私の理想の夫婦はおじぃとおばぁ

私の理想の夫婦はおじぃとおばぁ。
母の両親です。
二人は沖縄に住んでいて私が小さな頃は毎年夏休みに一ヶ月くらい泊まりに行っていました。
それ以外にも旅行を兼ねて数年に一度はこっちまで遊びに来て何泊かするので
遠くに住んでいる割にはよく会っていたと思います。
今は歳を取って病気も抱えた二人が県外に旅行に出ることは難しく私も社会人になったため昔みたいにゆっくり遊びに行くことはできなくなった。
それでも事故で足を悪くした母の代わりに二年に一度程は顔を見に行っています。

 

おじぃは自宅で小さなお店をしながらそれと、三味線を作ったり修理を請け負ったりしています。
おばぁはたまに民芸品を作ってお土産屋さんに下ろしています。
基本的に二人は二十四時間一緒の仲良し。
ツーカーも必要ないくらい自然に時間を過ごしているんです。

家事は基本的におばぁがしていていますが
釣った魚を捌くのとおやつに果物を準備するのはおじぃがします。
それともう一つ、毎朝コーヒーをドリップするのが担当。

まだおばぁも眠っている朝早い時間に起き出すおじぃは
おばぁが起きる時間に合わせてお湯を沸かし始めます。
その日の気分で選んだ豆を自分で挽いているとおばぁが起きてくる。
おばぁが朝の身支度をしている間におじぃがコーヒーを入れて
それを言葉少ない二人が飲む。
私が泊まっている時は三人で一緒に朝のコーヒータイムを楽しみます。
新聞を読むおじぃと一日の予定を確認するおばぁの間を流れる空気は
何十年も一緒に生きてきた特別な時間を感じさせます。
二人を見ていると夫婦っていいなぁって思う。

 

ちなみに二人がコーヒーを飲むのは朝の一杯だけ。
食後は日本茶か紅茶を飲むけどコーヒーは飲まない。
おやつタイムにジュースを飲むことはあってもコーヒーは飲まない。
必ず朝に一杯だけ、おじぃが入れたコーヒーを飲む。
それが二人にとっての一日の始まりの合図みたい。

ということで。
現在私は恋人に美味しいコーヒーを入れてもらえるよう努力中(笑)

彼ってば家事は全然ダメ。
付き合い出してからあまりの出来なさっぷりに驚いて
どうにか米の炊き方と洗濯機の使い方は覚えてもらいました。
今は結婚に向けて準備中。
家事のできない男と結婚すると苦労するなんて言われますがそれはまぁ…
得意・不得意もあるし出来る範囲でしてくれたらいいかなと思っています。
私は家事が嫌いじゃないし、些細な事でも感謝してくれたり気遣ってくれるので苦になりません。

 

でも朝のコーヒーだけは譲れない!
毎朝彼に一杯のコーヒーを入れて欲しいのです。
本当はコーヒーじゃなくてもいいかもしれないけど、
他の飲み物じゃやっぱり何か違う気がする。
あのおじぃとおばぁの朝が私の憧れだから仕方ない。

 

今はスーパーで買ってきたレギュラーコーヒーを
100均で買ったドリッパーで入れています。
最近になってフィルターを100均のものから少しだけランクアップしました(笑)
お湯も普通のやかんから入れるのでコーヒー好きな人からしたら色々言いたいかもですが
今はまだ彼と二人で練習中なので大目に見てもらいたいところです。

 

彼には前からおじぃとおばぁの話をしていました。
だから朝は一緒にコーヒーを飲みたいとおねだりして
どちらかの家に泊まった朝は私がインスタントコーヒーを入れて一緒に飲んで
私の中ではちょっとした夫婦ゴッコを楽しんでいたんです。
本当は彼に入れて欲しかったけどめんどくさがって入れてくれなかったから
自分で入れちゃってたんですよね。

 

だけど結婚の話しが出た時にどうしても彼に入れてもらいたくなったんです。
インスタントコーヒーは普段から飲んでいるので作れないわけじゃない。
ただ寝起きで面倒。
面倒なのにわざわざお湯を沸かして入れるほどコーヒーを飲みたいとは思わない。
飲むなら缶コーヒーで良いというのが彼の意見。
確かに朝一のコーヒーなんて飲んでも飲まなくてもいいようなものなので
普段なら彼が嫌がった時点で諦めていました。
実際、諦めたからこそ自分で入れていたわけですし…。
なんだけど、今回はどうしても彼が入れたコーヒーを飲みたかった。
これから夫婦になって一生を共にするのなら
自分の理想であるおじぃおばぁのような朝をたまにでも過ごしたい。
ほんの何回かでも…たった一度だけでもいいから!
珍しく折れずにお願いし続けました。

 

翌朝、彼は私よりも遅く起きてきました。
半分眠ったような顔で歯を磨いて顔を洗い
ぼさぼさの髪のまま私の隣に座って大あくび。

忘れちゃったかな?もう少ししてからかな?
今おねだりしたら怒っちゃうかな?

