで、雑さがない異空間のようでした。

 

「こんなお店があったのか・・」と嬉しくなりました。

「お待たせしました。」
運ばれてきたラテにはかわいいラテアートがあしらわれていました。
「わあ。かわいいですね。ありがとうございます。」
店員さんもバリスタもニコニコです。

ラテを飲んで、更にビックリ。とても美味しくてまた嬉しくなりました。
手作りベーグルも、もちもちしていてとても美味しくほっこりした気分になりました。

 
その後カウンター越しに、お二人といろいろな話をしました。
お付き合いしている彼がこの街出身であること。
自分は都内で働いていて、遠距離恋愛をしていること。
あまり会えないこと。
やっと来たけど、彼が仕事で終わるまで一人で待っていること。
などなど、話を聞いてもらいました。

 

なぜか、自分がコーヒーショップでアルバイトしていることは話せませんでした。
その時は、そんな話が申し訳なく思うくらい、コーヒーが美味しくて、
同じくコーヒー作ってますなんて恐れ多くて言えなかったのです。

二時間近く経って、やっと彼から連絡があり、迎えに来てくれると思ったら、
まだ仕事が終わりそうにないから、もう少し待って欲しいとのこと。
店員さんに伝えると、いやな顔を全くせず、「いいですよ。ずっといても大丈夫ですから。」と優しく声をかけてくれました。

二杯目のコーヒーを注文して、雑誌を読みふけり、そこからまた二時間経っていました。
やっと彼が迎えにきて、長い時間過ごさせてもらったお礼を言い、その日は帰りました。

 

翌日は彼がお休みだった為、あの味が忘れられず二人でカフェに行きました。
ランチ時は混みそうだった為、電話で席の予約をしました。
彼の名前で予約をし、お店に入ると「ああ、昨日の~」と声をかけてくれました。

「○○さんって言うんですね、お待ちしてました。ご予約ありがとうございます。」
そんな言葉に照れながらも、席に案内され彼とベーグルランチを食べ、ホットラテを飲みました。

私の影響もあり、その頃の彼もコーヒーが好きになっていました。
彼の方が凝り性なので、私のアルバイト先でのテキストやネットでもコーヒーについて調べており、
自分の好みなどもわかっているようでした。
その彼も、とても美味しいとラテを喜んでくれて、素敵な楽しい時間を過ごすことができました。

 

それからは、彼を訪ねて来るたびに、このカフェで待たせてもらうようになりました。
やはり、何時間も待たせてもらうことがたびたびありました。
今思えば、ただでさえ席数が少ないのに、何時間も一人で待っているなんて、
お店は迷惑だったのではないかと思いますが、
当時から迷惑そうなそぶりは全く見せず、むしろ色んな話を聞いてもらったり、
試作品や頂き物なの~と注文以外の物を出してくれたり、
本当に居心地の良いほっとできる場所でした。

 

何より嬉しかったのが、彼の名前で予約して依頼、久しぶりに来店しても名前を覚えていてくれたこと、
そして、このカフェでは私のことは彼の名字で呼ばれることが、恥ずかしいような嬉しいような、くすぐったくて何とも言えない気持ちでした。

「新婚さんはこんな気持ちなんだろうな・・。」

彼のことは、お付き合いする前も、その後もずっと名字で呼んでいた為、
このカフェで、彼の名字で呼ばれているうちに、彼との結婚を意識するようになりました。

やがて、結婚を前提に、私は都内の銀行もアルバイトも辞め、この街に引っ越してきました。

 

そして今では、旦那様になった彼とデートで来たり、子供達とランチに来たり。
たまにはあの時のように、一人で過ごしたり。(さすがに何時間もいませんが。)
美味しいラテと、バリスタや店員さん目当てに通っています。
彼もたまに一人でふらっと立ち寄り、エスプレッソをソロで飲んでくることもあるそうな。

今では、街で一番人気なのではないかと思うほど大人気でいつもお客さんで賑わっている店内。
小さなショーケースの食べ物達は、お昼過ぎにはどんどんなくなり、夕方にはほとんどありません。

結婚した時も、バリスタは「こんな小さな街に来てくれて、ありがとうね。」と言ってくれ、
妊娠した時も、「おめでとう。○○さんがこの街で赤ちゃんを産んでくれて嬉しいよ。頑張ってね。」と励ましてくれました。

 

このカフェに通い始めてから何年かして、いつものように店員さんやバリスタとお話をしていたとき、
実は都内のコーヒーショップでアルバイトをしていたことを伝えました。
バリスタは、「えー、すごーい。」
そして私は、「このカフェのコーヒーは今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しいから大好きで、弟子入りしたいんです。雇って下さい。」
と、さらっと言ってみました。
バリスタは、「えー。カワイイ~。(バリスタの口癖です。)」

少し困った顔をしたバリスタ。いつも通りニコニコの店員さん。
結果、やんわりと断られました。

コーヒー好きは今でも変わらず、できればアルバイトをしていたコーヒーショップがあれば良かったのですが、小さな街にはあるはずもなく、
ショッピングモールにできたコーヒーと輸入食品のお店で店員をしています。

この街は小さな街ですが、コーヒー好きが多く、コーヒー豆の売り上げがまあまあです。
お客様とコーヒーの話で盛り上がります。
アルバイトの頃の知識や経験も活かして、話もできるし、良いカフェを見つけたらお客様と情報交換をしたりもします。
もちろん私のオススメのカフェは、あのカフェです。

今では、夫婦でコーヒー好きになった私たちは、旅行先でもいろいろなカフェやコーヒー豆専門店などに立ち寄ります。
二人とも、すっきりした豆も好きですが、どちらかというとボディー重めの深入りの豆が好きで、好みが合うところも良かったなと思えます。

今や日本では美味しいコーヒーが飲めるお店が増えました。
ですが、味だけではなく、素敵な店員さんやお店の雰囲気、一緒にコーヒーを飲む相手がとても大事だなと思います。
今日もどこかで、おいしいコーヒーと共に、素敵な時間を過ごしている人がいると思うと、嬉しい気持ちになります。

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