今・・君は幸せですか?

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今・・君は幸せですか?

“私が大学生の頃のことです。
同じサークルに所属している同期の女の子に恋をしていた私。
しかし彼女はサークル内では誰もが憧れる女性で、ルックスにもトークにもその他の能力全てにおいて平均的な私には高嶺の花でした。

 

サークルの活動の時にはいつも、彼女の周囲にはイケメンで面白い男性達が集まり、気を引こうと必死。
口下手で内向的な私はといえば、「別に興味ないね」という素振りをみせて突っ張るのがやっと。
今思い出しても恥ずかしくて赤面するしかありません。

 

ある日のサークル活動の日、その日はお台場の海岸に行き、みんなで大騒ぎしていました。
突然、見たことのない長身の女性が私の隣に座り、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、鋭くまっすぐに私の目を見つめ始めたのです。
「何ですか?」

サークルにこんな人いたっけ???

 
そう思いながら彼女に問いかける私。
初めてみるタイプの女性でした。
都会育ちといえばいいのか・・・遊び慣れているといえばいいのか・・。
異性を思いっきり意識した露出の多いファッション。
派手なネイルとプラチナブロンドのロングヘアー。
夜のお仕事がめちゃくちゃ似合ってしまうタイプ。
それまで地方都市で育った私にとっては、言葉に出来ない不安を感じさせる人だったのです。

 

「ねぇ♪あんた・・・・あの娘の事・・好きなんでしょ♪」
初対面のはずなのに、いきなりプライバシーもヘッタクレもない質問!
しかもイタズラっぽい笑みを浮かべたその顔は、明らかに私をからかって遊ぼうとしている様子でした。

 

どうしてわかった??
と喉まで出かかったところをグッとこらえ
「バカ言わないでください。あなた誰なんですか?」

私の質問に対してプラチナブロンドの女性はニッコリ微笑み
「私?誰からも聞いてないの?あんたの先輩だよ♪」
何言ってるんだこの人は?
私がサークルに入って半年
そんなに人数も多くないサークルなんだから、全員知ってるに決まってるでしょ!

 

「私の事知らなくても仕方ないかもね。あんたが入学する直前に大学辞めたから♪」
大学辞めたのにどうしてサークルに?
「みんなとの友達まで辞めたつもりはないからね♪」

話してみるとその先輩は「コーヒーショップをオープンしたい」
という理由で大学の経営学部に入学したが
毎日毎日全力で気合を入れて勉強をしていたところ
入学から2年で学ぶべきことがなくなってしまった為
コーヒーショップでアルバイトをしながら修行をしているとのことでした。

 
後に先輩に尋ねたところ、サークルに所属しときながらいつもなにがしかの本を手に持っていて、成績も学年トップで有名だったそうです。
「そんな風にクール決め込んでても彼女は落ちないよ♪」

なんてデリカシーが無い人なんだろう・・。

 
そんなことを思いながらも先輩との話に引き込まれていってしまう私。
ド派手な姿からは想像もできないほど先輩は話が上手で気さくな人。
あっという間に仲良くなりました。
その日の別れ際、先輩は私に一枚のスタンプカードを渡してくれました。
「私さ♪昼から夕方は大抵その表参道のカフェで仕事してるから。授業の合間にでも飲みに来てよ♪おまけは絶対しないけどね♪」

 

それから私は大学の授業を受けた帰りに先輩のコーヒーショップへ通うようになりました。
話しをするなかで、なんでも感情を露わにする先輩
特に仕事の愚痴がとても多い方でした。
「あれがムカつく!!こんなことは嫌い!!」
などなど。
それに対して
「そんなこと言わないで。頑張ってくださいね。」
と笑顔で答える私。
私達を見ていた人は「いいコンビ」と思っていたようです。

 

いつの間にか私と先輩は何でも話せる関係になっていました。
先輩と出会ってから1年。
私は先輩に初めてあった時に指摘されたこと
「彼女のこと好きなんでしょ」
という言葉を認めて、先輩から恋愛の助言を受けるようになっていました。
幸いなことに彼女と先輩はとても仲良し。
先輩からのアドバイスに従って、私は彼女を先輩のカフェに誘ったのです。

 