『インスタントコーヒーを入れてもらう』
ただそれだけの事なのに色々考えちゃって何も話せない私。
何を考えているのかわからないけど、無言でテレビを見る彼。
「お腹空いたね。朝ごはんどうする?用意してないなんて珍しいね。体調でも悪い?」
まどろんだままの目で心配そうにこちらを見ています。

約束、忘れちゃったんだ…。

わかったよって昨日言ってくれたのに。
嬉しくてなかなか寝付けなかったのも楽しみで早く起きたのも彼は知らない。
コーヒーを飲んだ後はいつでも食べられるようにと
いつもより手をかけて朝食の下準備をしてある事ももちろん知らない。
いつでも飲める安いインスタントコーヒー一杯なのに叶わないんだ。
彼にとっては何の意味も無い面倒なだけの事だから仕方ない。

 

諦めて朝食を用意しに台所へ向かったけどやる気が出ない。
私の希望を押し付けちゃだめだとわかってるのに
またいつかお願いしてみればいいだけなのに落ち込んでしまう。
こんな事で結婚してやっていけるのかな?って不安になっていると
彼がそっと台所を覗き込んだ。

「コーヒー…入れたほうが良い?」

「入れてくれるの?」

「え?…う~ん、じゃぁちょっと待ってて」

なんだか歯切れが悪いながらも彼と場所を交代。
私は部屋でテレビを見ながら彼が入れてくれるコーヒーを待ちました。

5分程して両手にマグカップを持った彼が来ました。
いつものカップに入ったいつものコーヒーを
寝巻き姿でぼさぼさ髪の彼から受け取る。
私が夢に見てた朝のコーヒータイム。
おじぃとおばぁの朝とは全然違うけどすっごく幸せ!

「そんなに嬉しいの?」

「うん!!!!すっごく嬉しい!ありがとう!めちゃくちゃおいしいっ!!」

全力で答えるとなぜか謝られました。
実は私が台所へ向かう直前にものすごく悲しそうな顔をしたのを見て
コーヒーを入れる約束を思い出したそうです。
でも何も言われなかったし面倒くさいから忘れたままのフリをしようかと迷ったけどいつもと違ってどうしてもと頼み込んだ私を思い出したらそのままにするのも落ち着かない。
そこで一応聞くだけ聞いてみることにして台所を覗いたら私が今にも泣きそうな顔をしていたと。
正直言うと何がそんなにいいのかわからなくて適当に考えてたけど
私がこんなに喜ぶのならもっと真剣に聞けばよかった
忘れたフリをしようとした事も申し訳ないって謝ってくれたんです。
そしてもう一度朝のコーヒーを飲みたがった理由を聞かせて欲しいと続けました。

 

私は改めておじぃとおばぁの話しをしました。
一日の始まりに二人がコーヒーを飲んでいる時の空気が好き。
ケンカした次の日もおじぃがコーヒーを入れておばぁと二人で飲んでいて
まるでリセットされたかのように自然といつもの仲の良い二人に戻ってしまう。
朝のコーヒーはおじぃの愛情が詰まっている特別なもので
二人が過ごしている朝は何気ないからこそとても大切な時間だ。
私もいつかおじぃとおばぁのように穏やかで強い絆を育んだ夫婦になりたい…。

 

そしてもう一つ。
これは私の我侭だから無理にお願いしてはいけないと思っていた。
でも、結婚して夫婦になって家庭を作ると想像したら我慢できなくなった
私にとっては小さい頃からずっと憧れて夢見てきた事だから…と伝えました。

 

彼は最後まで真剣に聞いてから頭を下げました。
今まで何度も話してくれていた事なのに理解していなかった。
思い出話し程度にしか聞いていていなくてどれ程大切に思っているかなんて想像しなかった。
昨日何度もお願いされていたのに忘れてごめんなさい。

 

この日から一緒に朝を迎える時は彼にもコーヒーを入れてもらうようになりました。
相変わらず私の方が先に起きるのでタイミングはばらばらだけど(笑)
寝起きの時もあれば朝食後の時もあります。
待ちきれずに私が入れる事だって結構多いですが
コーヒーを飲みながら色々話す朝は私達の大切な時間になりました。
恋人として一緒にいるだけならあまり気にならないことでもこれから生涯を共にするとなればまた違って来るんだと実感中。
我慢する事も無理強いしない事も大切だけど、自分にとって譲れないことならちゃんと話し合う事って絶対大事!
二人で新しい生活を始めるんだから合わせるだけでも合わせてもらうだけでもダメですよね。

 

こうやって朝のコーヒータイムを楽しむようになったらインスタントコーヒーじゃなくもっと美味しいコーヒーを飲みたくなりました。
そこで試しにと100均でドリッパーとフィルターを買い、スーパーでレギュラーコーヒーを買ってみたのです。

最初はフィルターの付け方もわからなくて大騒ぎしました。
粉をこぼすしお湯もこぼすしドリップしようとして溢れさせたりも。
そんな初ドリップでは薄味のコーヒーが出来ました…。

 

朝、彼が入れてくれたコーヒーを飲むと一日頑張ろう!っていう気持ちになります。
だから私はやっぱりどうしてもこれだけは譲れない
結婚したら毎朝彼に美味しいコーヒーを入れてもらいたい(笑)
おじぃとおばぁの朝とは違う騒がしいお喋りタイムだけど
これが私と彼が作っていく朝なんだと思います。

 

私達はもうすぐ夫婦になります。
今までのような恋愛感覚だけではきっとぶつかることも多いと思います。
それに気づかせてくれたのはあの一杯のコーヒーでした。
そのきっかけをくれた沖縄のおじぃとおばぁはやっぱり私の憧れの夫婦です。
今はまだ不安定な味で試行錯誤中だけど、いつかちゃんとしたドリッパーとドリップポットも買って彼と私が美味しいと思うコーヒーで朝を迎えられるようになりたいです。

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