独立開業したい!失敗しないカフェ経営とは?

行列ができるカフェ経営ノウハウ
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自分のカフェを持つって憧れるけど、実際やっていけるのかな?凄く興味はあるけど、素人がカフェ経営なんて無理なんじゃないかな?

将来カフェ経営を本気でやりたいと思ってるから、「お客さんに愛されるカフェ経営の方法」を知りたい!

今回は、こんな方に向けて「失敗しないカフェ経営の秘訣」を紹介していこうと思います。

この記事で知れること

立地が悪くてもリピーターが途切れないカフェ経営の秘密とは?
・閉店に追い込まれず安定したカフェ経営の仕方とは?
「人が人を呼ぶ」←これを実現する具体的な方法とは?
・遠方のリピーターを増やす方法とは?
座席が少なくても賑わうカフェと閉店するカフェがある。その差は?
・行列ができても閉店に追い込まれるカフェの小さなミスとは?
・カフェ経営での「単価を上げ方」とは?
雑誌を見て来店してくれる方ほど、リピーターにならないという事実
・などなど

飲食店経営の大半は、5年で倒産してしまうと言われています。

それくらい難しいと言われている飲食店の経営。

でも、自分のカフェを楽しく経営できたら、「仕事だけでなく人生も充実しそう!」と思う方は多いかもしれません。

好きなことを仕事にできるのですから、「きっとお金のためだけにいやいや働くより、何百倍も楽しいのでは?」と思う方も多いでしょう。

では、どうしたら閉店に追い込まれず安定したカフェ経営を続けられるのでしょう?

今回はフィクションですが、実際に15年カフェ経営をしている方の経験をモデルにした「カフェ物語」を紹介していこうと思います。

カフェ経営ノウハウ満載です!

いつか飲食店を経営したい方は必見ですので、

今読めない方は、ブックマークをして後で読んでください!

今読める方は、すぐに読破してくださいね。

カフェ経営を夢見るブロガーマリコちゃんが、近所のカフェに行ってオーナー順子さんとお話する中で、経営だけでなく人生観まで学んじゃうというお話です。(*^_^*)

第1話「夢はカフェオーナーのOLマリコが、15年も愛され続けるカフェ“R”の秘密を探ってきた!」

はじめまして。

私は、現在28歳、都内某企業OLマリコ。

夢は、カフェオーナーです。

私は、カフェが好きで、全国のカフェ巡りをしながら、様々なお店をレポートしてきました。

ブログにも沢山のお店を紹介してきましたが、もう閉店されてしまったお店、なんとかやっているお店、物凄く流行っているお店とイロイロです。

そのイロイロなお店の中の一つ、今回はうちの近所にあるカフェの紹介です。

そこは決して繁盛店というわけでもなく、今にも倒産しそうな危ういカフェでもなく、何故だかわからないけど、もうかれこれ15年も続いているお店なのです。

そんなに続いているお店なのに、私は一度も入ったことがない。

いえ、私だけではなく近所に住む友人たちも入ったことがない。

カフェを開業しても、殆どが1年から5年で閉店してしまうという現状で、その大きな壁をクリアされているカフェ「R」には、何か秘訣があるに違いない!

と思い立ち、パソコンに向き合う仕事を卒業して、カフェオーナーになるという夢を叶えるべく、カフェ「R」のオーナーに話を聞きに行ってみたのです。

「こんにちは~」

と、恐る恐るなわたし。

「いらっしゃいませ」

決して作り笑顔などではなく、心から迎え入れてくださる「R」の店主。

初めて入るお店への緊張がほぐれ、私も笑顔になった。

メニューを見ると。。

  • たんぽぽコーヒー
  • チコリコーヒー
  • 黒糖ココア
  • 生姜茶

何だか体に優しい飲み物ばかり。。

店主が説明してくれる。

「たんぽぽコーヒーは身体を温めてくれるので、冷え性にも良いし便秘にも効くし、内臓の機能を向上してくれるのよ」

この一言で、毎日会社のインスタントコーヒーで胃をやられている私は、

「早く飲みたい!いったいどんな味なんだろう?」

という思いで早速注文。

ハート型のカップで運ばれてきたたんぽぽコーヒーは、本当のコーヒーとは違う優しい香り。

口をつけると、コーヒー。。ではないんだけど、コーヒーっぽい。

皆同じ反応をされるせいか、店主は「どう?」っと言った顔で私を見て、

「美味しい?」

と促した。

「美味しいです。」

そんな会話の糸口から、少しづつお店の経営について、失礼のないように探りを入れてみたんです。

「お姉さん、いくつの時からこのお店されていらっしゃるんですか?」

おばさんという感じではなかったので、あえてお姉さんと呼んでみた。

「30代後半位かな。飲食業は、もう10代の頃からアルバイトやなんかで携わっていたわ」
私の心の声「。。ということは、50歳前??そうは見えないのは、やっぱり人と関わっていて所帯じみていないからかなぁ。なんか、私の方がずっと老けて見えるのは、活き活きさがないからかもしれない。」
「じゃあ、ずっとこの業界ですか?」
「ん~、途中ちょっと他の職種に浮気もしたけど、結局飲食に戻っちゃうのよね。根っからこの職種が好きみたい」
「よく好きだけでは続かないって言いますけど?」
「それも一理。私の場合は好きに上乗せて“面白い“もあるわ。カフェ経営が面白いの。私が飽き性だから自分が飽きないように、常に新しい風を入れている。お客さんも今度は何をやらかしてくれるのかと呆れながら付き合ってくれてるわ」
「私、近所に住んでいるんですけど、こんな素敵なお店があったなんて、全然知らなかったです」
「あら?知ってたでしょ?知ってたけど入らなかったのよね?」
「あ、そうとも言える。。」

ちょっとバツが悪かった。

「大丈夫よ、そんな申し訳ない顔しなくても。。近所にある喫茶店って、あんまり入らないわよね。マンションの1階にあるカフェって、そこのマンションの住人は案外行かないものよ。どうしてだと思う?」
「???」
「いつでも行けるからよ」
「???」
いつでも行けるところは、結局いつまで経っても行かない事が多いわ」
私の心の声「そ そうかも。。」

「うちは殆ど公な宣伝をしていないの。
そのかわり、素敵だなと思うお店にチラシを置かせてもらってる。
そこで、うちのチラシを手に取ってくださった方が御縁の方なの。

なぜか遠方の方が多いのよね。そして人が人を連れてくる。
月に1度か2度の来店だけど、確実な常連さんよ。
それに、遠くからここに来ることがある種のイベントになっているの。

カフェにいらっしゃるお客様ってね、
・ただお茶を飲む人
・リラックスして仕事を兼ねる人
・お友達とおしゃべりする人
それが大半。

それだけだと、回転率を上げなければやっていけない。
でも、席数も少なく立地も悪いうちは、回転率上げるなんてちょっと無理があるんだよね。

だから、そういう席数も少なく立地も悪いカフェこそ、何か「ウリ」がなければ、ダメなの。

それで、“楽しめること”を沢山取り入れたら、遠方からでもわざわざ楽しみにいらっしゃる方が安定していったってわけ。」

確かにお茶を飲むだけなら、フランチャイズ系の安いカフェは沢山ある。

お友達とおしゃべりするのに、ちょっとおしゃれなカフェを探して行ったりはするけど、、、。

楽しむカフェって??

カフェ「R」は、古民家を改装した2階建ての建物だった。

駅から昭和の香りのする商店街を抜けて、住宅街の入り組んだ静かな場所。

緑豊かな広いお庭があって、鳥の鳴き声が響く。

こんなわかりにくい場所に遠方からわざわざ楽しみに来るお客様って、いったいどんな人たちなんだろう?

店主は、昔マンションの1階のテナントでカフェをされていたそうで、そこでは思い描いていたカフェ経営とは違う現実に疑問を覚え、今の形態の経営に変えたらしい。

テナントでの経営は、ランチタイムは忙しく外には待ちのお客様もいて、表向きはとても流行っているお店のようだったそうですが、バタバタするばかりでランチ850円に150円のコーヒーでは、毎月自転車操業状態

「外で並んでいるお客さんがいても、そんなんですか?」
「そうだったわ。その時に思ったの。流行るお店がやりたかったんじゃない。儲かるお店がやりたかったんじゃない。お客様を外で待たせるなんて申し訳ない。
もっと楽しんで頂けて、私自身も楽しめて、笑顔がいっぱいあるお店にしたい!
「それで移転を決められたんですね?」
「そう、今度は完全予約制にして、もう少し単価を上げて、ランチのクオリティも上げて、ゆ~っくりして頂こうと今の形になったのよ」
「それで今ランチがプチコースになっていて価格も上がったんですね。」
「電車を乗り継いでいらっしゃるお客様は、ランチの価格ではなくて、そこでどんな時間を過せるかの期待の方が重要だから、そんな空間創りをする事が大切。ずは一に掃除、二に掃除、三も四も五も掃除よ!
「掃除ですか。。」
「そう!掃除もね、ただすればいいってモンじゃないの。掃除をする事によって、場が清められて私自身も清められて、その清められたモノっていうのは目には見えないんだけど、人ってね感じるの。それが人をお迎えする第一に大切な事
「お姉さん、私将来カフェやりたいんです。もっと色んな事が聞きたい。楽しむカフェの話も聞きたい。明日も来ていいですか?」

私は、既にお姉さんとの時間を「楽しんで」いた。

「私マリコっていいます。覚えててくださいね。」
「マリちゃんね。ありがとう。私は順子。ベタな昭和な名前でしょ?」

順子という名前がピッタリな順子さんの笑顔は、長い間飲食業に関わってきて沢山の経験を持った安定した素敵な笑顔だった。

第2話「カフェ経営の夢はあるけど、休日はダラダラ寝てる…。そんなマリコが、動き出したキッカケとは?」

初めて入ったカフェ「R」 一度慣れてしまえば、2回目は行きやすい。

「いったいどんな人がやっているの?」と思ったけれど、 店主順子さんは気さくで可愛らしい方だった。

話も楽しくて、また逢いたいと思った。

もしも私がカフェを経営したら、お客様は「また私に会いたい」と思ってくださるだろうか?

