私とイタリアンローストと今

「イタリアンローストください。豆のままで大丈夫です」

仕事が終わり、途中の駅でスターバックスによって私はいつものコーヒー豆をスターバックスで購入した。
私の住む最寄り駅にも職場の最寄り駅にもスターバックスがなく、乗換駅でいったん降りて豆を買っている。

 

豆を買うたびに押してくれるスタンプの紙はもう何冊目だっけ・・・?

 

お会計をしながらふとそんなことを思いつつ新しくもう一枚もらったスタンプ台紙を財布にしまった。

 

間もなく30歳。

 

もう辛い思い出ではなくなっているけれど
このコーヒーを買うときにいつも同じ人が浮かぶ。
私がコーヒーを好きになったのは20歳になった歳だった。
それまでは完全に紅茶党。
かといってこだわっていれるわけでもなく、ティーパックにお湯をいれて放置。
気分で砂糖やミルクを入れる程度。
コーヒーを飲んでいなかった理由は「苦い」たったそれだけ。
飲むときは明らかに牛乳の方が割合たかくコーヒー牛乳ならぬ「牛乳コーヒー」だった。

 

そんなとき、私は恋をした。アルバイト先の塾の非常勤の先生。

 

決してイケメンではないけれど、面白くて明るくて
小学生にも中学生にも大人気。怒ると実はとっても怖い。授業は分かりやすくて超難関の中学受験の問題を
大人にも子供にも分かりやすく教える先生。
講師控室ではくだらない話でよく盛り上がってアルバイトの全員の顔と名前も覚えてる8歳上の先生。

 

歳の離れたお兄ちゃんみたいと思うこともあったけど気が付いたら、私は先生が好きになっていた。

 

夏休みの講習会の時期
どこかの生徒のお母さんから差し入れをもらった。
ペットボトルタイプのちょっと有名どころのアイスコーヒー。
連日、朝から夜まで色々な学年の授業が盛りだくさん
先生たちも運営スタッフも真夏なか常に時間に追われるような日々だった。
アルバイトの私も授業準備や教室看板の張り替え
体験入学の教材準備でアルバイトの割によく働いていたと思う(笑)

 

そこにちょっと良いアイスコーヒーの差し入れ
校長先生が「開けるっきゃないでしょ!!」といい
ちょうど昼休憩にはいるさなか、早々にその場にいた人に自らふるまってくれた。

 

「眠気にカフェインは大事ですね!」
「やっぱスーパーや缶で買うやつよりウマいっすわ!」
「ここのお店、豆かお店で出すだけだと思ってたけど、ギフト用でペットボトルもあるんですねー」

そんな会話が行き来した。
コーヒーを牛乳たっぷりでしか飲めない私にとっては大人の会話。

 

いいコーヒーなら飲もう!!

 

よく分からない理由でこのコーヒーを飲む決意をした私。
ちびちび飲む。
苦い
普段飲まないのだから味の違いなんかわかるはずもない。

 

その様子を見て、先生が言う。

 

「そんなちびちび飲まないでガーっと飲めよ~貧乏性か!(笑)」

 

周囲も私も思わず笑った。

 

「実はブラックコーヒーって苦手で…牛乳大量にれないと飲めないんですよ~」

と言うと先生はビックリ。
自称カフェイン中毒というぐらい自分がコーヒーが好きであること、私がコーヒーの味が分からなくなるぐらい牛乳がないとコーヒーが飲めないのは本当に美味しいコーヒーに出会ったことがないからだと熱く語られた。

 

「ここのこのペットボトルのコーヒーもうまい方だけど、本当にうまいコーヒーは入れたてだな!
飲めないなんてカワイソー」

そう言ってからかわれた。

 

翌日以降、私はアルバイトに行く前にスターバックスに寄った。
コーヒーというには違うかもしれないけれど「カフエモカ」を頼んだ。
コーヒーの気配をするもを自力でどこまで飲めるのか試したかったのだ。
そして、キャラメルラテやソイラテやらチャレンジする日々を送った。

 

私の家族がジュースや缶コーヒーを買わない家なので
コーヒーを飲む=家でインスタントコーヒーというイメージしかなかったのだが、意外と食わず嫌いならぬ飲まず嫌いだったようで
世にいう「コーヒー飲料の甘いやつ。ミルク多め」なら普通に飲めることがわかった。
可能ならチョコっ気が多いのが好き。
でもブラックコーヒーやカフェラテは飲めなかった。

 

半年がたった同じ講習会でも今度は春休み。
夏休みほどは忙しくないけれど生徒も先生も出入りの多い毎日だった。

 

