コーヒー嫌い。

よく、コーヒー派か紅茶派かと言いますが、これって何なんでしょう?
この世の中にはコーヒーと紅茶しか飲み物がないわけじゃないのに、どうしてどっちかに分かれるって話になるんでしょうか?
犬派か猫派かっていうのも同じです。どっちも好きな人だっているし、どっちも嫌いな人もいます。
なのに、どうして『どっち?』って二択みたいになっているんでしょうか・・・。
私ははっきり言ってコーヒーが嫌いです。苦いし変な味がする。大っ嫌い。
でも、紅茶が好きってわけでもありません。日本茶も嫌い。ウーロン茶も嫌い。苦い飲み物は嫌い。
世の中にはもっと美味しい物が沢山あるじゃないですか?
嫌いなものを飲むくらいなら水を飲む方がいい。

元々はこれほどコーヒーが嫌いだったわけじゃありません。
紙パックに入っているコーヒー牛乳やカフェオレのようにミルクたっぷりで甘いものは好きでした。
普通のコーヒーは苦手でしたが飲もうと思えば飲めるという感じ。
逆に紅茶は小さな頃からどんな飲み方であっても苦手でした。
だから喫茶店なんかに行くと、基本的には炭酸やフルーツ系のジュースを頼んでいました。

そんな私がコーヒーを大嫌いになったのは21歳の時の片思いが原因です。
当時私は大学生で、勉強とバイトと遊びで忙しくも楽しい毎日を過ごしていました。
私のバイト先には私の通う大学の別学部を卒業した社員さんがいて、学校の話から仲良くなり色々な相談に乗ってもらうようになりました。
この社員さんが私の片思いの相手です。
わかりやすいように今はAさんとしておきます。

Aさんは私より5歳年上で、仕事では厳しいけれどプライベートではとても優しく、相談事をすればいつも親身にアドバイスをくれて私はとても頼りにしていました。
物怖じせず自分の意見を言えるAさんはものすごく魅力的で、私はそんな一面に惹かれていったのです。
また、お酒の席ではムードメーカーでもあり保護者でもありました。
Aさんの明るい笑い声と楽しいお話しで、バイト先の飲み会はいつも和気藹々としていました。
まだ入りたての時には一人ぼっちにならないように気にかけてくれ、飲みすぎた時には手際よく介抱してくれます。
グラスが空になっていないか、食べ物は足りてるか?皆が楽しめているか?いつも全体を見守ってくれている人でした。

 

そんなAさんはコーヒーが大好き。休憩時間にも仕事終わりにもよく飲んでいました。
バイト先にはドリップ式のコーヒーメーカーが置いてあり誰でも自由に飲む事ができたので、私はAさんと仲良くなりたくて何度も彼にコーヒーを入れました。
お疲れさまでした~とコーヒーを差し出すと、目を柔らかく細めてありがとうと笑ってくれるんです。
たまにお昼の休憩や仕事終わりにゆっくり話しができる時は本当に嬉しかったです。
何気ない言葉を交わすだけでも心臓がスキップしているかのようにはしゃいでしまいました。
そんなある日、仕事が終わって帰り支度をしているとAさんが私にコーヒーを入れてくれたんです。
いつも入れてもらってばかりだからたまにはと、まぶしい笑顔でカップを差し出してきます。
できるなら飲みたくない。でも、Aさんが私の為に入れてくれたコーヒーだから飲みたい。
頭の中で葛藤をしながらそのカップを受け取りました。
ミルクと砂糖を多めに入れてみましたが、口に含むとやっぱり苦い。
でも、Aさんが好きなコーヒーを嫌いだと知られたらマイナスポイントになる!と思い、美味しいと笑ってみました。
・・・でも、ばれた。
もしかしてコーヒー苦手?と悲しそうに聞かれ、私は正直に答えました。
すると、カフェオレが飲めるならきっとこのコーヒーも飲めるようになるよ!同じ物を一緒に飲めたら嬉しいな。君には俺の好きな物を好きになって欲しいって言われたんです。
それと同時にAさんは顔を赤くして慌てたように、今言った事皆には内緒ねってはにかみます。
これってもしかしてAさんも私の事を?
天にも昇る気持ちとは正にあの時の事だと思います。

 

私はAさんに好かれたい、喜んでもらいたいとコーヒーを好きになる努力を初めました。
家でカフェオレを入れ徐々にミルクと砂糖を減らしてみたり、苦いコーヒーの飴を舐めてみたり。
正直に言えば苦痛でした。でも、コーヒーをおいしく飲めるようになればAさんの恋人になれると思ったんです。
ほら、よく『夜明けのコーヒー』だとか『モーニングコーヒー』だとか言うじゃないですか?
あの優しいAさんとそんな素敵な朝を迎えることが出来るのならと、毎日苦味に耐えました。

 

三週間ほど経って、私は以前よりはコーヒーを飲むことに慣れました。
そこで、2つのカップを持ってAさんの仕事終わりを待つことに。
一つをAさんに差し出しながら今日もお疲れさまでしたと声をかけ、もう一つを自分の口に傾けます。
「あれ?コーヒー苦手なんじゃなかったの?」
Aさんが驚いた顔をして私を見つめます。
やっぱり苦い。けど、Aさんのためなら好きになれる!
「苦手だったんですけど、Aさんと一緒に飲みたくて克服中です(笑)
Aさんの好きなコーヒー、私も好きになりたいから・・・」
Aさんは嬉しい!と喜びながらコーヒーを一口飲んだ後に、私と一緒だといつもより美味しいと笑いました。
疲れが取れる、また一緒にコーヒー飲もうね!今は二人だけの秘密の時間だねと恥ずかしそうに続けられ、私の中にあるAさんへの恋心は最高潮に。
だって、このやりとりはもう両思いだと思うしかないですよね!
苦いコーヒーも甘く感じるほど、幸せ絶好調!