その日、緊張する私と、そんな私をニヤニヤしながら横目で見る先輩
私と先輩に誘われて楽しそうな彼女。
それから私は度々彼女を先輩のカフェに誘うようになったのです。
彼女に抱く想いが叶うことを夢に見ながら。

ある日先輩から
「そろそろ良いんじゃないの?」
というゴーサインをもらった私は彼女に告白することを決意しました。
いつものようにカフェで談笑する私と彼女。
いつのまにやらいなくなる先輩。
ありったけの勇気を振り絞って告白した私。
結果は無残なものでした。
「ごめんね。付き合ってる人がいるの。」
今から思えば、彼女ほど魅力的な女性に彼氏がいないということはありえないことでした。

 

彼女が帰るまで、「平気だよ」という顔で突っ張っていた私。
その後は呆然とするしかありませんでした。
想いが届かず、哀しい想いをなんとかして沈めようと必死になっている私の目の前に、コーヒーが差し出されました。
「飲みな。元気出るからさ」
いつの間にかカウンター越しに、私の前に戻ってきていた先輩。
温かいコーヒーを勧めてくれました。
コーヒーを一口飲んで振り絞るような声で先輩に報告。
「ダメでした・・・・。」
「知ってるよ。何も言わなくていいから。」

どうやら先輩は告白する前から何となく結果がわかっていたみたいです。
私が失恋すると知っていて、私に告白するよう背中を押していたと言っていました。

 
どうしてそんなことを?
私に失恋して欲しかったのか?
「私さ・・・・海外に修行に行くんだ。あんた・・・・私がいないとどうせ告白して砕けることもないまま彼女のこと諦めてたでしょ。私がいなくなる前に、ケジメをつけさせようと思ったの。やって後悔した傷は時間が癒やしてくれるけど・・『あの時告白してたらどうなったかな?』ってやらないことを後悔することは、時間が傷を深くしていくんだよね。」

先輩の言うとおりでした。
今この時に告白しなかったら、私は時間が経つに連れて後悔の念を膨らませていっていたでしょう。

 
先輩はこう続けました。
「今この時を大切にしな。今を全力で生きて。過去も将来も忘れて今を全力で頑張ったあんたなら、きっと幸せになれるから。」

 

先輩は幸せですか?
そう尋ねる私に先輩はこう応えました。
「あんたみたいな勇気のある友達がいるんだから、幸せに決まってるでしょ。もっともっと幸せになるために、私世界で一番美味しいコーヒーいれられるようになって帰ってくるから!!」
私のことをあえて「後輩」とは言わずに「友達」と言ってくれた先輩。
その時まで私は待ってますね。
早く帰ってきてくださいね。

それが、プラチナブロンドのド派手な先輩を観た最期の瞬間でした。

 
数日後、先輩はイタリアへ。
私は先輩の言葉をまるで呪文を唱えるように、いつも口にしています。
「今を全力で。今を全力で。今を全力で。」

あの日から7年が過ぎました。
私は結婚し、妻のお腹には私の子供が宿り、『幸せとは何なのか』を初めて知った心地です。
先輩は幸せですか?
それとも…?
世界で一番美味しいコーヒーを飲むたびに、私はいつもいつも、そのことばかりを考えて不安になってしまいます。
先輩が幸せじゃなかったらどうしよう。
私はこんなにも幸せになったんだから、先輩にも幸せになってもらわないと・・・・。

幸せかな?身体の調子は悪くないかな?困ってることはないかな?悲しい目にあってないかな?今どんなこと考えてるのかな?寒くないかな?暑くないかな?喉乾いてないかな?お腹すいてないかな?

 

私の隣には大きくなったお腹を幸せそうに撫でる妻。
「今・・・幸せ?」
何度となく投げかけられる私の質問に対して、妻は嫌な顔ひとつせずに、いつもこう応えてくれます。
「そうだねー♪あんたみたいな旦那様がいるんだから、幸せに決まってる・・・かもね♪」
初めてあった時のようなイタズラっぽい笑み。
美しく長い黒髪を後ろで束ねている妻は、毎朝世界一のコーヒーをいれてくれます。

「産休で店休んでる間、私のいれるコーヒー飲めるのあんただけなんだからね。赤ちゃんいるからカッピングしてないけど♪」
今朝、コーヒーを飲む私に妻はそう言うと、ニッコリ微笑んでくれました。

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