順子さんのように、ニコニコとお客様に楽しい話を提供できるだろうか?

何となく会社へ行って仕事をこなし、帰宅してテレビを見て寝る毎日。

そのテレビの内容も、次の日には忘れてしまう程の内容のなさ。

時々友人と食事には行くけれど、仕事の愚痴かこれからの不安の共有だったりして、あまり実のある話じゃない。

大した趣味もなく、それでも図々しく夢だけはでかい。

「いつか自分のお店を持つんだ!」という意気込みはあれど、実際何か準備しているわけでもなく、気ばかり焦って。。。

このままの私がお店をオープンしたとしても、うまくいくわけないだろうなぁ。

我ながら、「面白みのない人間だなぁ」と自己嫌悪な気持ちを抱きながら、順子さんに会いに行った。

「おはよう!!早いのね~マリちゃん。おやすみ?」

昨日ちょっと打ち解けたせいか、順子さんがさらに魅力的に見えた。

「はーい、お休みでーす」
「そう、今日は予約ないからゆっくりしていって」
「予約がない日は、順子さん何されてるんですか?」
「そうねぇ、ショッピングに行ったり本を読んだりネットサーフィンもするかな。
今日みたいに突然の来客も面白いわね。」

順子さんは、そう言って私ににんまりした。

「マリちゃんはお休みの日は?」
「寝てることが多いです」
「あらあら」
「すみません、会話続きませんよね」
「ん~ん、大丈夫よ(笑)寝て疲れが取れる?」
「いえ、だるいです。そんでずっと眠いです」
「わかる~私もそうだった」
「順子さんも?」
「昔ね、そう20代の頃ね。今は違うわよ。」
「何が違うんですか?」
「希望も自信もなくて、自分のことが嫌いだったから現実逃避で寝てたの。当時は、そうは思っていないけど、今分析するとそうだったな」
「私、今そうかもです!」

順子さんの言うように、寝ていれば何も考えなくて済む。

不安からも自己嫌悪からも逃れられる。

順子さんは言った。

「マリちゃんの身近に、物凄くバリバリ働いている子がいない?」
「いる!親友のエリカ。もう凄くキャリアウーマンで、いつも忙しい忙しいって言ってスケジュール帳真っ黒なんです」
「その子といると居るとキツいでしょ?」
「はい、すごい劣等感にかられます。だからあんまり会いたくない。その子、フェイスブックなんかで、どこそこへ出張行ったとか、誰々と食事したとか・・・時には有名人とのツーショット載せたりして…」
「落ち込んでるマリちゃんが目に浮かぶわ~。そのエリカちゃん、きっとマメに更新してるんでしょ?」
「そう!そうなんです。私には嫌味な投稿にしか思えない!温泉来てマースとか言っちゃって、半裸投稿!何か勘違いしてる!」

私がそういうと、順子さんは声を上げて笑った。

「マリちゃん。安心して。エリカちゃんとあなた同じだから」
「同じ?全然違いますよ~」
「いいえ、毎日単調な日々で休みはダラダラ寝ちゃってるマリちゃんと、日々忙しくて寝る間もない位、忙しいエリカちゃんの心はね、全く同じなの。」

順子さんの言っている意味がわからなかった。

「マリちゃんは、自分の事が嫌いって言ってたよね」
「はい」
「その自己嫌悪から逃れるために寝ちゃうのよね」
「はい」
「どうして寝るんだっけ?」
「何も考えなくて済むからです」
「エリカちゃんも然りなの。エリカちゃんは忙しいという状況を作って考えなくて済むようにしているの。しかも自己嫌悪や自己否定をかき消すように、FBでイケてるアピールして、皆のいいねに安心している」
「私、絶対エリカにいいねなんかしないです」

順子さんはまた笑った。

「私ね、人間にとって一番いらない感情ってね、嫉妬だと思うの」
「嫉妬?」
「もしかしたら、エリカちゃんは投稿をアップした後にもの凄い虚しさを感じているかもしれないのに、マリちゃんは華々しさだけを見て感情を動かされているわよね?」

そうかもしれない。

もし順子さんの言うように、エリカが自分を大きく見せようとしての投稿ならば、それが彼女にとって虚しさなのであれば、そんな彼女に嫉妬している私はバカみたいだ。

「自分よりも素敵な人を目標にして励みにするのは OK だけど、人と比べて優越感と劣等感の行き来は、マリちゃんの魅力の邪魔をするわ」

あー、私知ってた。

世界で一つだけの花の歌好きだもん。

順子さんの言葉で、エリカのことがどうでも良くなった。

「エリカちゃんは忙しい。マリちゃんは今時間がある。そこに問題なし。ただ、マリちゃんが今出来ることは。。?」
「えっとーカフェの事業計画書の作成!」

私は得意げに答えた。

「ちがーう!!」
「え?じゃあしっかり働いて貯金?」
「もっとちがーう!」
「何ですか?」
「寝てください」
「え?」
「寝てください!」
「でもそれって、逃げじゃ?」
「逃げていいのよ!」

身体の力が抜けた私に、順子さんは続けた。

「逃げてる事を一度ちゃんと認めるの。逃げちゃいけない、本当は向き合わないといけないのにって罪悪感を感じながら寝ているから、疲れが取れるどころか、余計に疲れが貯まるのよ」
「あっ、寝ることに罪悪感、感じてます」

「でしょ?いらないいらない~人間はね、混乱した現状を夢で処理することが出来るの。ちゃんと寝て、リセットして、また新たに進む。夢の登場人物って誰だかわかる?」

「登場人物?えーと、友達だったり職場の人だったり…」
「その人たち、マリちゃんの頭の中に実際入って来れる?」
「??」
「夢の登場人物の正体はね、ぜ~んぶ自分よ」
「え?だって昨日順子さんも出てきたしー」
「私、マリちゃんの頭の中には入れないわ。その順子は、マリちゃんの中から出てきたマリちゃん自身よ」
「私自身?」
「マリちゃんの中にいる色んなキャラクターを私や友達や職場の人が代理で演じているの。そうやって、夢がごちゃごちゃした潜在意識を処理してくれているから、
寝ることはすごく大事なのよ」
「じゃあ私、休みの日にずっと寝ていた事に罪悪感を感じなくていいんですね」
「そう!今はそれでいいのよ」

ここ最近、騙し騙し自分と過ごしてきた。

今の会社、ずっといる気はないし、だからと言ってすぐにお店を開く自信もない。

カフェの夢を実現したくても、何から始めていいのか、そもそも本当にカフェの仕事が自分に合っているのかどうかもわからないのに…。

カフェ巡りは好きだけど、経営となると難しそうだし。

そんなこんなが頭の中をぐるぐるして、結局考えるのが面倒になって今までは寝ちゃってた。

それは、「現実逃避にほかならない」と思い込んでいたけれど、順子さんは私を完全肯定した。

たった一言で、「それでいいのよ」というたったその一言で、私の中に流れるエネルギーの温度が上がった。

今日も本当はこれから帰って寝るつもりだったけど、それよりもまだまだこのまま順子さんと話していたいと思った。

第2話でマリコは、「寝ること=現実逃避=悪いこと」と捉え、寝てばかりいる自分をだらしない・カッコ悪いと思っていました。でも、自分を卑下する必要はなかったのです。なぜなら、「寝ること=今のマリコに必要なこと」だったからです。

第3話「無礼でもいい。“許される無礼”は居心地のいいカフェを作ってくれる」

「マリちゃん、パスタでも食べる?」
「え?そんなメニューあるんですか?」

カフェ「R」は、古民家を改装したベジタリアンカフェである。

コンセプトはゆる~く、まったり。 食事は体に優しいベジタリアンのプチコース。

完全予約制の為に突然行っても食べられない。

常連になると飲み物だけも可能。

けれど、予約がないと順子さんはショッピングに行っちゃったりするので、フラッと行っても玄関の鍵が閉まっていることが多々あるらしい。

今日は、

明日も来ます!

