君の隣は居心地良かったです

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「君の隣は居心地良かったです」
大好きな映画の主人公の台詞である。もう何回観たことだろうか。
この主人公は不器用でなかなか自分をうまく表現出来ない。しかし周りの気づかない彼の良さをヒロインだけはちゃんと心得ているのだ。そしてお互いに惹かれあっていく。
私はもう結婚して5年になり可愛い男の子にも恵まれた。この映画は大学生の頃に当時の彼氏、つまり今の旦那様だが二人で観に行った。初めて二人で観に行った映画だった。
私は当時この映画を観に行くことに気が進まなかった。当時は【泣ける映画】が流行っており、少々捻くれ者の私はそんな商業的な涙流したくないわ!などと彼に悪態をついていたが本音は彼が映画のヒロインの大ファンであったことに若干の嫉妬をしていた。まあ、映画のヒロインと張り合っても仕方ないのだけれども…そんなことはカッコ悪くて言えない。私も不器用な人間なのだ。渋々ながら彼についていく形で映画を観に行った。
結果は…共に号泣。
私たちは映画に行くと終わった後にカフェで感想を言い合う。
吉祥寺のあのカフェ…何て名前だったかなぁ。今も続いているのだろうか?軽やかな酸味の後に甘さのあるオリジナルブレンドが二人の定番であった。

 

このカフェはサイフォンでコーヒーを抽出してくれる。
二人でカウンターに座りアルコールランプの青い炎がゆらゆら揺れているのをながめながらゆっくりとコーヒーが淹れられるのを待つ時間が好きだった。

 

フラスコのお湯が沸騰するとお湯が濾過器を通りロートの方に上昇する。

 

マスターが慣れた手さばきでロートのお湯とコーヒー粉を竹ヘラで混ぜ合わせる。

 

アルコールランプの炎をフラスコから離すとロートから濾過器を通ってフラスコへコーヒーが抽出される。
もともと彼の行きつけのカフェ連れて来てもらい初めてサイフォンコーヒーを知った。アルコールランプの炎がなんだか二人を灯すキャンドルのようで私はサイフォンコーヒーにはまった。
砂糖やミルクは入れない。お互い妙にこだわりの強いタイプであった。そんなところがウマが合ったのかもしれない。コーヒーはブラックに限る。

 

彼は「商業的に泣かされてるじゃん♪」といたずらっ子のようにからかってきた。
商業的だろうがこの涙は私の中の弦に触れ流れたものだ。この涙は私のものだ。だから泣いてもいいのだ。などとよく分からない言い訳をしながら、照れ隠しでコーヒーカップを口に運んだ。このコーヒーはいつもよりちと、しょっぱい…。
私がコーヒーを置いた後に彼はクスリと笑いながら
「君の隣は居心地が良かったです。これからもよろしく」

また私の中の弦が震えた。これ以上、コーヒーをしょっぱくしないで欲しい…。

 

あれから10年経った今でもたまにこの映画を二人で観ます。

 

この映画を二人で観ると今ではお母さん、お父さんと呼び合うことが増えたけれどもあの頃の彼氏彼女だった二人に戻れるような気がします。

あの頃の二人に今、会いにゆきます。

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