忘れられない初恋はあのコーヒーショップから始まった

僕は、なぜか東京にいました。
東京は、意外に寒く雪もすこしだけ降っていてスニーカーが濡れ靴下がびちょびちょに・・・

「何のために東京に出てきたのだろう」
僕は、高校を卒業して大学に進学をするために上京しました。
2月に私立大学の入学試験が始まります。僕は5校受けたので10日間くらい東京のビジネスホテルに泊まりました。
初めての1人での東京・・・
「不安しかない。でもこれを突破しないと未来はない」
というような心持ちでした。

そんな不安な気持ちの中、無事に試験も終わり地元に帰り、合否の結果を家で待っていました。

結果、「すべて不合格」

もう終わった・・・。どうしよう。

とにかく浪人を親にお願いをするしかない。
両親に頭を下げ1年間だけ認めてもらいました。
しかも、夏の夏期講習から東京の大手予備校で浪人生活をさせてもらえる流れとなり、
暑い夏の中、東京の小さなアパートに引越しをしました。

東京の夏は蒸し暑い。話は聞いていましたが思っていた以上でした。
僕には何の理由もなく最寄の駅前の噴水のところに行く癖がついていました。

 

駅前のスーパーと本屋、飲食店が入ったショッピングセンターの1階に誰もが知っているチェーン店のコーヒーショップがありました。
僕は、そこでアイスコーヒーを買って噴水の前の喫煙所で煙草を吸うという習慣もいつのまにか覚えました。

毎日、予備校の帰りにそのコーヒーショップに寄り、噴水の前の喫煙所に行く。

これは僕の中で安定した週間で寂しい東京の夜の一時の安らぎでした。

そのような日々を淡々と暮らし、再度大学受験シーズンがやってきて、5校程受験しました。
今回は無事志望校に受かり、なんとか東京生活の続きができる環境が整いました。

大学生といえば何でしょうか。何をするのでしょうか。

”バイト”

数日前までの不安な気持ちがどこかへ吹っ飛び、お金を稼いで遊びたいという気持ちしか頭の中にありません。

「よし、タウンワークを見て応募しよう」

まだ大学入学前です。

近所のコンビニに行って缶ビールとおつまみの購入、そして無料のタウンワークを取り家に帰りました。

さっそく缶ビールを飲みながらタウンワークを見ていると、浪人生活で毎日通っていたコーヒーショップがアルバイトを募集していました。

「これは確実に運命だ」

実は、そのコーヒーショップには1人ものすごい綺麗な子が働いており、その子目当てで通っていたという”オチ”がここであります。

すぐに求人広告に記載の電話番号に電話をし、後日面接の段取りまで終えました。

「よし、とりあえずそこで働いてその子と仲良くなりあわよくば付き合いたい」

そんな気持ちで頭も胸もいっぱいいっぱいです。
18歳の男子、アルバイトも初めての癖に、根拠なき自信だけがあり、
緊張せず面接も無事終え、採用が決まりました。

さっそく出勤初日を店長と決め、数日後に初出勤をすることになりました。

「数日がある」

その間に偵察に行こうと考えました。
現役で東京の大学に進学した地元の友人と一緒にです。

「初出勤日までにスタッフがどんな風に働いているのかを知りたい。」

このモチベーションの所以は、あの子に好かれたい、仕事ができないと思われたくない。
というところからきていました。

合計3日ほど友人に付き合ってもらい、無事偵察は終了です。
待ちに待った初出勤日を迎え、午後5時頃にお店に行きました。

店長に小さなスタッフルームに通され、そこで少し待機するよう命じられました。
人生ではじめて仕事で指示を受けたなと馬鹿みたいなことを思いながら椅子に座っていました。

約3分後くらいにドアがノックされました。
「誰だろ、バイトの先輩かな・・・。挨拶とかちゃんとしないと」

と思って振り向くと何とあの子(ずっと狙っていた綺麗な子)でした。
「はじめましてぇ。今日からですか?よろしく。」

「は、はい、よろしくお願いします・・・・」
面接のときの根拠なき自信はどこに行ったのか、頭の中が真っ白で何も言えない状況に陥りました。

そんな僕に気を遣ってくれたのか、
「何歳? どこの大学?」

質問をしてくれ、僕は

「18歳です、○○大学です」

という聞かれたことをただ答えるばかり。

その子は、15分休憩らしく携帯電話をいじりながら僕に話しかけてくれました。

「なんて僕はアホなんだ」
「僕からも何か質問したりするだろ、普通」

と心で思いながら無言で店長を待ちました。

その子は15分休憩が終わり次第、すぐにお店に戻りました。

この間、これまでに感じたことのない長い時間であり、ある意味短い時間かもしれません。

僕は、店長に業務内容の説明を座学で聞いているときには既に気持ちはどこか遠くに行っていました。
初出勤はそんな感じで終了し、その場から早く去りたい気持ちが何よりも優先し、そして何よりもあの子のことを考えていました。