という私の言葉を覚えていてくださったので、順子さんは私に付き合ってくれている。

なかなか帰りそうもないと思われたのか、お昼の心配をしてくれた。

「パスタは裏メニュー。仕込みしなくてもすぐ作れるからね」

たんぽぽコーヒー1 杯 500 円で、順子さんの午前中を奪ってしまった私としては、このパスタで、あと2~3時間は順子さんとおしゃべりしていられそうだと嬉しくなった。

「はい!頂きます!」
「OK~。これまかないだから、お代はいらないわ」
「え、そんな…」
「そのかわり、これやっといてくれる?」

そういうと、順子さんはまだ二つ折りにしていないフライヤーをたくさん持ってきて、二つに折っていく作業を私に託した。

「コーヒー代だけでは悪いな」と思っていた私が、「更にパスタまでご馳走になるなんて申し訳ない」と思いながらも、順子さんが私に仕事を与えてくれたおかげで、遠慮なくまかないを受け取れた。

フライヤーを二つに折りながら、私は何だかスタッフになったような気がして、まだ2回目の来店なのに、もうず~っと前からの常連のような気分になって嬉しかった。

「わ~!!遅刻遅刻~!!」

飛び込んで入ってきたのは、後ろに髪を束ねたスタイルのいい背の高い女性だった。

「お客様?」

私は、小声で順子さんに尋ねた。

「んーん違う違う。2階の…」

と、順子さんが2階の説明をしようとすると、

「あ、こんにちは。エリです~。ここの2階を借りて、エステやってます」

そう言って早口で簡単な挨拶をして、バタバタと2階へ上がっていった。

私の自己紹介をする間もないくらいに。

「エリさん、いつもあんな感じで、ギリギリの出勤なのよ。時々お客様の方が早くいらっしゃることもあるわ」
「え~!」
私の心の声「有り得ない。私の会社は出勤して、制服に着替えてちゃんと身だしなみを整えてからタイムカード押してそれから仕事だ。って、それはどこの会社も当たり前なんじゃ。。」

玄関の方で、音がした。エステのお客様いらっしゃったのかな?

順子さんは全くその音を無視していたので、

「出迎えなくていんですか?」

と聞いてみると

「お天気が悪いとね、古民家の戸が湿っちゃって開けにくいのよ。だからまだ、入ってこれないの」
私の心の声「入って来れないのって。。んじゃ、開けてあげるとかしないんだろうか??」

古民家特有の横にスライドさせる玄関の戸はガラガラガラという軽快な音を立てるでなく、ガラッ、ガガガー、カッ、と突っかる感じの音がしている。

なかなか開かない戸と格闘しているお客様を想像しながら、くすくす笑っている順子さんは、完全にそれを楽しんでいた。

なんとか開き、ふぅ~っと言いながら両手に荷物を持ったお客様が

「じゅんちゃ~~ん、会いたかった~~」

と、ふさがった両手のまま順子さんに寄っかっかっていった。

順子さんもお箸で片手がふさがっていたので、よしよしと片手で彼女をハグした。

立て付けの悪い引き戸と出迎えない店主に文句も言わず、大喜びで順子さんの胸に飛び込むそのお客人は、どうやら長い付き合いの常連さんのようだった。

「はい、今日のお土産。今日はねチーズケーキ」
「きゃー、ありがとう!」

順子さんは、「あとで一緒に食べようね」と言わんばかりに、私にピースをした。

「こちら、恵さん。もう 10 年来のお客様。こちら、マリちゃん、今日で2回目のお客様」

恵さんと紹介された女性は、愛想のいい会釈を私にして椅子に腰をかけ、当たり前のようにフライヤーを二つに折り始めた。と、2階からなにやらパン!と手を叩く音がした。

「あ、エリさん、もう来てるんだ」
「うん、たった今だけどね」

どうやら、今日のエリさんの出勤は早い方らしい。

「何ですか?あの音」

ドタバタと準備をする音が、急に静かになったと思ったら、パン!という手を叩く音。

「柏手よ」

恵さんが言った。

「かしわで?ですか?」
「そう」
「あの神社でやる?」
「そう」
「2階に神棚でもあるんですか?」
「それもあるけど、場を清めてくれてるの。マリちゃんもお家でやってごらん。柏手を打つ前と打った後では部屋の空気が全然違うわよ」
「そーなんですか!?」

パスタを茹でている順子さんが振り向いて、

「私は下手っぴぃでね、ぺちゃって音がするんだけど、エリちゃんは物凄く上手で、パン!って響くの。」

確かに1階まで響く澄んだ音がした。さっきバタバタと駆け上がっていったエリさんは、別人のような静かな足音で階段を降りてきて

「恵さん、いらっしゃい。お待たせ」

と、巫女のような笑みで恵さんを施術に案内した。

「マリちゃん、出来たよ。食べよ」
「うわ!美味しそう!」
「美味しいわよ」
「あ、ですね。いただきまーす」

そのパスタはニンニクと玉ねぎしか入っていなかったのだけれど、すごくすごくすごく美味しかった。

ニンニクはホクホクと芋っぽい食感と揚げてパリパリした食感のもの、玉ねぎはスライスされたものと、すりおろしたもの、そしてパリパリ揚げたもの。

2つの食材だけなのに、こんなに深い味わいのパスタが出来るなんて。。

「順子さん、私お料理習いたい」
「いいわよ、うち料理教室もやっているから、またいらっしゃい」
「教室やってるんですか?いつ?何曜日?」
「うん、してっていう人が出てきたら開催」
私の心の声「なんじゃそりゃ。。」
「マリちゃん、朝から咳してたでしょ?鼻や喉に効く人参とれんこんのスープも作ったからね。」
「お料理教室、してください」
「ほーーーい」

この人、やる気があるんだろうか。。

スープを飲みながら順子さんは言った。

「マリちゃんは自炊してるの?」
「はい、大したもの作ってませんけど」
「どんな気持ちで作ってる?」
「どんな気持ちって・・・」

そう言われて、いつも何を考えながら作ってたかわからないくらいだったんだと、気がついた。

「私はね、今度の宝くじが当たったらあれ買ってこれ買ってとか、ここにEXILEが来たら、誰からお水を持っていこうかとか、このお店が昭和風景の映画のセットに使われたら、私もちょい役で出ちゃおうとか。。」
「そんなこと考えながら、仕込みしてるんですか?」
「楽しくて仕方ないわ」
「順子さん妄想好きなんですね」
「時々、妄想に入って一人芝居とかしてるわ」
「うわ、みたーい」
「見せられません」

順子さんは、ぶんぶん首を横に振った。

「お料理ってね、調味料よりも気持ちが入るの」
「料理は、ココロってやつですか?」
「そう!そう」
「特に悲しみが入りやすいの。悲しみの入った料理を食べた人は、しばらく悲しい気持ちが続くのよ」
「ほんとに!?」

順子さんは頷いて

「だから、誰かにお出しするときは、絶対上機嫌で作らないとダメなの」
「順子さん、このパスタ作るとき何考えてたんですか?」
「えーっとねー、恵さんが持ってきたチーズケーキを4等分にしようか、6等分にしようか考えてた」
「それって迷いの気持ちが入ったんじゃないですか?」
「いいえ、6等分にして残りは皆が帰った後に私がまた食べようって結果になったから、テンションが上がったわ」

順子さんのユーモアに、私も既に上機嫌になっていた。

第4話「今は取材も断ってる。でも最初から“愛されるカフェ”だったわけじゃないのよ…。byカフェオーナー順子」

ケラケラと笑っていた私達の笑い声を止めたのは、お店にかかってきた電話だった。

「はい、カフェ R でございます」

そう言って順子さんは、その後受話器を持ったまま、 しきりに、

すみません、はい、ありがとうございます、はい、いえ、 ありがとうございます、すみません、

と、 何度も何度も見えない相手にお辞儀をしながら恐縮していた。

受話器を置いて、有り難いけどな、と呟く順子さんに、

「なんか勧誘ですか?」

と聞いてみた。

「取材よ」
「取材?雑誌の?」
「そう」
「え?断ったんですか?」

「えぇ」

「どうして?」
私の心の声「こんなわかりにくいお店、雑誌に出したらすぐに人が来る。まして、こんなおしゃれで緑溢れる広いお庭があって、2階でゆっくりエステも出来て、流行らないわけがない」
「だからよ」
「え?」
「言ったでしょ、流行る店忙しいお店をしたいわけじゃないって」
「でも、その方が利益が・・」
「う~そこはね、私ももう少し欲しいとこだけど、それよりなにより、このゆったり感を私は求めているわけで。。」
「でももったいなーい」
「昔、雑誌に載ったこともあるんだけどね、雑誌を見てくる人は殆どリピーターにはならない。自分の足で歩いて見つけたお店、友達に連れてきてもらった秘密のお店、そこで店主と気が合えばずーっと永い付き合いになる。永く続いているお店は、永く通ってくださるお客様のおかげで支えられているのよ」

