フランス人夫と日本のコーヒーの話

国際結婚してフランスに在住している30代の主婦です。

私の夫はフランス人で、コーヒーが大好きです。逆に私はもともとお茶派でしたが、結婚を機にコーヒーに親しむようにもなりました。

 

不思議なもので、慣れてくると「ストレートでいただきたい」と強く思うようになります。それまでは、コーヒーと言うとお砂糖とミルクをたっぷり入れて飲むのが普通でした。ですが現在は、夫が淹れてくれたドリップコーヒーを、そのまま大きなマグで飲むのが至福のひと時です。まだまだコーヒーに関してはアマチュア、夫の足元にも及びませんが、それでも日々、マグカップ一杯の幸せを味わうことが楽しみです。

さてそんなフランス人の夫の話です。彼は私を通して日本を知ったため、初めて一緒に来日した際には非常な偏見を持っていました。例えば、観光をして疲れたから、そこの喫茶店に入って休もう…とした場合です。喫茶店のオーナーにつかつかと近寄って、「ここのコーヒーは、インスタントですか?ちゃんとしたドリップしたものですか?」と真顔で聞くのです。

 

日本が先進国であり、コーヒーに関してもちゃんと文化があるということを理解できていなかったのですが、いちいち訳させられた私は本当に恥ずかしい思いをしました。

オーナーの方々も、内心では怒っていらっしゃったと思いますが、「そりゃーあなた、自家焙煎でドリップですよ」と笑って受け流してくださったのです。ありがたいやら、頭が下がるやらです。そうして出てきたコーヒーにも、何かしらいちゃもんをつけたり、「まあ悪くない」などと気障ぶって飲んでいるのがたまりませんでした。『素直に美味しいって思えないのかしら…』と内心ふてくされていたものです。

それでも破局はせずに私たちは結婚したのですが(笑)、その後の結婚生活は苦難続きでした。様々な難関を乗り越え乗り越えて、夫婦として成長していく過程で、夫も少し日本語を話せるようになり、ようやく私たちの国の文化になじんでいったのです。そして今までに数回した来日経験の中で、夫は様々な「日本のコーヒー文化」を発見していきました。

まず、冬に来日した際に、夫は成田空港の自販機の缶コーヒーに驚愕し、そしてハマりました。「何だこれは!何でコーヒーが缶に入っているんだ!!」フランスでは自販機そのものが少なく、売られているのはミネラルウォーターやソーダ類ばかりです。しかも冷たいものしかありません。温かいコーヒーが自販機に入っており、いつでも出てくると言うその発想が、夫にとっては衝撃でした。「これはあれだ、日本人は公共交通機関を発達させたから、そういった待合での時間を少しでも快適にするための工夫なのだろうか…?」ううむ、そうかもしれません。私は寒いのでおしるこを飲んでいたのですが、夫はこれにもまた絶句していました。

そして、日本で飲めるコーヒーも相当に美味しいものである、ということを夫は徐々に実感し始めたのです。私の父はコーヒーメーカーを持っており、毎朝それでドリップコーヒーを飲んでいたのですが、近所の専門店で買ったコーヒーブレンドなどを淹れて飲むたびに「日本のブレンドは何か違う。飲みやすくて洗練されている、さっぱりとした味わいだ」と毎回感嘆するようになりました。

そして、極めつけはコンビニです。初めは自動販売機同様、温かい缶コーヒーを買って喜んでいたのですが、ある時ここで「少量ドリップコーヒー」を購入しました。マグカップなどに取り付けて、直接お湯を注ぐものです。面白そうに抽出を見ていた夫ですが、実際飲んでみると「何じゃこりゃああ!!」。「日本はお茶文化が基本だから、保温のポットからお湯を注ぐと言うのが飲み物の基本だ。それがなければ到底たどり着くことのできない、この一杯分のドリップという発想…!!」と、絶賛しています。それならば、とブルックスのコーヒーを買ってあげたら、まさに狂喜乱舞しました。

今や、言わずと知れた通販のコーヒー会社ですが、こちらのコーヒー商品は恐ろしいほどのバラエティがあります。その豊富さは夫をとりこにしたのです。そういうわけで、私は年数回、ブルックスで大量のドリップコーヒーを注文します。子どもと一緒に夏休み帰国した際など、軽いもののかなりかさばるこの荷物を抱えて、夫のお土産に持って帰るのです。様々な種類の中から、「今日は何にしようかな…」と思い悩んでいる夫の姿は、かなり幸せそうです。

今や、夫の「日本観」は劇的に変わりました。コーヒーが美味い国、コーヒーを愛し楽しむ人々の国。つまり夫は、偏見を打破して日本を愛するようになりました。色々な確執はあったけれど、ようやくここまでたどり着けた…という達成感があります。

そして、日本のコーヒー文化がなければ、夫はここまで日本になじむことはなかったかもしれません。今では夫は、大量ドリップは近所の専門店で購入したものを使いますが、仕事のブレイクなどではブルックスを愛用しています。将来は小さな会社を起業するのが目標だそうですが、そこの給湯コーナーにはブルックスのドリップコーヒーを常時ストックしておくのが夢だそうです。

最近は一緒に帰国できていないのですが、次回はぜひ、話題の「コンビニ本格コーヒー」をドーナッツとともにいただきたいと思っています。

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