 

Aさんとお付き合いしたらどんな毎日になるのか、想像で頭の中が満たされていました。
仕事終わりに食事に行ったり軽いデートをするんだろうな♪
Aさんは優しいから、出勤時間が同じ時には家まで迎えにきてくれちゃったりするかも?!
お付き合いしたら皆にはどんな風に報告したらいいかな?からかわれちゃうかな?
毎日そんな事ばかり考えていました。
Aさんとの“二人だけの秘密の時間”となった就業後のコーヒータイム。
もちろん他の人が一緒の時もあるし、コーヒーを飲む事が秘密なんじゃありません。
二人だけの時に流れる甘酸っぱくてこそばゆい雰囲気こそが秘密でした。
仕事中は相変わらず厳しいAさんが、私と2人の時だけは頬を赤らめて甘い声で話すんです。
苦手なのに俺のために頑張ってコーヒーを飲んでくれてありがとう嬉しいよって言われると、Aさんのために何だってしてあげたくなっちゃう♪

 

私が卒論や就職に向け忙しくなる頃、Aさんとはプライベートの時間でも毎日ラインや電話で連絡を取るようになっていました。
でもまだはっきりと恋人になったわけではありません。
会うのはバイト先でだけ。手を繋いだりもしない。
私が告白しようとするとやんわりとかわされているようでした。
幸せだけどもどかしく焦れてしまう。
Aさんは私の事をどう思っているんだろう?
大切にされているし好意を持たれているのは感じるのに、それ以上にはなれない。
今の関係のままではもの足りない・・・。
やらなければならないことは山のようにあるのに、頭の中はAさんの事でいっぱいでした。
このままでは嫌だ!はっきりさせたい!と、ちゃんと告白する事に決めました。

 

仕事が終わり、二人だけのコーヒータイム。
思い切って私の事をどう思っているのか聞いてみました。
Aさんは「大切にしたい人だと思っている」と言ってくれたので、今だ!告白するぞ!と深く息を吸い込みます。
でも、私が口を開くよりも早くAさんの手が私の頭の上に。
優しくゆっくりと頭を撫でながら「大切にしたいから、今は自分の事に集中して欲しい。無事卒業して就職して、落ち着いたら話したいことがある」と言われました。
それまで待っていてくれるか?と聞かれると頷くしかありません・・・。

 

地元での就職も検討していましたが、Aさんの傍にいたいから大学周辺の会社にしぼる事に。
親は戻ってきて欲しそうだったけど・・・。
シフトも減らしAさんにあまり会えなくなっていた私は、本命の面接を翌日に控えどうしても彼の顔を見たくなりました。
そこで、忘れ物を取りに行くフリをしてバイト先へ向かったのです。
Aさんを探していると、倉庫の中からコーヒーの香り。
あ!きっとAさんだ!とドアに手をかけると、聞きなれた台詞が・・・。
「俺の為に頑張ってくれてありがとう」
そっと覗いてみたら、少し前に入った女の子の頭を撫でながら頬を赤らめ優しく語り掛けるAさん。
あれ、そこにいるのは私じゃないのにどうして?
思考停止状態で帰ろうとしたら、女性社員さんに呼び止められました。
私の顔が真っ青だったそうです。
どうにか誤魔化そうとするも先ほどの様子が浮かんできて泣き出してしまった私の背中をさすりながら、彼女が「もしかしてAと何かあった?」と聞いてきます。
どうしてわかったの?
泣き顔のまま凝視すると、彼女は深いため息を付きました。

Aさんはバイトの大学生にモーションをかけてその気にさせるのが好きなんだそうです。
ハーレム状態と言えばいいのでしょうか?色々な女の子に好かれている状態にしたいんだとか・・・。
学校を卒業すれば皆バイトをやめるので、そうなったら距離を空けて終わりにするのがいつもの方法。
信じられない。あのAさんが?嘘だ・・・。
否定する気持ちをかき消すように先ほどの光景が脳裏に浮かびます。
告白しようとしても逃げたのはそのせい?
大切にしたいとは言われたけど、はっきりした言葉は貰ったことがないなぁ。
そういえば俺の為に頑張ってくれって何度も言われたな。
外で会えないのもそのせいか・・・。
次々と一本の線で結ばれていきました。
一部の望みをかけてその夜Aさんと電話で話しましたが、誤魔化そうとするばかりで何の答えもありませんでした。
確かに何も約束もしていなかったし、私が勝手に勘違いしたと言われればそれまでです。
その上で、メールや電話はくるし変わらない笑顔で甘い言葉を囁かれるのは耐えられません。
結局私は本命の面接にも落ち、地元へと逃げ帰りました。

あれから数年経った今でも、コーヒーの香りを嗅ぐとAさんを思い出します。
その度に胸が詰まるからコーヒーは嫌い。
苦みは私を責めてくるみたいだから苦い飲み物はどれも嫌い。
本当はもう飲めるようになっていたけれど、大嫌いです。
好きだった甘いコーヒー牛乳も複雑な味に感じてしまって今は飲めません。
これは単純な八つ当たり。
わかっているけど、今はまだコーヒーが嫌いです・・・。

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