確かに、私はたった一日でこのお店にハマってしまった。

このお店が 15 年も続いているのは、きっと私のような気持ちになった人が、沢山いるに違いないからだ。

「マリちゃん、カフェをオープンしたいって言ってたわよね」
「はい、順子さんを見て、ますますやりたくなりました」
「あら、ありがとう。でもうちはあんまり参考にはならないわ」
「どうして?順子さんと同じことしてたら、私も息の長いお店に出来るかと」
「最初から、うちのマネしてたらすぐ潰れちゃうわよ」

順子さんは、笑いながら呆れ声で言った。

「今まであっての今なのよ」
「今まであっての今?」
「いろんな経験が…。そう、忙しくて忙しくて、あ、マリちゃんのお友達のエリカちゃんみたいな生活、そんな経験もしたし、暇で暇でもうお店を畳んじゃおうかと思った事もあるし、世界を放浪したり、恋をしたり、挫折したり、いろ~~んな経験が今の私とお店を作っているのよ」

私は、自分の人生の中身がスカスカのような気がして、恥ずかしくなった。

「マリちゃんには、マリちゃんに合ったカフェ経営の戦略があるの。万人に値する成功本なんてないし、そもそも何を成功とするか定義は人それぞれだもの。マリちゃんの成功の定義って何?」
私の心の声「成功の定義。。精神的に安定していて、収入も沢山あって、セレブな人脈も作れて…。ん?これ、成功??」

あれこれ考えていると、順子さんは言った。

「正解っていうのはないと思うんだけどね、私の思う成功はね『しあわせだなぁ~』って思える瞬間が沢山ある状況に居る事なの」

順子さんは続けた。

「ここに居るとね、幸せだなぁ~って思う瞬間が沢山あるのよ。大根の桂剥きをしている時とか、オリーブオイルにニンニクの香りをつけている時とか、お客様のスリッパを揃えている時、テーブルを拭いている時、玄関先のプランターにお水を上げている時や落ち葉を掃いている時、お客様の笑い声を聞いている時、美味しいという言葉、まだまだあるわ!幸せだなぁ~ってしみじみ思う場面。。」

順子さんは、おもむろに立ち上がって、冷蔵庫を開けた。

「えへ」

っと言いながら、チーズケーキを取り出して、

「しあわせだなぁ~」

と、チーズケーキを高く持ち上げた。

「あ~~極楽だったわぁ~~」

そう言いながら、お風呂上がりのような上気で恵さんが2階から降りてきた。

顔がツヤッツヤしている。

「順ちゃん、お腹空いちゃったー。今日は時間ないからこのまま帰るつもりでランチの予約しなかったけど、何かある?」
「そう思って、パスタすぐ出来るようにしてあるよん」

二人は、漫才コンビのようにハイタッチをして笑った。

「エリさーん、エリさんも食べる~?」

と、順子さんが2階に向かって声を張り上げると

「今から次のお客様いらっしゃるから、ケーキだけいただきまーす」

という声が返ってきた。

恵さんは、さっき私が食べたニンニクと玉ねぎのパスタを、私とエリさんはチーズケーキを、

「順ちゃん、食べないの?」
「恵さんのパスタ下げたら、恵さんと一緒に食べるわ」

後で恵さんが一人でケーキの時間を過ごさないように、順子さんはこういう小さな気配りが出来る人だった。

「ん~、おーいすぃ~~」
「美味しい~~」

私とエリさんはすっかり顔が緩んだ。

「スィーツ食べる女の子ってさ、絶対一口食べたら笑うのよね」

順子さんが嬉しそうに言った。

「ホント、そう言えばそうだわー」

恵さんも加わって、カフェ「R」は笑顔でいっぱいになった。一つのお鍋をつついて絆が高まるように、ホールのケーキをカットして分け合うのも、同じなんだろうな。

私は、常連気分とスタッフ気分の入り混じった心地良さにすっかり甘えていた。

あぁ、こんな空間を作りたい。

こんな場所を職場としたい。

だけど、順子さんは、いきなりこんなまったりした空間を作り上げたんじゃない。

色んな人生経験が反映されていて、お客さんやスタッフさんのキャラクターも手伝って、今がある。

会社と自宅の往復をしている私がこれからカフェをやるには、どうしたらいいんだろう?

順子さんの言った私には、私に合った経営ってなんだろう?

私にとっての成功って何だろう?

「マリちゃん、オーラがどんよりグレーになってるわ」
「え?」
「エリさんはね、人のオーラが見えるのよ」

恵さんが得意げに言った。

「え~~!」
「あら、そういう恵さんだって霊感あるじゃない」

エリさんが暴露した。

「え~~~~~!!」
「私が一番普通の人よ」

順子さんがそう言うと、恵さんとエリさんは顔を見合わせて静かに笑った。

「え?え?順子さんも何か?」
「彼女の占いはすごいわよ!」
「占いやるんですか?!」

目を見開いて順子さんに尋ねると、

「遊びでね」

と、順子さんはお茶目に笑った。

どうやらここのカフェは、食事とエステと占いで成り立っているようだ。

第5話 「ときにはお客さんに“素敵な嘘”をつく。その嘘を求めてるお客さんもいる!」

占い。

大抵の女子は好きだし、そんなに興味はない人でも今日の星占いなんてあったら、つい自分の星座に目をやってしまう。

それが当たっていようが当たっていまいが、多くの女子達はいい事だけを信じて、楽しんでいる。

そういう私も、占いなんて信じないわ!と思う派なんだけど。。。

ちょっと楽しんでいる。

そして今、今、すごい順子さんに観てもらいたい。

迷える羊は、行き場を失うと占いさえも頼りたくなるのである。

そう言えば、昔住んでいたマンションの近くに前世喫茶というのがあった。

そこはいつも若い女の子たちで溢れていて、ものすごく流行っていた。

一度だけ行ったことがあるけど、そこのママが前世を観てくれて、それが今世どんな影響を与えているのか、自分の才能はなんなのか、今後のアドバイスをしてくれるのだ。

女というのは、未来を不安がる生き物。

だから、大丈夫だという安心が欲しい。

私は中世フランスに居て、古い絵やアクセサリーを扱うギャラリーの店主だったと言われた。

そう言われて、ヨーロッパのアンティーク物が好きな私は、強ち嘘ではないかもしれないと信じた。

これが嘘か本当か確かめる術は、どこにもない。

けれど嬉しかったのは、今世も何かお店の店主になるかもしれないと言われたこと。

鑑定が嘘だろうが本当だろうが、私が気分が良くなったのは、確かだった。

「お釈迦様が仰っている、嘘も方便っていう言葉知ってる?」
「え?あれってお釈迦様の言葉なんですか?」
「そういうことになってるみたい。いろんな説はあるんだけど、相手を思いやり元気にするような嘘であるならば、ついてもいいですよっていう意味」
「あ、私悪い意味で使われているんだと思っていました」
「もちろん、人を騙したり陥れたりしたらダメよ。そう言う人は結局自分に返って来て、嘘によって悲しい思いをするわ」

因果応報ってやつだ。

順子さんは、声色を変えて続けた。

「でね、商売の嘘は『商い』っていうらしいわ」
「ついていいんですね!?」
「ついていいんですぜ」

と、悪代官のような口調で順子さんが言った。

きっと順子さんの性格からして、順子さんの占いは幸せな嘘もあって、人を元気にするものに違いない。

恵さんがせっついた。

「マリちゃん、観てもらいなさいよ」

恵さんの興味深そうな促しが、妙に怖くなって、

「き、今日はいいです」

と、私は小さくなった。

エリさんが言う。

「私、占いなんて、遊びっぽく楽しめばいいと思っているわ。深刻になる必要なんて全然ないし、いい事だけ信じる、それでいいのよ。

イイ事あるってワクワク信じる心が本当にイイことを引き寄せるの。当たるわけないとかインチキだとか批判するのはナンセンス!

ただ、占い師は選ぶ必要がある。大して経験もないのに高額な料金を設定していたり、不幸な予言をしてみたり、そんなとこへは行かないほうがいい。」

「どうやって見分けたらいいの?」

恵さんが問うと、

「笑顔が素敵で幸せそうな人、そしてー」
「そして?」
「髪の美しい人」
「髪の美しい人?どうして?」
「髪は、カ・ミ、で、神に通じているから」
「ほんとにぃぃ~~?」

全員でツッコミを入れながらも、それが本当の話なのか、単なるダジャレなのか、でも、オーラの視えるというエリさんが言うと本当っぽかった。

「エリさん、私のオーラ、まだグレーですか?」
「あ、ごめんごめん違う違うあれは嘘よ。マリちゃんがどんよりしてたからからかっただけ。グレーなんてオーラないわよ。

マリちゃんのオーラは黄色。でも、さっきみたいに浮かない顔だとくすんでくるのよ。そうやって楽しんだり笑ってたりしたら、どんどん輝いてくるわよ」

私の心の声「なるほど~」

私はオーラは見えないけど、でも輝いている人、どんよりしている人っていうのはわかる。

「笑顔は自分の為にも人の為にもなるわよね」

恵さんがしみじみ言った。

「恵さんは何が視えるんですか?」
「私はね、視えるというより聴こえるの」
「聴こえる?」
「そう、その人の心の声だとか、その人の周りにいる人達の心情とか」
「イタコみたいなん?」
「ん~~、まぁ…近からず遠からず。。」
「何か全部心の中見抜かれているようで怖いです~」
「大丈夫、スイッチがオンにならないと聴こえないから」

