恋が成就する不思議なコーヒー

私は当時社会人2年目。大学を卒業して就職し、右も左も分からない状態ながらそれでもなんとか日々をこなしていました。

 

そんな私の携帯に一通のメールが届きました。
その内容は
「今日帰る。明日店に来い」
わずか11文字のメールが、その人の人柄を表してました。
それは私の大学時代の先輩からのメールでした。とはいえ、彼女は私が大学に入学した時には既に中退しており、近くのカフェで働いていたのです。私が所属していたサークルの先輩だった彼女。相性が良かったのか、すぐに仲良くなりました。
私にとって、その先輩は忘れることの出来ない人でした。その理由は2つ。
1つはド派手な見た目。派手なプラチナブロンドのロングヘアー。露出の多いファッション。「カフェで働いている」と言っても誰も信じないでしょう。「夜の街で派手に稼いでます!」と言ったほうが、納得のそのファッションセンス。

そして忘れられない理由がもう一つ。私は大学時代に、同期の女性に対してを恋をしていたのです。その子への想いを成就させるためにはどうすればいいのか・・私はいつも先輩に相談していました。しかし、先輩は、彼女に恋人がいることを知り、成就がありえないことを、私より先に知るのです。
私が奥手であることをも知っていた先輩は、私を吹っ切れさせるために、無理矢理告白をさせ、案の定、玉砕。そんな傷心の私を残して、先輩はコーヒーの勉強のためイタリアへ。
実に4年ぶりの帰国でした。
翌日、久しぶりに行く表参道のカフェ。先輩が日本を離れてからは、私の足が店に向くことは殆どありませんでした。
中に入ってみると、以前と変わらないレトロな雰囲気。私がいつも座っていたカウンターの端の席。そこに座って注文しようとしたその時。目の前の女性が一言。

「遅い!!」

誰だ?と思い、その女性の顔をみると、私を無理矢理失恋させた、あの先輩でした。
先輩は変わっていました。ド派手なプラチナブロンドは美しい黒髪に。派手なメイクも、実にさっぱりとしたスッピン風メイクへ・・・。同一人物とは思えませんでした。

 

「何があったんですか?」

久しぶりに会った2人。互いの第一声は文句と質問。「久しぶりですね」なんていう言葉が出てこないところは私達らしかったかもしれません。

「私だっていつまでも子供じゃないの!あんたも大人になったみたいだね!やっぱり失恋を経験させた私のおかげ?」

相変わらずデリカシーのかけらもない一言・・・。人の痛いところをついて何が面白いのか・・。

「はい!どうぞ!」

まだ注文してないっスよ!!と言うと先輩が強引な一言。

「これを飲め」

・・・・。無言で一口・・。美味い・・・。
以前のコーヒーとは確かに違いました。とても美味しいコーヒー・・。それでも忘れることの出来ない懐かしいような、そんな味。

「先輩の味ですね。美味しいです」

それに対して不敵に笑う先輩。

「ヘッヘッヘ♪」

すると彼女は身を乗り出して私に言うのです。まるで悪巧みを打ち明けるガキ大将のよう・・・。容姿が変わってもコーヒーの味が変わっても、こういうところは何も変わらない。

「ねぇ。『飲むと恋が成就するコーヒー』なんて素敵だと思わない?」

「は??」

「だから!私のコーヒー飲んだ人の恋が成就したら、面白いと思わない?って聞いてんの!」

まぁ、本当に成就するなら素敵です。でも、私、あなたのコーヒー飲みながら告白して、失恋しましたけど・・・。と、喉まで出かかってやめる私。そんなことを言ったら、また屁理屈こねまくって1~2時間を無駄にするのは目に見えていました。

「あの~・・・・。嫌な予感しかしないんですけど・・・。何を企んでるんですか?」

私の言葉が耳に入っていないかのように、質問を無視する先輩。

「あんた、今好きな人っているの?」

やっぱり・・。と私は思いました。また私に告白させるつもりか!

「好きというか、気になる人は、同僚にいますけどね。」

ワザとぼかして応える私。あなたの考えなんてお見通しです!私に告白させて、成就したら、「告白が成功するコーヒー」って言いふらすつもりなんでしょ!しかも私を証人にして!そうはいきませんよ!!もうあなたの思い通りに告白なんてしません!
と思っていたら意外な一言。

「同僚?その恋はもう成就しないから諦めろ」

何を言ってるんだ?このねーちゃんは!!留学でデリカシーの無さにまで磨きをかけてきやがったのか?
ちょっとムカつく私。

「どういうことなんですか?」

それに対して長い髪を弄くりながら話す先輩。

「だってさ・・・。あんたのその告白、成功するかどうかわかんないじゃないの。確実に成功する人に対して告白してもらわないと、私のコーヒーに箔が付かないんだよね~」

先輩の言葉の意味がさっぱりわからない私。そして言葉を続ける先輩。

「とにかく!私、独立して店を出したいの!そのためにも帰国した私のコーヒーを最初に飲んだあんたには『確実に告白を成功』させてもらわないと困るわけよ!そこんとこよろしく!」

何を言っているのかさっぱり理解できない私。
確実に成功する告白?そんなもんがあるのか?結構派手に失恋・玉砕を経験した私には、先輩の言葉の意味がさっぱり理解できませんでした。

