しゅうちゃんのコーヒー

あぁ。もう最悪…。しゅうちゃんらしいな。
コーヒーを飲みながら、また考える。
あの子誰だったんだろう…。どれだけ涙を流しただろう。
しゅうちゃん、私のこと好きだった?私は大好きだったよ。
でも、わたしこそありがとう。しゅうちゃん。

 

初めての彼氏が出来た16歳の夏。当時、周りの友達は、ほとんど彼氏が居て、内心すごく焦ってた…。いや、羨ましくてしょうがなかった。
高校のクラスメートの男子は、全然恋愛対象にならない。相手もそう思ってると思うけど…。私は、昔から見た目も中身も大人びていた。身長も16歳で165㎝を超えていた。高校生になったら、学校で好きな人が出来て、憧れの先輩も居て…なんて、想像してたけど現実はやっぱり甘くない。そんなある日、携帯に知らない番号から着信があった。

 

それが初めてのわたしの彼氏、しゅうちゃんだった。
しゅうちゃんは、友達にかけようと思って、間違えて私にかけたみたいで、間違い電話からなぜか話が盛り上がって、しかも同じ市内に住んでいることがわかり、何度かメールや電話をする仲になっていた。

 
しゅうちゃんは、1歳上の高校2年生で、サッカー部に所属している。私は、しゅうちゃんと会ってみたくて、仕方がなかったけどそんなことは自分から言えず…。ずっとモヤモヤしていた気持ちのまま数ヶ月が過ぎていた。ある日、学校からの帰り道、最寄りの駅で電車を降りると知らない男子高校生に声をかけられた

「なつみちゃんですか⁇」「そうですけど…。」そしたら、彼は嬉しそうに、「俺!修也‼︎」と笑った。
…がっかり。全然、思ってたよりかっこ悪い。背も小さいし、色黒だし、髪もなんだか天パじゃない…。それが、わたしのしゅうちゃんへの第一印象。しゅうちゃんは、わたしを驚かそうと、電話で話してた最寄りの駅で待ち伏せして、わたしの高校の制服の背の高い子に声をかけまくってたって聞いて、かなり引いた。

 

でも、なんだろうこの感情。ぜんぜんタイプじゃないのに嬉しい…。しゅうちゃんは、なんか飲む?と言いながら、返事を待たずに自動販売機でコーヒーを2本買った。しかも、ブラック。まだ、ブラックコーヒーがあまり飲めなかった私は、大人だなーなんて思いながら、一緒にコーヒーを飲んだ。苦い…。

 
「いきなり来てごめんね!ずっと会いたいなーと思ってて。実はタイプじゃなかったら声かけずに帰ろうと思ってたんだよね。」なんて、悪びれた様子もなく無邪気に言うしゅうちゃんに驚いた。「そうなんだ…声かけてくれて良かった。でも、びっくりした…いつから待ってたの?」「30分前くらいかな。俺の印象はどうだった?」「うーん…スポーツマンって感じ。」がっかりしたとは、とても言えない。

 

「俺、今日いまから部活の練習でさ、今週の日曜日もし空いてたらうちに来ない?親も姉ちゃんもいないんだ。」「うん。いいよ…。」恋愛に憧れまくってた私は、なんでもいい、この際そんなにタイプじゃなくても、ちょっと来てくれて嬉しかったし、彼氏欲しいし。しかも、わたしさっきから緊張してるし、もしかして、しゅうちゃんのこと好きなのかも。「んじゃ、決まり!また、この駅に迎えに来るから。」

 
日曜日。しゅうちゃんは、10時に駅まで迎えに来てくれた。それから、しゅうちゃんの家で、たわいもないお喋りをしたり、テレビを見たり。しゅうちゃんが音楽を聴こうと言ってCDをかけた。あ、これ私も好きな歌だ。すると、しゅうちゃんが隣に座り、わたし手の上にしゅうちゃんの手を重ねてきた。やばい、わたし。すごいドキドキしてる…‼︎「なつみちゃん。俺、なつみちゃんのこと好きだよ。付き合ってくれない?」「うん…。」頷くので精一杯。すると、しゅうちゃんは私のことを抱きしめ、軽くキスをした。初めてのキス。コーヒーの香り。

 

「しゅうちゃん、コーヒーの香りがした。」照れ隠しにわたしがそう言うと、しゅうちゃんは、もう一度キスをした。「俺、めちゃくちゃ嬉しい!」それからのわたしは、しゅうちゃんに夢中だった。初めての彼氏、初めてのキス。見た目はかっこよくないけど、無邪気で優しい!大好きな彼氏。「しゅうちゃんってコーヒー好きだよね。」「うち、家族みんなコーヒー好きで、俺も毎日飲んでるんだよね。」なんだか、そんなところも大人っぽくて大好き。

 
しゅうちゃんと付き合いだして、私もコーヒーが好きになった。苦くて柔らかいファーストキスの味。私はお砂糖とミルクをいれたほうが好きだけどね。
月日は流れ、もうすぐしゅうちゃんと迎える初めてのクリスマス。プレゼントは、しゅうちゃんが好きなブランドの洋服にしよう!友達についてきてもらい、しゅうちゃんがよく行くって話してたお店でグレーのニットを買った。その後、近くのカフェで友達とガールズトーク!オシャレなカフェに入ると、店内に見覚えのある顔が…!しゅうちゃんだ‼︎「しゅうちゃん…」声をかけようとして、やめた。

 

しゅうちゃんの隣には美人な女の子が居た。楽しそうに、笑いあっていた。2人でブラックコーヒーを飲みながら。店を急に飛び出した私を追いかけて、友達がきてくれた。「しゅうちゃんがいたよ…女の子と…」涙が止まらない私に、友達は「まじ、浮気だったら許せない。わたし、聞いてきてあげるよ。」戻ろうとする友達を、必死に止めて私はしゅうちゃんに電話をすることにした。…何回、鳴らしても出ない。しゅうちゃんお願い。後ろめたくないなら、電話に出て…。

 

結局、しゅうちゃんから折り返しの電話があったのは夜だった。「ごめんごめん。電話遅くなって!どうしたー⁇」「今日、何してたの?」私は、言いながら泣いていた。「今日、サッカーの練習試合だったけど…なんで?」「嘘つき。女の子と居たの見たよ。」ツー…ツー…電話を切られた。何度かけなおしても出ない。

 

あぁ、もう最悪。それから、しゅうちゃんと2度と連絡を取ることはなかった。聞きたいことは、山ほどあったのに。ねぇ、しゅうちゃん。私のこと少しでも本当に好きだった?私の初めての彼氏。初めての…。
散々泣いた。これでもかってくらい泣いた。今でも思い出すたびに苦い思い出。しゅうちゃんのせいで、私はコーヒーが大好きになってしまった。しゅうちゃんのせいで…わたしはしゅうちゃんが大好きだった。

 

あれから15年。私にはいま、4歳の息子がいる。今日はアヒルのボートがある大きな公園で1日中、息子とデート。お昼は、最近オープンしたばかりのあそこのカフェで、テイクアウトしよう。
友達から聞いた、オシャレなカフェ。息子にはオレンジジュースと、私はアイスコーヒーにしようかな。とメニューを見ていると「本日のコーヒーがおすすめですよ。」「じゃあ、それで…」見上げた先には、あの頃と変わらないしゅうちゃんが居た。よくある話。しゅうちゃんは、私にまったく気づいてない様子。
息子を公園で遊ばせながら、テイクアウトのコーヒーを飲もうと、手に取ると胸がドキンと鳴った。

 

コーヒーカップには、「to.natsumi thank you」と書かれていた。

コメント