大きな口を開けて、チーズケーキを頬張る恵さん。

もう10年もここの常連でエリさんのエステを受けているのに、パンパンのGパンのベルトの上にお腹が乗っかっていた。

ドレスを着せたら、ちょっとマツコデラックスにも似ている。

この人がオンになって、真剣に神のお告げでもしようものなら、もの凄いド迫力なんだろうなぁと思った。

「私、次のお客さんいらっしゃるから2階準備してくるね」

エリさんがお皿を片付けようとすると、

「あ、置いといて、マリちゃんが洗うから~」

と、順子さん。

どうやら私は、今日はすっかりスタッフらしい(笑)

「私も、帰んなきゃ!今から2時間半だからね」
「え?恵さん、そんな遠くから来てるんですか?」
「そう。ここはそんな時間かけても来る価値が私にはあるからね」

遠くから来ているお客様にとっては、ここに来ること事体がイベントになっている。

昨日の順子さんの言葉を思い出した。

私は歩いて5分で帰れるけど、充分楽しい。

でも、ここが2時間半先の場所にあったら、もっと楽しいと感じるのかもしれない。

恵さんが荷物をまとめて身支度をすると、順子さんとエリさんは丁寧に玄関まで見送った。

なぜか、私もついていった。

「身体のラインが来た時よりも綺麗になっているわ」

エリさんがそう言うと恵さんは照れながら、

「エリさんの腕がいいからよ~」

と、お腹を揺らしながら、嬉しそうだった。

「恵さんが持ってきてくれる差し入れ、いつもグッドセレクト!今日も美味しかったわ、ご馳走様、ありがとう」
「順ちゃん、次回もおみや楽しみにしててね」

立て付けの悪い引き戸を慣れた手つきでエリさんが開け、順子さんは恵さんの靴を揃えて、姫を誘うようにおどけた。

「ありがとう!楽しかった。マリちゃんも、またね」

恵さんは大満足の笑顔で手を振って帰っていった。

順子さんとエリさんは、恵さんの姿がとっくに消えているのに、ずっと頭を下げていた。

何度も何度も、ありがとうございますと呟きながら。。

「わ!時間時間!!」

エリさんがパッと頭を上げて、慌てて2階へ準備をしに行く。

順子さんはフロアに戻り、お皿を下げて、私は洗い物を洗った。

「私、洗うからマリちゃん拭いてくれる?」
「はい」

順子さんにスポンジを渡して、私はお皿を吹く布巾を取った。

「恵さんが、どうして痩せないかわかる?」

私はしばらく考えた。

私の心の声「。。。。あっ恵さんは、ここに通うためにマツコデラックスなんだ。」
 

第6話「あなたの夢は上辺だけかも?開業費・保健所の申請、壁の色、オープンの日、平均単価、粗利…。どこまで考えてる?」

人は、ちゃんと望み通りの人生を歩いているという。

本当はこうしたい、ああしたいと夢はあれど、実は今の現状の方がとても都合がよくて、文句や愚痴を言いながらも、変えようとはしない。

望み通りではないけれど、人生を変えたいほど困ってはいないからだ。

恵さんはダイエットをしたいと思ってここのエステに通っていて、痩せてスタイルのいい女を目指してはいるのだけれど、本当に痩せちゃったら、ここに来る原動力も痩せてしまう。

だから、今の体型を行ったり来たりしながら、順子さんやエリさんに会いに来ているんだ。

この場所が楽しくて通っている限り、恵さんはきっと痩せない。

そう言えば友人のエリカもイケメン整体師に会うために、身体を酷使しているのかもしれない。

3か月通い詰め、もう大丈夫だから来なくていいと言われたのに、1か月も経たない内にまた通い始めた。

身体を治す為に。。

ではなくて、イケメン整体師に癒してもらう為に。

私、今のつまんない会社をとっとと辞めて、一人で気ままに出来る小さなカフェでも開きたいと思っている。

だけどそれも潜在的な望みは今の会社に居る事で、安定を手に入れ、そこそこの生活で満足していたりするのだ。

覚悟を決めないと、ずっと「やりたいやりたい」で終わってしまって、妥協の会社勤めでお局になるか、

さもなくば、平凡な主婦の人生を歩むことになる。

「順子さん!!占い、してもらえますか?」
「あら、何が知りたいの?」
「私がカフェをオープンできるかどうか。。」

順子さんはニタリと笑った。

「出来るっていうカードが出て信じる?」
「・・・」
「出来ないっていうカードが出て諦められるの?」

「・・・」

「あはは、ごめんごめん意地悪言ったね。私の占いは未来を予想するものじゃないから、出来るか出来ないかとか言えないの。

自分の気持ちに気づいて、本当の自分の意思で進んでいこうっていうのが意図だから、それでもいい?」

「はい!」
「じゃあ、カード持ってくるね」

ドキドキしてきた。

順子さんは「気楽にね」って言うけど、自分でもよくわからない自分の本当の気持ちって、知りたいようで知りたくない。

これからは自分の意思で進んでいく、それを聞いただけで物凄く怖くなった。

順子さんはエプロンを外し、奥の和室の部屋へカードを取りに行き、「こっちの部屋とそっちの部屋とどっちでする?」と私に選ばせた。

既に私の意志が始まっている。

奥の和室ですると逃げ場がないような気がして、さっきまで恵さん達と和んでいたフロアの席にした。

順子さんは私の真正面ではなく斜向かいに座り、大きく深く息をして、目を瞑ってカードを切った。

さっきまでゆるく柔らかく笑顔だった順子さんが、先程巫女のように降りてきたエリさんのように、優雅で凛とした天女になった。

順子さんの白い手で、扇状にカードが開き、

「この中から10枚選んでください」

と、促された。

適当に10枚を選んで渡すと、順子さんは慣れた手つきで、カードを十字型に並べた。

まだカードを開かないうちに、順子さんが言った。

「何を…知りたい?」
私の心の声「何を。。。?」

さっきとっさにカフェがオープンできるかどうかと聞いて、順子さんは、「できると言ったら信じるのか、できないと言ったら諦めるのか」と問い、私は何も答えられなかった。

カフェをオープンしたいけれど自信がないから、出来ると言われても困る。

でも出来ないと言れても諦めきれない。

質問の仕方がわからなかった。

「何を知りたいのかがわからない」

正直に答えた。

「ただ、今のままじゃ嫌なんです!」
「今のままじゃ嫌だから、一人で気ままに出来るカフェをしたいの?」

順子さんは表情を変えなかった。

「質問を変えるね。マリちゃんは、どんなカフェをしたいの?出来るだけ詳しく事細かく教えて」
私の心の声「事細かく?漠然とならいつも考えているけど、事細かくって。。。ん~、でも思いつくまま言ってみよう。自分の思い通りのインテリアに囲まれてー、観葉植物いっぱい置いてー、ここみたいに身体に優しいお野菜いっぱいのランチを出してー、お客様の笑顔がいっぱいあって、」

頭の中で浮かび、順子さんに伝えようとすると、順子さんは質問を変えて、また口を開いた。

開業の費用はいくら?内装業の人脈は作ってある?インテリアや調理器具はどこで調達するか目処はついている?どんなテーブルを買うの?2人がけ?4人がけ?カウンターは何人?

壁の色は何色?音楽はどんなジャンルを流したい?保健所の申請に何を準備すればいいか、いつまでに提出すればいいか知ってる?オープンの日のこだわりはある?
駅から何分?お家賃はいくら?

何時にオープンして、何時に閉店ターゲットはどこ?HPは自分で作れる?チラシはどうするの?お金を頂ける内容のお料理を作れる?お客様の平均単価は?それが月にどのくらい見込めて粗利はどのくらいで、

自分の収入と見合った生活が見える?」

リゾートバイトが資金を貯めるのにおすすめな理由

おっとりした順子さんが弾丸のように喋った。

私、そんな事考えもしなかった。

同時にいつもカフェをオープンしたいと思い描いていたことが、明らかに『漠然』である事に気づき、言葉にならなかった。

「こんな質問、自分の中からは湧き上がりもしなかったでしょ?」
「はい、私、甘いですよね。」
「いいえ、今日、選択しなおす日」
「??」
「今私がした質問を聞いて、マリちゃんどう思った?」
「何も具体的に考えてなかったな。私甘いなって」
「その後は?」
「質問の答えを考えているとワクワクしてきました。それと、もっと色々カフェの開業についてちゃんと調べようって思いました。」
「うんうん、それ、大事。さっき私がした質問はね、その答えを絶対に守れってことじゃないのよ。そういう事細かいことまで想像した時に心が踊るかどうかなの。」
「踊りました踊りました!ターンしました!」
「それよそれ!その思考が色んなアイディアを出してくれたり、
店舗を探す術にもなるの。」
「私、今日帰りにノート買って書いてみます!」

