僕はコーヒーが飲めません

今、家の近所のとあるカフェでこの記事を書いています。
いわゆるチェーン店ではありません。街の小さなカフェです。

カウンター8席、テーブル席が4つ。
深い茶色のレンガの壁、南に向いた大きな窓からは
夜の帳が降りる直前の薄暗い空が広がっているのが見えます。

観葉植物が何鉢か置いてあり、店主の趣味でしょうか、古いレコードが数十枚カウンターの後ろに並んでいます。

カウンターの隅のオーディオから流れる女性ヴォーカルのスロウなジャズナンバー。

僕の席の隣では、おそらく仕事帰りに立ち寄ったのでしょう。スーツ姿の50歳くらいの男性が、ホットコーヒーを飲みながらスポーツ紙に目を通しています。

その香りが僕の鼻先をふっとかすめるたびに、
僕は深く息を吸い込み

「ああ、落ち着く良い香りだなぁ」と

心から思うのです。
そして、無性に寂しくなるのです。

僕の目の前には、
少し冷めかけたミルクティーが置かれています。

僕はコーヒーが飲めません。

「嫌い」ではないのです。
「飲めない」のです。

いや、そうではないです。
「飲まない方がいい」んです。

僕は小さい頃から毎朝パンとコーヒーでした。
中学2年生の頃から、僕の顔にはいわゆる青春の象徴、
「ニキビ」が大輪の花を咲かせていました。

その頃はしょうがないと諦めていました。
風呂上がりに鏡を見てはため息をつき、そんな赤ら顔の自分に自信が持てず、彼女なんかも到底出来ることもなく、高校までなんとどんよりとした生活だったことか。

そんな僕も大学に進み、実家を離れ一人暮しを始めます。

大学に入ってからは、多くの学生と同じように朝ごはんなど食べずに授業に出て、朝ごはんだか昼ごはんだかわからないくらいの時間に菓子パンを頬張る程度。
飲み物も適当です。

そうこうしているうちに、顔の「ニキビ」が急激に減っていきました。
あ、やっとそういう時期が来たのかなと喜んでいました。

しかし、ゴールデンウィークや夏休みに帰省をする度にその大輪はまた花を咲かせるのです。
そしてまた一人暮らしの部屋に戻ると減っていく、
そんなことを1年くらい繰り返したくらいから、何かおかしい。。。

そう思った僕は色々試しました。

そしてとうとう行きついたのが、

「コーヒー」でした。

コーヒーを飲むと、顔に「ニキビ」が出るのです。
コーヒー牛乳もしっかり反応してくれます。
ある時、パフェに入っていたコーヒーゼリーを
知らずに食べたところ、さすがにニキビまでにはならなかったものの顔に赤みが差してしまいました。

職業柄、打ち合わせでコーヒーを出してもらうことも多いのですが、せっかく出してもらったのに

僕:「すいません、飲めないんです」
担当者:「あ、そうなんですね。なんでまた?」
と理由をいちいち説明しなければならない煩わしさ。
(まあ、これで話題の一つになる、というのはありがたいんですけどね。。)

僕は甘党なので、ケーキも好きなのですが、飾り付けにコーヒーパウダーが少しでもかかってるとダメ。
生地をコーヒーに浸したティラミスなんか持っての他です。

ケーキ屋さんで
僕:「このケーキ、コーヒー入ってますか?」
店員さん:「え?」
というやりとりの気まずさといったらもう。。。
特に可愛い女性の店員さんだと、コーヒーを飲んでいないのに顔が真っ赤です。

このことに気づいてから、
もう何年になるでしょうか。
一切「コーヒー」を口にしていません。

一度、病院でも聞いたことがあります。
いわゆる「コーヒーアレルギー」。。。

飲むとすぐではないのですが、気分が悪くなるなどの症状。
ひどい時は頭痛、蕁麻疹、手足のしびれなどが出るようです。
神様はなんとむごい仕打ちをしてくれたのか。。。。
もしかしたら、前世はコーヒー農場で働いていて、
そこで悪さでもしたのでしょうか?

でも、香りは大好きなのです。

街で大手カフェの前を通るたびに、立ち止まり大きく息を吸い込み、友人らとカフェに行けば、いい香りだなぁ、と思いながらも
紅茶を注文する。

「コーヒー」は僕にとって
憧れの飲み物です。

コーヒーを飲める方々のどんなに羨ましいことか。
寒い冬、自動販売機で温かいコーヒーを買って
ぐいっと一口。
自然と出る

「ほーっ」

という温かい溜息。

静かな喫茶店に入り、席に着いた途端に
店員さんに向かって
「ホット」。

その一言で全てが了解され、店員はコクリと頷き、カウンターに向かい、席では新聞を広げる音だけが空気を震わす。
そして何事もなかったのように再び訪れる静かな空間。

そのカッコよさといったら。

もし松田優作がコーヒー飲めなかったら、映画界は変わっていたのだろうと
勝手なイメージをしてしまいます。

あの琥珀色のなんと魅惑的なことか。
もし、僕がそれを口に含み、鼻に抜ける芳醇な香りを楽しみ、喉を鳴らして、胃の中に落とし込むことができたなら。

ああ、
「コーヒー」
「珈琲」
「こーひー」

どんなに幸せな気分になるのだろう。

そんなことを夢見ています。

あ、隣の男性はどうもお帰りのようです。

さて、今日もミルクティーのお代わりをしようかな。

「マスター!
ミルクティー」

やっぱり、カッコつかないなぁ。。。。

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