好きなこと。嫌いなこと。

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私は毎日コーヒーを飲んでいます。朝起きて飲み、夕食後に飲むという、ほぼ習慣化してしまったこの一日の流れは、学生時代に付き合っていた相手の影響でもあるのです。
高校時代は、受験勉強の眠気覚ましに飲む程度でした。大学生になり、好きになった相手がとてもコーヒーが好きな人だったのです。田舎から出てきた私は、そのおしゃれな彼の、おしゃれな習慣を自分に取り入れることから始めました。苦いコーヒーをブラックで飲むことなんてしたことなかったのに、その人が好きなものと聞けばなんだか美味しく感じられたものです。単純ですね。苦いコーヒーを我慢して飲んでいるうちに、その苦さすら好きになっていってしまいました。なんだか恋の仕方と似ているような気がします。本当は「恋をしよう」としてするのではなく「恋は落ちるもの」がいいな、なんて今では思いますが。

 
そして好きなものの話が合う二人はほどなくして付き合いようになったのです。
彼の家に遊びに行くたびにおいしいコーヒーを淹れてもらいました。豆を自分で買ってきて、荒めに挽く。紙のフィルターだとコーヒー豆の油がとられてしまうからおいしくないと言って、金属のフィルターを使う本格的なものでした。「紙より、エコでしょ?」なんて笑うところがほんとうに好きでした。

 
淹れてもらったコーヒーは、いつも飲んでいたものと格段に違っておいしく感じたのです。紙に吸収されることもなく、ダイレクトにコーヒーの成分が味わえるのだとその時初めて知りました。「ほんのちょっとの酸味と、深い苦さが好き」という彼の好みに合わせて私のコーヒーの好みも変わるほど、彼にのめり込んでしまいました。自分じゃなく、人に淹れてもらったコーヒーっておいしいなと思うようになったのも彼のおかげです。だから今も、家に人を招いた最初の飲み物は、(相手の好みを聞いてからですが)コーヒーをお出しするのが私のおもてなしです。

 
服装も、趣味もオシャレで、いつも某コーヒー店のカップを持って待ち合わせに現れる彼。そんな彼だからバイト代もすぐに無くなって、友人にお金を借りていることが発覚した付き合って2年目の夏でした。友人に借金をしてまで、自分の趣味をこだわりにお金を費やしていた彼。そんな人と長く付き合っていても、幸せになんてなれないと思った私は、泣く泣くお別れをしたのです。私たちは好きなものは一緒でも、してはいけない「嫌なこと」の価値観が違いすぎたのです。本当に大好きな彼だったので、別れた後も友人から近況を聞いていましたが、今もオシャレな一人独身生活をエンジョイしているようです。私にとって、とっても甘くてほろ苦い恋愛の記憶になりました。

 
そして月日が経って、社会人になる前に付き合い始めた彼は、まったくコーヒーに興味のない人でした。某チェーン店のコーヒーは高いし、居心地が悪いと言って缶コーヒーを立ち飲みするような人でした。コーヒーを淹れても、まずブラックを味わわずにシュガーとミルクとどっぷり加えて飲む彼。そんな仕草に最初はげんなりしていた私でしたが(笑)、服装や趣味で気取らない人柄がどんどん好きになりました。

 
社会人になり、遠距離恋愛をすることになった私たちは、お互いを見送るときは新幹線の駅まで見送りをします。名残惜しいけれども、次の日はお互い仕事なので早めに帰らなければなりません。ちょっと早めについた駅で、時間をつぶすのにいつもコーヒーショップに入って、旅行をした思い出や話をして出発を待ちます。どんどん過ぎていく時間と、冷めていくコーヒー・・・冷え性であるのと、薄まったコーヒーが嫌いな私は夏でもホットコーヒーを頼みますが、彼は相変わらず「喉がカラカラだからアイスコーヒー」という感じ。私色には染まりませんね(笑)

 

そんな彼は今では夫です。甘いものを食べるときに一緒にコーヒーを飲む程度の相手ですが、無駄遣いする趣味もなく優しい夫です。許せないことや嫌いなものが一緒な夫なので、お互い嫌なことをせずにすみます。好きなことが違うなら教えてあげて一緒に楽しめるようになればいいですしね。

 
好きなことが一緒な人よりも、嫌いなことが一緒の人の方が一緒に居て楽だし、居心地が良いと学んだ私の青春時代でした。

 

ところで私は読書をよくするのですが、やはりお供はコーヒーなのです。冷たい飲み物が苦手ですが、冷めたコーヒーは好きなのでいつもホットコーヒーを淹れています。家でのんびりと読むのも好きですが、暖かい日はコーヒーをテイクアウトして公園やベンチで読むのも好きです。寒い日はもちろんコーヒーショップで楽しむのですが、コーヒーの香りってなんであんなに良い香りなのでしょう。枕に詰めたいくらいです。

 

アロマオイルでもコーヒーの香りってないのが不思議なくらいです。家で飲むよりもコーヒーの香りが充満していて、誰も急いでいる人がいないゆっくりとした店内の雰囲気が好きで、よくフラッと立ち寄ったりもします。本を読んでいる人、ぼーっとしている人、女性同士でおしゃべりに花を咲かせている人たち、恋人同士とくに話すこともなく各々の時間を楽しむ人たち。それぞれの好きな時間の過ごし方の中に、「コーヒーを飲む」という共通事項がある。他の人をじろじろして観察するのはいかがなものかと思いますが、好きなものが共通している人たちが同じ空間に居合わせるってなんだか素敵だなと思うのです。

 
たまにはミルクたっぷりのまろやかなコーヒー、甘くしてリラックスした時間を楽しむのもよい、苦めのコーヒーで眠気覚ましに飲む人もいるでしょう。それぞれに楽しみ方が違ってくるのがコーヒーの楽しみ方でもあります。

 
私と同じように、コーヒーを飲むことで思い出す人や、思い出す場所なんかがある人はたくさんいると思います。いつか一人になってぼんやりとコーヒーを飲んでいるとき・・・たくさんの人が思い浮かぶような人生が送れたらいいなと思っています。そんなことを書いている今も、ひとりせっせとコーヒーを飲みながらPCに向かう日常です。

 

今日はどのコーヒーにしようかな。コーヒーのお供は何がいいかな、と考えて買物して来たとっておきのおいしいチョコレートは食後の楽しみにおこうっと。

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