順子さんはにっこり笑って、やっと3枚カードをめくった。

うんうんと頷き、あ~~と納得をし、えっと…と、言葉を選んだ。

「マリちゃん、カフェで働いたことはあるの?」
「はい、学生時代に」
「楽しかった?」
「はい、とっても」
「そこの店長さんも楽しそうだった?」
「あー、そう言えば月末にいつも支払いがどーのこーのって、ブツブツ言ってました。でも月始めは元気でした」

順子さんは「あはは」と笑いながら、

「継続していくって結構精神力がいるのよ。」

その言葉には、今までになく重みがあった。

第7話 「カフェなんていつでもオープンできる。資金とか今の仕事が辞められないとかは、所詮言い訳…」

開いているカードは、依存・期待・他人任せ・才能・執着の5枚。

順子さんは、まだ開いていないカードを見つめながら言った。

「お店なんてね、実はいつでもオープンできるの」
「でも資金とか」
「本当にやりたいと願ったら空から降ってくるわ」
「そんな~」
「降ってくるは言い過ぎだけど、調達できちゃうの」
「有り得ない~」
「資金がないからお店ができないは、私にとっては最大の言い訳に過ぎない。」
「だって手元にお金無いんですよ」
「じゃあ、私がここを手放すからマリちゃんやってくれって頼んだら?」
「あ…それは…」
「今日買った宝くじが当たる事もあるかもしれないし、自分も知らない親戚からの莫大な遺産が入って来る可能性だってあるし、補助金助成金、資金に関しては様々な可能性はあるの。

お金がないから出来ない、会社が辞められないから出来ない、したいことに言い訳をつけているうちは、本当はしたくないという事。

或いは、今は時期ではないという事。さっきも言ったけど、オープンなんていつでも出来る

私は、しぶしぶ同意の頷きをした。

「だからオープンは、さほど問題じゃない。大事なのはオープンしてからよ。なんでもそうだけど、続けていくって凄いことなの。多くの人は我が強いので、人の言うことを聞かない。

でも、その中で聴く耳を持っている人がいる。その聴く耳を持った人の中で、今度はやる人とやらない人が出てくる。次にやる人の中で、ただやった人とずっとやり続ける人と分かれてくる。そのずっとやり続けた人が成功者。

パッと華々しく見えて、物凄くお金を儲けた人でも、すぐに消えちゃう人は成功者とは言えない。成功者はずっとやり続けて位置が決まっている人

人生経験の浅い私にも順子さんのその台詞は、胸に刺さった。

「マリちゃんが嫌だ嫌だと言いながらも会社に行き続けていることは、それはある意味凄いことなのよ。嫌だからって2~3ヶ月でやめちゃう人もいっぱいいるわ。

その会社で何となくやっていることも世の中の歯車の一つになって、役に立っているのよ。会社が10年務まれば自信にもなる。それが20年30年になればもっともっと力になる。信用にもなる。だから自分が身を置かせてもらってお給料を頂いている場所の悪口は、言わない方が誇りになるの。

ただ、そこへ行っていることが自分の人生を犠牲にしてまで耐え忍ばなければいけないような職場なら、さっさと辞めて転職なさい。飲食業へ転職して現場を見るといいわ。

吸収できる事を沢山吸収して人間力をつけて、その傍らで夢を事細かく思い描き、いつでもチャンスの波に乗れるように準備しておいて。

嫌だと思って安易にやめたら、その代償はカフェを開いた時にやってくるわよ。仕事を辞める時は、あー沢山学べましたありがとうと、感謝に変わった時。

問題を抱えたまま辞めたら、次の場所で同じ問題が待っているだけよ」

私は、すっかり押し黙ってしまった。

沁みる。

順子さんの言葉が深く沁みる。

「まだまだ、あなたにはお店を持つ資格なんかない」と言われたような気がした。

「あなたがお店を開いたってどうせすぐ潰れちゃうわよ」って言われたような気がした。

順子さんはまた3枚カードを引いた。

真実・愛・繋がりの文字が見えた。

「マリちゃん、お店持つの、怖い?」
「怖いです」
「すごく怖い?」
「すごく怖いです」
「本気で怖い?」
「本気で怖いです!」
「じゃあ、あなたの夢、叶うわ」
「え?」
「ただ、その恐れを超えないと遠いけどね」
「超える?」
「厳密には入るかな」
「はいる??」
「マリちゃんがそんなに怖いのは、真剣に望んでいるからよ」
「?」
「大統領になるのは怖い?」
「え?は?」
「そんな事望んでもないから怖くもなんともないでしょ?」
怖いのは、お店を持てる可能性を潜在意識が知っているからよ。成功する自分を知っているからよ。

今夜ノートにビジョンを事細かく書いてごらんなさい。真実であればあるほど、怖くなってくるわ。そしていっぱいワクワクもしてくる。そしたら本物。

本当に自分のお店を持つんだって、覚悟をしてみて。でも、さっきも言ったようにお店をオープンするのは誰でもできる。肝心なのは、それを維持していくこと。

まだまだ先は長いわ。まずは、覚悟という扉を開けて!

カードの残りは2枚。

「マリちゃん、自分で一枚引いて」

そのカードはマリちゃんが恐れているもの。

私は恐る恐る順子さんの顔を見ながら、ゆっくりめくった。

カードは「成功」。

成功?成功が恐れ?

順子さんは、カードを手にとって

「人間が最も恐れることはね、成功だって言われているの」

そう言って、山の頂上で万歳をしている成功のカードを私につきつけた。

「成功をして何もかもが上手くいくと、これは一体いつまで続いてくれるんだろう?これがなくなったらどうしよう?私はこの場にふさわしい器を持っているのだろうかと不安に耐え切れなくなるから。

だから慣れた場所、そう、うまくいかなくてずっと愚痴を言っていた世界へ戻って、文句を言いながら安心するの。人や物のせいにできるからね」

「わかります。うまくいくことが怖くなるってわかります。でもいやいや!そんなのいやです!折角成功のカードが出ているのに。私、成功したい!

じゃあ、最後のカードを開いてみて。

それが、今マリちゃんに一番大切な事。

成功する為にすべき事。

今度はカードをしっかり見て、めくった。

「信頼」

それは自分で自分を抱きしめている格好をした人間が、更に大いなるものに抱きしめられているような絵だった。

順子さんは言った。

「敢えて説明はしないわね。ただ言えること。成功者は目、に見えない大いなるものにいつも感謝をしているわ」

本で読んだことがある。

松下幸之助さんは面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか」と聞き、そして運が良いと言った人を採用すると。

美容業界で有名なカリスマ美容師は面接の際、「ご先祖様を大切にしていますか?」と聞いて、大切にしている感謝していると言った子だけを採用するという。

これは、神仏を信じるかということではない。

心の持ちようを問うたもの。

運は考え方や心の在り方が引き寄せるもの。

抽選で天が与えたわけじゃない。

良いことが起こるというのは、絶対に以前に良い種を蒔いているからなのである。

そしてここに今自分が「在る」のは、父母、祖母祖父、曾祖父母・・・ご先祖様のおかげなんだ。

私は、私をもう少し「信頼」してみようと思う。

第8話「イメージという名のスイッチを連打できれば、カフェ経営は上手くいく!」

エリさんが下りてきた。

二人目の施術が終わったようだ。

続いて、お客様も下りてきた。

ビフォーを見ていないので違いはわからないけれど、施術後でキラキラしていた。

「あら、マリちゃんやってもらってるの?」

広げられたカードを見て、エリさんは私の頭を撫でた。

「何ですか?それ」

と、お客様。

どうやらこのお客様はここが初めてのようだった。

「すごいですよ!カードを使って自分の中の色々がわかって見直せますよ」

私は自分の気づきの興奮も手伝って、そのお客様に意気揚々と体験を話した。

「わ、じゃあ私もやってもらおうかな」

女子は占いが好き。ほぼほぼ当てはまる。

私もカフェをオープンしたら絶対占いを取り入れよう!

順子さんが、そのお客様のお相手に入るのを機に、私は帰ることにした。

「すっかり長居をさせてもらってありがとうございました」
「またいつでも寄ってね」
「私、しばらくは自分の今の仕事頑張ります」

順子さんとエリさんはうんうんと優しく頷いていた。

二人は玄関まで見送ってくれて、なぜか初めて来たばかりのそのお客様もお見送りしてくれて、私は清々しい気持ちで、カフェ「R」を後にした。

外は日が暮れていて、真っ暗だった。

「そうだ、ノートを買って帰ろう」

順子さんは、ごちゃごちゃした気持ちは書き落とすのが一番だと言っていた。

活字にすることで、整理がついていくと。

私は駅前の雑貨屋さんでノートにしてはちょっと値段の張ったものを手にした。

100均にもノートはあるけどね、なんか気分的に高級ノートに書きたかった。

自宅マンションに帰って、手を洗い、私はまず柏手を打った。

ぺちゃ!

あ、順子さんの言っていたぺチャだ。

違う違う。

仕切り直し、右手を少しずらして心を澄ませ、もう一度打った。

パン!

パン!

部屋の空気が・・・変わった。

私の中の歪みが張り、淀みが澄んだ。

ラメの入ったゴールドのノートの表紙に、なんて書こう?