4月になり、大学の入学式も終え、翌日からオリエンテーションが開始します。
もちろん、知り合いもいないキャンパスライフの初日です。

僕の気持ちの中で、浪人までして入った大学よりもあの駅前のコーヒーショップのアルバイトの方が大切だという
自分でも何を考えているのかわからない思いになっていました。

 

普通、大学で新しい友人を作りたいとか、どんなサークルに入ろうかとか、
あのコーヒーショップでアルバイトを始める前の気持ちにどうしても戻らず、
誰とも会話せず、ただ大きな教室に1人で座って教授の話を聞いて、終わればすぐに帰宅するという、
僕が思っていたキャンパスライフからはかけ離れた生活をしばらく送っていました。

 

同時に週に3日ほどコーヒーショップでアルバイトをする生活が始まり、そこが生活の中心になりました。
1年生は教養科目を主に履修し、1限目から語学もありましたが、そんなのはどうでもよかったのです。ただ単位を落とさなければ良いと・・・

僕は何よりもあの子と一緒のシフトに入りたかったのです。
そのためにシフトの提出は最後にしていました。
なぜならあの子のシフトを見て、その後にそのシフトと同じ日にシフトに入るようにしなければならなかったからです。
しかし、すべての日を同じにするとあの子にばれてしまう恐れがあったので、そこはちょと違う日もシフトに入れカモフラージュしていました。

「お前、アホだね」

地元の友人にあの子のことを相談するといつも言われていました。

「そんな地味なことせずに飲みにでも誘えよ」

確かに、友人の言うとおり、そのような気持ちの悪いこと、ストーカーのようなことをせず、
堂々と接し、デートに誘えばいいのです。
そんなことは僕の頭でもわかっていることで、いちいち言われなくてもいいというような
気持ちになっていました。
もう9月です。相変わらず大学には誰一人友人がいません。
皆、オリエンテーションや語学の授業等自分のクラス、サークルなどで友人をたくさん作っていました。

「そろそろ大学を中心の生活にしないとな」

薄々、自分の心の中にそのような気持ちが芽生えてきていました。

「よし、どこかサークルに入ろう」

とりあえず、入学したときに貰った大学公認のサークルが載っている冊子を見て、
適当に良さそうなサークルを見つけコンタクトを取ろうと思いました。
”広告学研究会”
「広告を研究するの?」

よくわからないサークルでしたが、そこのサイトに載っている人(合宿等)が良さそうな方ばかりだったので
そこに電話してみました。

女性の部長らしい人とアポを取って、そのサークルの毎週木曜に開催している会議を見学することにしました。
その会議が終わり、なぜか飲み会まで連れて行かれて、同じ学年の人ともなぜか打ち解けてそのサークルに正式に加入することになりました。
無事、大学にも友人、先輩ができ楽しいキャンパスライフが始まったと気持ちが高ぶっている時期でした。
それと同時期に、アルバイト先のコーヒーショップの飲み会が開催され、僕も当然ながら参加しました。

もちろんあの子も参加しています。
居酒屋の大きめの個室でアルバイトスタッフが全員集まっての飲み会です。

実はこのときが初めてのバイト先での飲み会の参加で、もちろんあの子ともプライベートで初めて接する機会でした。

そこで年上の先輩が、あの子に
「今って誰かと付き合ってるの?」

と飲み会の中盤辺りで聞いたのです。

僕は、いつの時間よりも集中して耳を傾けていました。無意識に。
すると、「うん、この前、大学のサークルの人と付き合い始めたばかり」
という僕にとっては死刑宣告に等しい返答が返ってきたのです。
「終わった。糸辺に冬だわ・・・」

高校3年生の冬に受けた大学全て落ちたときよりもきつい気持ちになりました。
もうそれを聞いた後は、飲み会なんかどうでもよくなり、早く時間が過ぎ去ることばかり考えていました。
飲み会も終わり、あまりあの子ともしゃべらず、家までトボトボ歩いて帰っていきました。
そのときのことは今でも脳裏に焼きついて離れません。

帰宅途中、1人大きな声で独り言をわめきながら帰っていたのです。人目も気にせず。
もう僕は28歳です。

その街は、8年前に去り今は都内の真逆の地域に住んでいます。

去ってからは一度もその街に訪れていません。
あの駅前の噴水が懐かしく、そして寂しく。

あの子は今何をしているのでしょうか。
誰かと結婚をして、子供がいるのでしょうか。

私は、相変わらず1人です。

大学卒業後、普通のサラリーマンとして働いています。
そのコーヒーショップは都内の至る場所にあり、今でも利用します。
しかし、あの子以上の店員に会ったことはないと記憶しています。
僕の最初の恋は、あのコーヒーショップのあの子でした。
これからもその苦い思い出は変わることがない、一生自分の心の中にある。

これは辛いことでしょうか。それとも淡い思い出でしょうか。

私は、今、1人であのコーヒーショップの喫煙席でこれを書いています。

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