私と彼とハワイとコーヒー

私は今ハワイのホノルル空港にいます。ここは私の好きだった人が大好きだった場所です。ここに住むのが私たちの夢でした。そのために頑張って働いていた彼は仕事中の事故でなくなり、もうこの世にはいません。今日は散骨のためにハワイを訪れました。彼が大好きだったハワイの海に骨をまくということは彼の希望でした。だから私はそれを実行すべくここにきました。しかしすぐに巻いてしまっては文句を言われそうなのでその前に少し観光をしようと思います。

 

私たちが何度も訪れたハワイの中でも特に好きだった場所へ足を運びました。そこはハワイの北側にあります。一本道をずーと北へと進むとハレイワという町並みが見えてきます。そこから少し奥に入ったところによくテレビで紹介されるハワイアンソープというお店があるのですが、そこの奥にお店はあります。そこは何屋さんという分類にするならばお土産やさんだと思います。倉庫のような出で立ちで一般の人が入っていいのか少し躊躇してしまうようなお店です。中に入るとそこはコーヒーの香りがお店中に広がっています。試飲用のコーヒーが自分でボタンを押して飲めるようになっています。いろいろな種類がありますが彼が好きだったコナコーヒーを私は飲みました。コナコーヒーは少しいい値段がするのですが、苦味が少なくしかし濃厚で飲みやすい味になっています。ハワイは暑いですがホットの試飲しかなので皆ホットコーヒーを汗をかきながら飲むという不思議な光景が広がっています。しばらくすると一人の中年でとても体格のいいおじさんが英語で話しかけてきました。私は一人でしたがそれほど焦りませんでした。なぜならそのおじさんは私たちが訪れると必ず声をかけてくれるからです。

 

私たちは一年に一度くらいしかハワイを訪れていないので私たちのことを覚えているとは言い難いです。おそらく観光客の方を見つけては声をかけているのだと思います。私はいつもと同じように声をかけられて裏庭に呼ばれました。ドアを開けるとそこにはコーヒー豆がたくさん干してあります。そして奥にはコーヒー豆の木がなっています。私はコーヒー豆を一粒もらい匂いをかいではとても優しい気持ちにさせられます。いつも食べてもいいよと言われるのですが、ノーセンキューと言って断ります。だってコーヒー豆ですから絶対に苦いに決まっています。私はそういう冒険はしないので絶対食べません。そうするとそのおじさんは残念そうな顔をします。

 

頑固だなとも思っているのかもしれません。そして私はそこのコーヒー豆を購入しました。そして何となく自分の話をしました。毎年私はここに彼と二人で日本から来ていたんだけど、その彼が亡くなったことと、これから散骨するのでその前にこのお店に立ち寄ったということを話しました。こんな個人的な話をされたらおじさんは困るだろうと思ったのですが、彼はここのお店が大好きだったので話したほうがいいのかなと本能的に思いました。そうするとおじさんも自分のことを話し始めました。おじさんも最近奥さんを亡くして寂しい思いをしていると言っていました。悲しい偶然ではありますが、同じような境遇の人がこんなところにもいるんだと嬉しいというよりも自分だけでないんだなと少し勇気付けられました。そしておじさんは私にコーヒー豆を小さな袋に入れてくれました。これも一緒にハワイの海にまくといいよとくれたのでした。私は感謝の気持ちを伝えてそのお店を後にしました。そして私はまた海に向かう前にもう一軒行きたいお店を思いついたのでそこに行くことにしました。

 