『成功の心得』

ちょっと違うなぁ

『失敗しないカフェ経営に向けて』

いや、いきなり表紙に失敗の文字は縁起悪いな。

『するべきリスト』

堅苦しい。。。

あぁ、ダメだ詰まってきた。

表紙のタイトルごときにもう1時間も考えている。

気分を変えてコーヒーを淹れよう。

先日買ってきた生豆を手煎りの焙煎機器に入れる。

火にかけ、生豆を転がしていくと徐々に色を帯び、表皮が向け始める。

青々とした煙が火事でも起こさんばかりに立ち上がり、生豆が茶色になっていく。

剥けてきた表皮が舞い上がり、だんだんと香りも立ってくる。

生豆の水分が飛んで軽くなるとやがて軽くハゼる音。

この小さな爆発音と変わりゆく香りを頼りに、火を止める。

きっとこの香りは外まで走っているはず。

あぁ、このコーヒーを届けたい。

私が「お店を持ちたい」と思った一番のきっかけは生豆だった。

会社で飲む酸化しまくったコーヒーとは違い、生豆から炒ったコーヒーは薬にさえなるほど体にいい。

ブラックでも飲みやすく、何杯飲んでももたれない。

炒った豆を冷ましている間、キッチンを掃除した。

順子さんが言う掃除掃除掃除は、自分の心の整理整頓だ。

すっきりした気持ちで飲むコーヒーは、きっと美味しく味を変えてくれる。

冷めたコーヒーの豆をミルでガリガリと挽き、布のフィルターをセットして、ゆっくりとお湯を注いでいく。

粉がお湯を含み、布の淵まで上がってくると、呼吸をするように今度は下がっていく。

何度か呼吸をした後の、カップに落ちたコーヒーは丁度いい温度だ。

一口飲んでひらめいた。

責めの赤いマジックを手にとって、表紙に書いた。

ニッコリマーク 

を。

つべこべ言わずににっこりマーク。

言葉よりも感覚で伝わってくる図柄。

多分これから私はいろんなところでニッコリマークを見る度に、自分のノートの内容を思い出すだろう。

コーヒーの香りと共に味と共に、ノートの事を思い出し、笑う度に自分の夢の事を思い出し、スイッチが入るだろう。

心して書き落とそうと思った。

これからしたいこと。

すること。

した方がいいこと。

・気に入ったインテリアがあったらどこのものか聞いてみる。
・照明の明るさや角度をちゃんと見る。
・素敵な雑貨屋さんがあったらその都度名前をチェック。
・素敵な音楽がかかっていたら、恥ずかしがらずに定員さんにCDのタイトルをきく。
・育てやすい観葉植物は何か。
・駅から10分圏内 駐車場があること
・席数は・・・

具体的に色んな事を書いてみた。

こうやって色んな事を思い描きながら書いていくことで、心が踊る。

イメージが湧いてくる。

怖いけど、怖さは痺れてやがて切れていく。

カフェの講習にも行ってみよう。

お料理やパンもちゃんと習いに行こう。

もっとカフェのオーナーの話を聞いてみよう。

いい事ばかりじゃないはず。

それもちゃんと聞く耳持とう。

素敵なオーナーのいいとこ取りをして真似をしよう。

順子さんの言うように忙しい店を形相変えてするのは嫌だ。

占いやエステを取り入れたり、お客さんにお部屋を貸して教室や講座をやったりして、一緒に楽しんでいきたい。

順子さんは言っていた。

「このお店は、もはや私だけのものじゃなくなっているの。

スタッフやお客様が空気を作り上げ、私のお客様だけでなく、エリさんを始め、様々な人が部屋をレンタルしてお客様を呼び寄せ、繋がりができて広がっているのよ。年月とともに、お店が進化しているの」

15年も同じ場所で、繰り広げられている繋がり。
縮んだり伸びたりしながら、必ずいつも心地いい状態にある。

いつもいつも経営戦略を考えるでもなく、どうやったら儲かるかなんて順子さんにはどうでもいいことのようだ。

楽しめること、面白いこと、笑えるネタ、それが一番の優先順位だった。

順子さんは、つまんないお店にしない為には、自分自身が面白い人間になること、魅力的な人間になる事だと言っていた。

現に、私は順子さんが面白い。

たった2日の交流だけど、まだまだ順子さんの経験や体験、知識や考え方に興味が尽きない。

順子さんのスイッチが、オンの時もオフの時も面白い。

順子さんのスイッチは、エプロンだって言っていた。

エプロンの紐を結び終えると仕事のスイッチが入り、脳内にトップガンのテーマが流れるそうだ。

そしてエプロンの紐を解いてオフになる。

或いはカードを手にし、切り終えて深呼吸をした時占い師のスイッチが入り、ロッキーのテーマが流れるそうだ。

曲目が昭和の順子さんらしくて笑える。

順子さんは全てを楽しんでいる。

「しあわせだなぁ~」と思える瞬間をいつもキャッチしてエネルギーに変えていた。

第9話「カフェオーナー順子がお客さんに隠している裏の顔とは?」

10代で感じていた一年間と、20代で感じる一年間は、全然違う。

すっかりカフェ「R」の常連となった私は、順子さんと出会って、あっという間の一年を過ごした。

パソコンを持ち込んで自分の部屋化する迷惑な客となる日もあれば、借り出されてスタッフと化す日もある。

今日は「R」のクリスマスパーティ。

早朝からパーティビュッフェのお料理のお手伝い。

7時に来てくれと言われ、私は10分前にキッチンに入った。

本来ゆるい「R」の事だから、少々過ぎても順子さんは怒ったりしないし、

「ま、いっか」
「そういうこともあるよね」
「どっちでもいっか」
「後でいいんじゃない?」

と、大体の口癖がこれなので、7時ジャストでもいいのだけど、私は以前学習したので、10分前に入った。

夏のパーティの時、早く行き過ぎても段取りの迷惑かもしれないし、遅く行ってルーズに思われたくもないし、というわけで7時ジャストに行ったことがある。

すると、既にほぼほぼお料理の下準備が出来ていた。

仕込みの量を見ただけで、どれだけ早起きをしていたかがわかる。

味を染み込ませたい物は前日までに、青いものや色が変わってしまうものは出来るだけ当日に扱う。

完璧な段取りに、

「順子さん、私ヘルプ要りました?」

と、聞いてみると、

「要る要る~、まだまだやることいっぱいあるわ。とりあえず、靴履いて」
「え?」

私は今脱いだばかりの靴をまた履き、順子さんについていった。

順子さんは近くの神社へ私を連れて行った。

一緒に鳥居の前でお辞儀をし、中に入って手水で手を洗い、お賽銭をあげて、礼をする。

「ありがとうございます」

それだけでいいから。

そう促されて、心の中で「ありがとうございます」と呟いて、参った。

帰り道。

「氏神様にはね、毎朝ご挨拶に来ているの。この街を守ってくださっているこの街の神様だから、ここで生かして頂いていること、商売をさせてい頂いていること、
住まわせて頂いていること、無事でいること、そういうこと全部ひっくるめて、ありがとうございますって、挨拶に来てるの」

朝のお手伝いがなければ、私は順子さんにそんな習慣がある等知り得なかった。

お店に戻って、二人で這いつくばって雑巾がけをし、順子さんは仕込みの続きを、私は玄関とお庭を履き、人数分のスリッパを出したり、トイレや階段の掃除、テーブルのセッティングをしていった。

この一連を経験していたので、今回は先に一人でお参りに行ってから、お店に入った。

順子さんの仕込みの流れを止めることなく、順子さんのタイミングでご挨拶へ行って頂くために。。。

順子さんのゆるさの裏には、完璧な周到があった。

そして、それは他人に見せたりはしない。

「R」のゆるさは、下手をすれば只のだらしない店になりかねない。

けれども、安心できる落ち着く空間として心が緩んだり和んだりするのは、影ですべきことをしている順子さんが創り出しているものなのだ。

そして、彼女はそれを努力と思ってはいない。

実は、順子さんはゆるいながらも遅刻が嫌い。

でも自分の遅刻を嫌うと、他人の遅刻も許せなくなってくる。

そうなれば、苦しいのは自分なので、自分を好きになる為にも遅刻を許すようにしているそうだ。

だからって順、子さんが遅刻魔というわけではない。

この一年、私は順子さんに待たされたことがない。

というか、私が早く着いた時も遅くなってしまった時も、ほぼ同時に待ち合わせ場所に現れるのだ。

「すみません、遅くなってしまって。。」
「大丈夫よ、まだ約束の時間にはなっていないから」

順子さんより遅くなる事はたまにあったけれど、私は遅刻をしているわけではなかった。

「マリちゃんが遅刻をしない人だから言うけどね、私、遅刻が嫌いなの」
「す、すみません!!」
「だからマリちゃんはしてないってば~」
「でも、お待たせしてますしー」
「それは勝手に私が先に来ているだけだから」
「人の遅刻はね、気にしないようにしてる。でも自分の遅刻はなかなか許せなくて。。時間って貴重なものだし、お金だっていう諺もあるわ。

