一生コーヒー

喫茶店でケーキとコーヒーを頼んで先に席に座り、コーヒーを飲みながら私は妄想をする。
私はこんな人生を送れるのだろうか。

 

5年後、28歳。
3年前に結婚した私たちの間には子供が二人生まれた。
男の子と女の子である。
子供が大好きなキミはよく、子供たちと一緒に遊んでくれる。
寝かしつけもしてくれるし、そこらの旦那さんとはまったく違う。
まったく違うところはそれ以外にもあって、キミは私のサポートもしてくれるのだ。
朝、息子と娘が寝ている隙に私にコーヒーをいれてくれる。
その気遣いだけでも嬉しいが、キミのいれてくれるコーヒーは格別美味しいのだ。
その一時だけでも私たちの信頼関係はより深くなる。
私は「この人と結婚できてよかった。」そう思うのだ。

 

10年後、33歳。
今年小学生になった息子と、まだ幼稚園生の娘。
まだまだ手のかかる子供たちを起こし、学校・幼稚園へ送り出す。
寝室からのいびきで確認する。
キミはまだ寝ているんだろうなぁ。昨日徹夜だったもんねぇ。
まだまだやることはあるけど、私はちょっと休憩のつもりでコーヒーを入れる。
「やっぱりキミがいれてくれたコーヒーにはかなわないなぁ」そう思いながらコーヒーを口に含んでいると、まだ眠そうに目が半分以上閉じた状態のキミが起きてきた。
「おはよう、俺にもちょうだい。」
「いいけど、キミがいれてくれるコーヒーに比べると美味しくないよ?」
いいの、君がいれてくれたコーヒーが飲みたいの、なんて言われて少し嬉しくなる。
私たち結婚して何年だよ、ラブラブすぎるよ。

 

20年後43歳。
相変わらず朝は忙しい。
子供たちはもう高校生と中学生になった。
朝練で朝は早いし、子供が家を出る前にお弁当も用意しなきゃならない。
成長に感謝しつつ、まだまだ手はかかりそうだなぁと思う。
「卵焼きと〜から揚げと〜ポテトサラダと〜」と言いながらバタバタしていると支度を終えたキミが起きてくる。
忙しそうな私を見て子供たちに朝食を作ってくれる。
フレンチトーストとコーヒー。う〜ん、いい匂い、私も食べたいよう。
子供たちも「お父さんのコーヒーとご飯美味しい!」って言ってるし、私も早く食べたい。
子供たちを送り出した後、食べたがっているのに気づいてくれていたのか私にも作ってくれた。
「やっぱりキミの作るご飯は美味しいね。」
「コーヒーだって美味しいでしょ?」
「うん、キミのコーヒーが一番美味しい。」
そうでしょ?って言ってキミは笑う。
何年も見てきているけど、その笑顔が今でも大好き。

 

30年後53歳。
子供たちが独り立ちをし、家にはキミと私の二人に戻った。
寂しいような嬉しいような・・・。
キミはどう思っているかな?
子供たちは「お父さんのコーヒーが飲みたい」とたまに帰省してくる。
お父さんのコーヒー美味しいもんね、とちょっと嫉妬する私。
そんな私たちの朝のコーヒーブレイクは相変わらず続いている。
コーヒーはからなずキミがいれてくれる。
私が入れたコーヒーそんなにまずい?入れる人によってそんなに変わるもの?
と不機嫌な私にキミは
「君の作るコーヒーはまずくはないけど美味しくもない。」
とはっきり言う。
もう決めた。
「一生君にコーヒー入れてもらう。」
はは、大袈裟だな君は。とか言いつつ嬉しそうな顔をしてるじゃん。
私決めたからね、絶対一生入れてもらうもん!

 

40年後63歳。
キミは相変わらず仕事が好きでパソコンに向かっている。
朝が弱い私に、
「やっと起きたか、おはよう。コーヒーいれようか?」
と聞いてくる。
お願いしま〜す。と言いながら朝食の準備に取り掛かる。
キミはもう朝食を食べたらしい。
起こしてくれてもいいのに。
今日の朝食はずっと食べたかった、たまごドーナツ。
大好きなんだよね、たまごドーナツ。
若い頃なんて毎日食べてたもん。

 

50年後73歳。
おぼつかない手つきでコーヒーを入れるじいちゃんとばあちゃん。
私とキミ。
あれから私はキミにコーヒーを入れる特訓をしてもらった。
やっぱりまだキミのコーヒーにはかなわないけど、おいしくなったと思う。
「ねぇねぇ、天気がいいからこの後散歩にでもいかない?」
と誘う私に、
「そのまま温泉にでも行こうか」
と乗ってくるキミ。
何年たってもキミと私は変わらないね。
こののんびりとしたいごごちのよさはキミと私特有だ。
コーヒーを飲みながら今日という日に期待する。

 

60年後83歳。
さすがに自分たちでコーヒーを入れることも少なくなってきた。
病院がない日には自分たちでコーヒーを入れているけど、病院の日は近くの喫茶店へ行くようになった。
二人仲良く通院した後、喫茶店で今日の夕飯は何にするかを話しあっている。
若い頃キミがあれだけ好きだったラーメンはとっくの昔に候補に上がらなくなった。
最近はもっぱら
「酢飯が食べたい」
とキミは主張してくる。
私はきのこたっぷりの雑炊が食べたい。
コーヒーの香りに包まれながら老人2人が夕飯のメニューについて争っている姿は微笑ましいという言葉そのものだと思う。
店員さんの
「コーヒーお待たせしました〜」
という言葉で少し落ち着く老人2人。

 

70年後93歳。
もはやコーヒーは体にいいのかどうか分からない。
相変わらず二人が元気な日にはコーヒーをいれている。
はい、これ。どうもどうも、じゃあ、はい。
と二人の息はピッタリだ。
そりゃもう何十年も一緒にいるからそんなの当たり前なのかもしれないけど、そういうちょっとしたことが嬉しい。
むしろ何十年も一緒にいることが嬉しい。
こんな調子で二人ともコーヒーを飲みながらそれぞれ好きなことをしている。
キミは読書。
私は裁縫。
コーヒーに包まれながら、お互いを包んでいるような気分だなぁ。

コーヒーのいい匂い。
あ〜あ、コーヒーと一緒にケーキが食べたくなってきたなぁ。

 

ここで妄想は突然終わる。
23歳のキミがケーキを持ってきてくれたからだ。
「本当に君は甘いものが好きだねぇ、太るよ〜」
「しょうがないじゃん、好きなんだもん。」
はい、とケーキ渡してくれる君にありがとう、と不満げにお礼を言う。
「いつまでも一緒にコーヒー飲める中でいたいね。」
「朝食とかでさ、食パンと一緒にコーヒー飲みたいね。」
そんな話をしながら、いつかこの妄想が実現すればいいなぁと思った。
その後も他愛もない話をしながら、私たちはケーキと一緒にコーヒーを楽しんだ。”

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