私が行きたったお店はハレイワの中心地にあるスパゲッティーニというピザ屋さんです。なぜスパゲッティーニなのにピザ屋さんなのかと思われるかもしれません。実際はスパゲッティーも置いてあります。しかし私たちはいつもここで食べるときは必ずピザを食べていました。なんでかというとピザの方が美味しそうだからです。ハワイは食べ物や飲み物がとても大きいです。Lサイズの飲み物なんて頼んでしまったら大変です。1リットルはあるであろう入れ物にたっぷりと飲み物が入っています。1日分くらいありそうなくらい大きいです。同じようにピザも半端ない大きさです。それを二人で半分こして食べるのが私たちの楽しみでした。私はいつも食べていたものを注文して席に着きました。一人で食べきれる量ではありません。しかし私は何分もかけてそれを完食しました。さすがに飲み物は残しましたが。お腹もいっぱいになりそろそろ散骨に向かおうと思いましたが、私は考えがまとまらないので少し道端のベンチに座り考えることにしました。それは散骨する場所です。彼は海大好きでした。たくさんの海が好きだったのでどこが一番とは決められませんでした。一体どこの海に散骨すればいのか悩みました。こんなことになるのならどこの海がいいのか聞いておけばよかったと思いました。ハワイの海と言ってもワイキキの海、カイルアの海、ノースショアの海、ワイマナロの海、他にもたくさんの海があります。そしてその海それぞれに特徴が違います。穏やかな海もあれば、いつも荒れている海もあります。亀がいる海もあれば、夕日が綺麗な海もあります。天国の海と呼ばれている海もあります。骨はたくさんあるのでバラバラにまいてもいいのですが、次ハワイに来た時に全部の海を回らなければならないと思うと大変なことになるのでやめました。どうしようどうしよう、悩んでも悩んでも結論が出ません。私は諦めてその日はホテルに戻りました。そして明日また考えようと思いました。ハワイの夜は長いです。夜というよりも日の出が遅いので長く感じます。そのたっぷりの時間を使って考えることにしました。しかし私はぐっすり寝てしまい何も決めることもなく朝になりました。その日も天気はとてもよく気持ちのいい朝でした。悩んでいても仕方ないと思い、また私は出かけることにしました。今日はカイルアに行ってみようと思いました。ここも彼との思い出はたくさんあります。カイルアへはいつもザバスという公共交通機関で移動します。ザバスはあまり観光客が乗っていないので日本人に会うことはほとんどありません。私たちはまだ日が出ていない暗いうちに出発します。一度アラモアナセンターで乗り換えをしてそこから一本でカイルアまで行きます。カイルアにつく途中から明るくなってきます。カイルアにつくことにはもう早朝のような美しい太陽が昇っています。

 

私たちはまずここで有名なブーツアンドキモズのパンケーキを食べるために開店前から並びます。ここではパンケーキを一枚ずつと1杯ずつのコーヒーを飲みます。彼はコナコーヒーを飲みます。私はお店オリジナルのコーヒーを飲みます。どちらも味の違いはわかりませんが、彼に言わせるとコナコーヒーは最高に美味しいらしいです。そしてパンケーキでお腹を満たすと今度は海に向かって歩き始めます。歩いて30分くらいかかります。結構遠いし暑いので疲れます。しかしここはバスがあまり出ていないので時間を潰して待っているなら歩いた方が早いと思うのでいつも歩いています。ハワイは海もきれいですが民家もとてもオシャレなので私たちはこんな家に住みたいねとか、いろいろな話をして歩きます。そして着いた先はカイルアビーチです。ここに私たちはお腹が空くまで滞在します。海に入って泳いだり砂浜で横になったり好きな音楽を聴いたり思い思いにそれぞれが別々に過ごします。ハワイに来ているのに観光もしないで買い物もしないで、ただただ海で時間を潰す、一見もったいないような気もしますが、私たちにとってはこれこそがハワイでしたいことなのです。こんなこと日本ではできませんし、日本の海では風景が全然違うのでハワイでしかできないことなのです。何もしないことがこの上ない贅沢だと私たちはいつも思っていました。何にもしなくても退屈しない場所それがハワイの魅力です。私は彼がいないので一人で何時間も砂浜に寝転び音楽を聴いたり写真を撮ったりして過ごしました。しかし一人ほどつまらないものはないなと彼がいなくなってすごく感じます。彼と出会う前は一人でも平気だったのにたくさんの面白いことを教えてくれる彼と出会ってからは一人でいる時間がとても退屈に思えました。彼に会いたいな。ふとそんなことを思いました。

 

もう一度一緒にしたいことがたくさんあるのにと考えていたら涙が出てきました。空は青くてとても綺麗なのにそんなものを見ても私の心は全く晴れませんでした。この先私は誰とハワイに来ればいいの、誰と生涯生きていけばいいの、いろいろな思いが交錯して頭が混乱しました。もう本当になんで死んじゃったんだよ。本当の思いが心の中を巡りました。私は散骨をしに来たのですが、気付いたら彼との思い出の場所を巡って散骨を後回しにしてしまいました。散骨は初めからしたくなかったのだということに気づきました。彼は散骨して欲しいというけれど散骨して私だけ日本に帰ったら広い海で彼はひとりぼっちになってしまいます。そんな寂しい思いをさせたくありません。私は骨は持ち帰ることにしました。ごめんねと彼に語りかけて私は散骨をやめました。やはりそんなことしてはいけないのです。ハワイの海に散骨したところでそのままずっとそこに滞在して入れるわけではありません。東日本大震災の船がハワイに行き着いたようにハワイに散骨しても日本の海に到着するかもしれません。それなら散骨しないで私がずっと持っていた方がいいと思ったからです。ずっと持っていればいつでも一緒にハワイに行けるそんな気がしました。私は粉になった彼の骨を空高くかざしました。太陽の光が当たってとても輝いています。これでいいんだよと彼が語りかけているような気がしました。

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