ある日、バイトをあがろうとするときに先生に声をかけられた。
「あがりー?」
「はい」

「おれ、今から中途半端に3時間ぐらい空コマなんだ。時間あるならコーヒーのみにいかない?」

即答で行くと返事をした。
先生は車を持っていたのでコーヒーが美味しい喫茶店に連れて行ってくれることになった。
その間にブラックコーヒーのどこが苦手とかそういう話をしていた。

 

お店についた。
車がない私には行きにくい立地。
大きなフラスコみたいのものが横並びにいくつも置いてあるレトロな雰囲気の喫茶店。
お洒落というよりは、昔からの顔なじみや常連さんが来るような雰囲気のお店だった。

 

メニューを見たが私には難しい地域や酸味やコクについて色々書いてあるけれどイメージできない。
オーダーを聞きに一人しかいないオーナーっぽいおじさんが席に来た悩むひまもなく先生は、自分のものと私のものを決めておじさんに伝えた。

 

勝手に決められた!!と思っていると
「多分これなら飲めるんじゃないの?って思ったやつ頼んだから、ミルクも砂糖もなしで飲んでみて飲みにくかったらあとから足したらいいし、せっかくだからそのまま飲んでみなよ」と言われた。

 

出てきたコーヒーはすごくいい香りがした。
一口飲んで

おいしい!

そう思った。苦いけど、その苦みも含めて美味しかった。
先生は私の話を聞いて、私は酸味が極力ないものが好みだと察知してこのお店で酸味が最も少なくて一番飲みやすいとされるもの選んだと教えてくれた。
嬉しかった。

 

「俺の一口飲んでみる?酸味は俺も苦手でさ」

 

え!いいの!?と思いつつなんともないような顔をして1口もらった。
飲む直前に自分のコーヒーより濃い香りがした。

 

「に、にっがーーーーーーーーー!!酸味ないけど苦い!!超苦いですよこれ!!」

「俺、胃を荒らしそうなぐらい濃いコーヒーが好きでさ(笑)」
と笑っていった。

 

そして、せっかくだしと思ってこの店まで来たけど、普段はスタバのイタリアンローストをひいたやつを家で買ってて普通の量より濃く入れて飲んでいることを教えてくれた。
細身で柔軟な性格で、生徒とも同僚の先生ともわいわいしているのこの人がこんな味を好むのは意外だった。

 

その数か月後私たちは付き合った。
私にとって初めての彼氏
色々なカフェや喫茶店にコーヒーを飲みに行った3年続いた。
私は23歳になりその塾の社員になっていた。
付き合っていることは仕事の関係者には秘密にしていた。

 

2.5年目に浮気をされた。
悲しかった。
先生にとっては本気の浮気だった。
相手は私の4つ上の途中入社の人だった。
別れたくないといって、半年ゴネたけれど彼は戻ってこなかった。

 

私は浮気が発覚したころからスターバックスに行かなくなった。
あの心地よいコーヒー豆の香りが先生を思い出して辛かった。
毎日泣いていた。

 

別れてから1年近くたった頃私は仕事をやめた。
その頃には先生と今の先生の彼女の付き合いが社内でオープンになっていて辛かった。
仕事と割り切れるほど私は大人じゃなかった。
私とは3年付き合っていてずっと秘密だったのに、あの人とは付き合って1年もたってないのに…そう思っていた。

 

出社最終日の翌日。
本社にお世話になりましたの挨拶をしに行った帰り
久しぶりにスターバックスにいった。
いつまでも先生を意識している自分が嫌だった。
ちょうど豆を買う人がいて、豆をひいていた。
レジにいるこちらに香りがやってきて少し泣きそうになったけどこらえた。
私がスーツ姿で花や紙袋をもっているのを見たせいか
私が疲れていた顔をしていたのか、店員さんが紙コップに「お疲れさまでした」と書いてあった。

 

その日、コーヒーミルを買った。
またイタリアンローストの豆を買うためにスターバックスへ戻った。
引かずに豆を買った。
引いた豆じゃなくて豆を買うことでなんとなく大人になれる気がした。

 

苦い恋

 

そのさらに1年後、二人は結婚したらしい。
ちょっと思うことはあったけれど、もうひどく落ち込んだりすることはない。

 

今の私は別な会社でバリバリ働いている。
当時の彼と同い年
当時の彼よりお金を稼ぎ
数字を上げて同業種ではないけれど役職をもらい部下を持ち一応偉くなった。
先生のあとに期間は開いたけれど2人の男性と付き合った。

 

勿論これらが全てではないけれどあのころより大人にはなったと思う。
辛かったけど懐かしい。

 

イタリアンロースト 焙煎ご深くて酸味が少ない苦味の強いコーヒー。

 

明日もいつも通り出勤前に豆からひいてこれを飲む。

 

当時の先生より今の私の方がこのコーヒー似合ってるじゃんとふと思って笑ってしまった帰り道。

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