帰ってくる静かな時間

まだ妻と結婚する前の話なので、二十数年前の話になります。


ちょうど同じ職場に同じ時期に赴任した妻と、いつからか付き合うようになりました。

付き合うといっても、休みの日にいっしょに本屋へ行って仕事関係の本や自分の好きな本を探したり、神戸の中心地にある商業施設をぶらぶらしたりするのがほとんどでした。たまに遠出はするものの、ほとんどが地元での「ぶらぶら歩き」でした。
そんな中、コーヒー好きな妻に教えてもらったのが様々な「喫茶店」でした。「喫茶店」と言うより「コーヒー専門店」と言った方がいいのかもしれません。
それまでは、一人で喫茶店やコーヒー専門店などに入ることなどありませんでした。コーヒーも別にこだわりはなく、缶コーヒーを持って公園のベンチでお日様に当たりながら、周りの木々や公園で遊んでいる人たちを見ている方が多かったような私にとって、「コーヒー専門店」はびっくりするほど「雰囲気のある店」に思えました。
邪魔にならない程度にかかっているクラシックかジャズ、店の大半が一枚ものの木でできたカウンター。

そこに座り、壁一面に並べられた様々な模様や形のコーヒーカップを眺めながら店主がアルコールランプを使ってコーヒーを入れるのをぼんやりと二人で見ている・・・。そして出来上がったコーヒーが目の前に置かれ、湯気の中でコーヒーのいい香りを感じながらそっと一口。
今まではあまりコーヒーの味や香りなどにむとんちゃくだったけれども、「コーヒー専門店」でちゃんと目の前でいれてくれる「本格的なコーヒー」には本当にさまざまな味や香りの違いがあることに初めて気づかされました。
神戸は洋菓子やパンで有名な街になっているせいか、街のあちこちにちょっとしゃれた「コーヒー専門店」があります。店の作りは似たような感じなのですが、それぞれのお店で「コップ」にこだわりがあったり、「自分の店だけのブレンド」と言うものを持っているようで、毎回二人で出かけて買い物をした後、今まで入ったことのないコーヒー屋を探してはコーヒーを飲み、その店の雰囲気も一緒に味わっていました。
普通の喫茶店のように大騒ぎすることもなく、二人でただコーヒーができるのを目の前で見て、出してもらったコーヒーをゆっくり楽しむ、たったそれだけの時間でした。特に何という事のないおしゃべりで間を埋め、後はコーヒーを楽しみ、またその時の想いをそれぞれに話してる・・・。

本当に静かな時間だけが過ぎていくような「デート」でした。
結婚して子供ができ、子育てに追われる頃にはもっぱら家でコーヒーを飲む、しかもそれも最初は挽いた豆をドリップしていたのも、最近ではすっかりインスタントになってしまいました。
子供たちが私たちの手を離れ、二人だけの時間がたくさん持てるようになったら、また「コーヒー専門店」を巡り、あの頃のようにコーヒーの香りと素敵な音楽が流れる「静かな時間」を二人して共有したいものだと、炬燵でインスタントコーヒーを飲みながら妻と話す今日この頃です。

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