「それって・・・今のところ私にアプローチしてきている脈ありな女性に対して、逆に私から告白しろってことですか?」

精一杯、頭を働かせて先輩の意味不明な言葉を理解しようとする私。それに応えるデリカシーゼロな先輩。

「まぁ・・・そういうことね」

「そんな女はいませんよ」

実際その時、私にアプローチしてきている女性なんて、いませんでした。

「いや!!いる!!」

自信満々に断言する先輩。根拠があるんだか、それとも適当に言っているだけなのか・・・。この人は未だによくわからない・・。

「いるのよ!!あんたが気付いてないだけで!!いるのよ!!確かに!!」

どこのどいつだ?そんな女は私の周りにはいないぞ!それにもかかわらず自信満々な先輩。これはどういうことなのか?私は瞬時に考えを巡らせました。
これだけ自信満々ということは、おそらく先輩は、私に対して好意を持っている女性から何かしらの相談を受けていたのでしょう。
つまり、私と先輩の共通の知り合いと言う事になります。瞬時に私の頭に思い浮かんだ女性。それは4年前に私が玉砕した大学同期の女性。

「まさか・・・・あの子ですか?」

先輩に尋ねると、情け容赦無く私の考えを一蹴。

「アホか!!」

血も涙もないリアクションに打ちのめされる私。なんとか情報を引き出そうと食い下がります。

「じゃあ誰なんですか?」

私の質問に対してちょっと動揺する先輩。

「自分で考えなさいよ!いい?1週間以内に見つけ出して告れ!そうじゃないと私めちゃめちゃ困るのよ!」

あまりにも強引なその態度に困惑する私。それから「私に対して好意を持つ女性探し」という奇妙な調査が始まりました。
そんな人、本当にいるのか?大学時代のサークル関係者の女性に対して片っ端から電話をかけて「私のこと好きですか?」なんていう自惚れが過ぎる質問を連発する日々が続きました。
なぜこれほどまでに必死だったのか?その理由は言うまでもなく「失敗したら先輩に何を言われるかわかったものじゃないから」でした。
しかし、私に好意を持つ女性など見つからず、あれよあれよという間に、約束の1週間最後の日が来ました。
それまで、恐ろしさのあまり、先輩に対して経過報告をすることも出来ずにいた私。せめて何かもう一つだけでもヒントを・・・。そう思い、私は先輩の働くカフェへ。先輩の顔をみるのは1週間ぶり。
そこには憮然として私を睨みつける先輩・・・。そして私を一喝!

「アホ!まだ見つけられないなんて!あんたホントにどうかしてるんじゃないの?」

・・・・。この言葉を耳にした瞬間。私は理解しました。「私に好意を抱く女性が誰なのか?」を。しかし確信がもてませんでした。そこで、ちょっと探りを入れてみることに。

「いつからですか?そんな風に想い始めたのは?」

ちょっと驚く先輩。

「最後の日から・・。」

あっさり自白。最後の日とは、先輩がイタリアへ行く前に、最後に会ったあの日。つまり私が同期の女性に振られたあの日からという意味でした。
私に好意を持った女性。その女性を探している時、私は一度も先輩に経過を報告していませんでした。にも関わらず、私がその女性を見つけられていないと見抜いた先輩。ということは、先輩自身がその「好意を抱く女性」だということを意味していました。

「先輩、私に言った最後の言葉を覚えてますか?『今を全力で生きる』って言葉でした。今を全力で生きるなら、先輩から告ってもらわないと」

私の言葉を無視するようにコーヒーを差し出す先輩。
もちろん先輩から告白させるつもりはありませんでした。正直なところ、その時私には先輩に対して、異性への好意と言える感情はありませんでした。
しかし、ここまで来たら引き返せないだろう。行くしかないのだろうなぁ。なんて諦めにも近い想いがありました。

「コーヒー飲んだら言って・・・。」

いつも雄弁なのに、その時だけは借りてきた猫のような彼女。きっと「恋が成就するコーヒー」というお話は、彼女にとって精一杯の全力だったのでしょう。
無言でコーヒーを飲みながら、私と彼女の出会いを思い起こしていました。
ド派手なファッションで私の隣に座った彼女。同期の女性に恋をしていた私の心を見透かしたような初対面の男に対する失礼な第一声。

「あんた、あの娘のこと好きなんでしょ♪」

なんてデリカシーのない人なんだろうか・・・。そう思っていたあの日、まさかこの人と付き合うことになるとは夢にも思っていませんでした。
そして、先輩に告白する事になってしまったこの時、この人と将来結婚することになる事実についても想像していませんでした。
わざとゆっくりコーヒーを飲む私。それにイライラしてきた彼女。そろそろ言ってやるか。と思っていたら

「早く!!」

はいわかってますよ。コーヒーを飲み干して私は静かに一言。

「私と付き合ってください」

ニヤリと笑うその顔には、悪巧みが成功したかのような達成感が溢れていました。かなり強引な悪巧み。それに乗ってあげた私に感謝してくれるかと思いきや・・・。

「しょうがないなー。付き合ってやるよ♪」

この期に及んでその態度ですか!呆れる私に追撃のような一言。

「ね♪私のコーヒー飲むと、恋が成就するでしょ♪」

私の恋?あなたの恋じゃなくて?
腹の中に抱えた不満をいつものように飲み込み、笑顔で頷く私。
あなたわかってます?3年後にあなたと私の子供が産まれるんですよ。成長した子供に、私達の馴れ初めを尋ねられたら、なんと応えるつもりなの?

今、私の隣には、赤ん坊を抱く妻。産まれたばかりの娘はなんだか眠そう。

「私達の馴れ初め、この子にどう説明する?」

私の質問に対して、笑顔で応える彼女。

「恋が成就する不思議なコーヒーのお話をしてあげる。もちろん、あんたの恋が成就したって説明するから、そこんとこよろしく♪」

きっと、いつまでもこんな感じなんだろうなぁ。今の私には、妻に対しても娘に対しても、確たる愛情がありました。
無理矢理に告白させられたときは、どうしたものか・・と思いましたが。恋が成就するコーヒー・・・あのコーヒーがなかったら、娘も産まれ来てくれなかったのかな。

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