もしも相手が10分前に来る方で、私が10分遅れて行ったら、私はその人の20分の時間を奪ったことになる。その大切な時間を奪ってしまう罪悪感に 耐えられないの」

私の心の声「いつもいつも遅刻してくる常習犯のエリカに聞かせてやりたかった。
時間泥棒め!」
「でもね、私が毎回待ち合わせ場所に先にいたらどう?」
「き、緊張します。絶対遅刻できないと前日から気が張ります」
「でしょ?だからその加減が微妙でさ」

その結果、順子さんは相手の姿が見えてから登場するに至ったのだ。

今着きましたと言わんばかりに、殆ど同時に。。

相手が早く着きすぎても待たせることもないし、遅れてきても同時に現れれば相手も罪悪感を持たなくて済む。

「そんなに気を遣って疲れませんか?」
「あはは、疲れた結果、これが一番収まりがいいみたい」

結局、順子さんは本当は物凄くちゃんとした人だった。

人には見せない裏方の周到が、緩みを生み出していた。

そして、お客様はそんな順子さんに、素直に甘えている。

早朝、薄暗かった空もすっかり明けてきて、朝というのはどうしてこうも時間が経つのが早いのだろうか。

あっという間にパーティの開始時間になった。

大皿に色鮮やかな野菜料理が並び、カラフルなパーティ用のカップやクリスマス仕様のBGM、参加者が持ち寄ったスィーツの包みを見るだけで、皆の声のボリュームが上がった。

今日のメインは、ピアノとボーカルのジャズライヴ。

夏に行われた時と同じユニット「ラムーン」さん。

好評だったので順子さんがまた呼んだ。

前回ファンが付く程素敵なライヴで、今日はクリスマスバージョンで私も楽しみだ。

ジャズというのはなにかしらアレンジされたりリメイクされたりして、結構耳にしていたりする。

ラムーンさんは、曲の前に必ず歌詞についてのエピソードを話してくださるのだけど、その前フリのおかげで、しみじみと聴き入ることが出来る。

あー、この曲、こんな歌詞だったんだー、と。

クリスマスソングで盛り上がり、アンコールの時間に、順子さんがリクエストをした。この曲は夏にもしていた。

ラムーンさんが歌う『この素晴らしき世界』

順子さんは泣いていた。

こんなに素敵な歌詞だったんだ。

こんな素敵な歌詞に涙する人生を送ってきた順子さんの涙に、つられて私も込み上げた。

イベントの中に静と動があり、順子さんの心に陰と陽があり、全てがお店に、素敵に反映している。

第10話「カフェオーナーがお客さんの前で避けるべき話題とは?そして、マリコの決意とは!?」

魅力的な人になる為に、大切な三つがあるそうだ。
旅をする事。 本を読むこと。 人と会話をする事。

順子さんはこの3つをクリアしていた。

順子さんは若い頃、バックパッカーで世界中を旅している。オーストラリアをジープで一周した話、ニュージーランドをヒッチハイクで廻った話、マイアミでパイロットと恋に落ちた話や、インドでサイババに会った話、香港で捕まりそうになった事とか、ラスベガスで大当たりした話、引き出しが沢山あって私もまだまだ聴いていない話がいっぱいある。

本は、小説やエッセイ、啓発本や精神世界、漫画も話題の本も、ジャンルを問わず沢山読んでいる。

そして旅と本で得た知識と経験を、会話の中で面白おかしく引用して順子ワールドに引き込んでしまうのだ。

私は順子さんに会うまでは、友人との会話が会社の愚痴だったり、彼氏への不満だったり、人間関係の悩みだとか、将来の不安だとか、ネガティブな話で盛り上がっていた。

それを楽しいと勘違いしていたのだ。

カフェ「R」に通って1年。

大きな地震があったり台風での水害があったり、テロだ無差別殺人だとか、世の中が大騒ぎをした日が何度かあった。

けれども順子さんは、決してそのような話題をお客様にふることはなかった。

ましてそこにいない人の話など以ての外。

お客様からふられるとサラッと流し、他の楽しい話題にすり替えてしまう。

「沈むような話しても誰も笑顔にはならないわ。世の中には面白くて楽しい話がいっぱいあるのに、わざわざ悲惨や残虐に焦点を合わせる必要はないんじゃないかな」
「でも、そういう話題が好きな人もいますよね」
「そう言う人は話をすり替えても必ずネガティブな話に戻すから、またすり替えてやるの。3回位すり替えたら本人が気づいてしなくなる」
「順子さんって絶対暗い話しないんですか?」
「友達とはするわよー。気心知れた友人とは弱音も吐くし、昨日の地震大変だったわねーみたいな話もたまにはする。でも、お店で店主が話題にする話じゃないと思ってるから」

ごもっとも。

以前行った美容室で、スタイリストがずっと気分の悪くなる話ばかりしていたことがある。
今日は天気が悪い、寒いから始まって、最近の日本の政治はどうかしているとか、天災が多くてきっとこの街に来るのも時間の問題だとか、事件の犯人への批判や起業の不祥事の疑念、
そんな話をその小さな美容室で話したとて、着地点などないのに。。

話をすり替える術を知らなかったので、ずっと聞いていたけれど、その負の思いのまま切られた髪の毛は、気に入るはずもなく、後日別の美容院へカットし直しに行った。

こうやって自分が体験すると、されて嫌なことは人にはしないようにしようと思うし、嬉しかったことはしてあげようと思う。

嫌な種は撒かないようにし、刈り取らないようにもする。

良い種はたくさん蒔いて、たくさん刈り取ってまた撒いていく。

シンプルだ。

「マリちゃん、私もまだまだなんだけど、精神的豊かさと経済的豊かさっていうのがあってね、この両立ってなかなか難しいのよね。

経済的豊かさを持っている人は、実は傲慢だったり寂しがり屋だったりと、精神的豊かさつまり心の豊かさが伴っていないことが多い。

精神的豊かさを持っている人は、良い人だけれど経済的に乏しかったり、経営が上手くいかなかったり、こんな人多いでしょ。」

「あー私、心も真っ黒だしお金もないって、最悪??」
「こらこら、卑下しすぎよ。マリちゃん私は大好きよ」
「好きよって…フォローになってるような、なってないような。。」
「心は黒くないからー」
「はい、そんなに悪い奴でもないかと。。」
「大丈夫、精神的豊かさは持ってるわ。マリちゃん良い子だもの」
「お金はないです。生活ギリギリ~」
「うん、そこね。片方は豊かっていう人はいっぱいいるんだけど、両方豊かっていう人が少ないの」
「私の周りにはいません。順子さんはそうじゃないんですか?」
「残念ながら経済的豊かさがもう少し欲しいかな。人には恵まれていると思うから精神的豊かさはあると思うわ。でね、私達のように片方だけの人と両方充実している人との朗らかな違いっていうのがね、」
「なんですか?なんですか?」
両立されている方たちっていうのはね、付き合う人を選んでいるということなの」
「付き合う人を選ぶ?」
「そう」
「精神的豊かなのに付き合う人を選ぶって、意地悪くないですか?」

「私も最初聞いたときそう思ったわ。それって精神的豊かな人がとる行動ではないのではないのか。どんな立場や境遇の人にも、手を差し伸べるのが豊かな人なんじゃないかってね。」

「違うんですか?」
「例えばね、やっと立った赤ちゃんを想像してみて。フラフラとこけそうになるの放っておく。これって冷たい?」
「んー」

「最初は手を貸したとしても、いつもいつも駆け寄って手を貸していたら、いつまで経ってもその赤ちゃんは立てないし歩けない。少し離れたところで、大丈夫大丈夫こっちまでおいでって見守っているのが相互の自立に繋がる。

少々転んで泣いても、放っておいたら勝手に立ち上がるわ。立ち上がらなかったら、こっちでものすごく楽しいことをするの。そしたら、その面白いことに参加したくなって歩いてくるわ。

精神的経済的に両立できている人っていうのは、そういうことが分かっているから、わざわざ手を差し伸べるということをするのではなくて、もう立っている人と付き合って楽しんでいるのよ。

冷たいと取る人もいるかもしれないけれど、そう取る人自体が精神的に豊かではないんだと思うわ。ありのままに物事を観る。判断しない。だから寛容で余裕があるとも言える」

「なるほど~、私も早くその域に行きたいです」
「私もそれは目標だわ。精神的にも豊かになって、経済的にも豊かになって、
片方だけの人がここに来たらバランスが取れるような場所にしたいわね」
「私、いいモニターになれると思います」
「きっと質の良いお客様が増えるわ」

私は順子さんを目指して、順子さんは更に理想を目指して、カフェ「R」は皆で進化を遂げている。

順子さんはこのお店を始めた時、2年位で終わるだろうなと最初から弱気だったそうだ。

蓋を開けたら、楽しい事や面白い事が多々あって、3日が3週間に3週間が3ヶ月に3ヶ月が1年に、1年が3年に。

そして、3年続いたら10年続けられる。10年続いたらいつでもやめられる。

いつでもやめられるって思ったら勝手にここまで来ちゃった。

そう言って舌を出して笑っていた。

丁度いい力の抜き加減を、これから順子さんの傍でしっかり学んでいきたい。

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