1杯のコーヒー

10年ほど前、私にはとても大切で大好きな彼がいた。彼は背が高くて、カラッと笑う笑顔の素敵な人だった。同じ年の彼とはアルバイト先で知り合って、いつの間にか2人で遊ぶようになった。
彼に会いたくて、大学生だった私はしょっちゅう彼に会いに行っていた。2人でたくさんの話をした。将来のこと、夢のこと、悩みのこと。たくさんたくさん語り合った。
何時間話しても話し足りない。話をするだけで、ときめいて楽しめるってもうないだろうな。人生の中で1番輝いていた瞬間だと思う。
当時、お金がなかった私たちはよく缶コーヒーを買って2人で飲んだ。壊れそうな軽自動車に乗って、海を見に行ったり、公園に行ったりした。あてもなく、何時間も一緒にいた。でもそれだけで、楽しかった。どうしてあんなに楽しかったんだろう。どの瞬間を取ってみても、キラキラ輝いてその瞬間だけ別の世界にいたかの様に思える時がある。私は幼かったのかもしれない。ただ、好きだった。彼の欠点も嫌なところも何も知らなかった。

 

2人でよく音楽も聞いた。はやりの曲を歌う彼の横顔、声が大好きだった。歌がうまくて、ギターを弾いてる時の真剣な顔とメロディーをそっと眺めてた。今、その曲を聞いても当時の事がフッと蘇ってくる。
静かで穏やかな時間をいくつも重ねていった。
寒い日も2人で出かけて、エアコンが効かない寒い車の中であったかい缶コーヒーを飲んだ。コーヒーを飲んだ瞬間、温かさと甘さで寒さが溶けていくのを感じた。2人で笑い合った。そして、はじめて彼と手を繋いだ。つないだ手のぬくもりとコーヒーのあったかさで、世界で1番幸せだと思った。

 

でも私たちは付き合ってたわけじゃない。好きで一緒にいたけれど、付き合ってっていう言葉が言えなかった。たったその事が言えなくて、でも言わなくても一緒にいられると思ってた。ずっと一緒にいたかった。

 

いつからか、2人で飲むのはブラックコーヒーになった。少しずつ少しずつ大人になっていってたのかもしれない。

ファミレスでも、たくさん話をした。
彼がこれから先やりたい事、くだらない事、どうでもいい事。何時間話しても話しがつきなかった。すっぱくて煮えたぎったコーヒーが美味しく思えた。何回おかわりしたかな。コーヒーを何杯も飲んだ。それはきっと、大切な人と同じ時間を共有できる喜びからだったのかな。ただ、側にいたくて、声が聞きたくて、一緒にいたかったから。でも積み重ねた時間はある日突然終わってしまった。

どうしてだったんだろう。2人で会わなくなった。最後はもう会うのはやめようって彼に言われた。その時は、今までの人生で1番泣いた。毎日毎日よくあんなに涙が出たなと思うくらい、何も手につかなくなって泣いた。そして、コーヒーを飲めなくなった。

 

あんなに好きだったのに、ずっと一緒にいたのに。私は彼女にはなれなかった。怒りとか悔しさじゃなくて、ただ悲しかった。体がちぎれるほど泣いて泣いて。
大学の講義にも出れなくなって、怒った先生からA4サイズのノートにレポート提出の課題が出された時、思いつくのは彼との思い出の言葉たちだった。行きたい国とか、やりたい事とか、好きな歌手とか。どうでもいい事だけど、私にとっては宝物みたいな思い出で、涙でノートがぐちゃぐちゃになって全部ふやけてしまった。
こんなに人は涙がでるんだ。初めて知った。
どうやったら忘れられるのか。本当に分からなかった。
それから2ケ月ぐらいたって、友達にようやく打ち明けた時、ホッとしたのと悲しみでまた泣いた。おしゃれなカフェが少しずつ増え始めた私の地元で、久しぶりにゆっくり友達と話した。ようやく、コーヒーが飲めるようになった。はぁ。ためいきと共においしいカフェラテが私を癒してくれている、そう思った。
何ておいしいんだろう。久しぶりに飲むコーヒーはおいしかったなぁ。

 

友達には彼に騙されたんだよ。って言ったけど、私はそうじゃないと今でも思ってる。
だって、お金を取られたわけじゃない。何かを取られたわけじゃない。私たちは手をつなぐことしかしなかった。もて遊ばれたわけじゃない。あんなにも、1人の人と向き合って大切にした時間は嘘じゃないから。
ずっと側にいてくれた事も、抱きしめてくれた事も本当のことだったから。
甘くて優しいコーヒーを分け合って飲んだ事を昨日のように思い出せるから。
幸せだったから。

 

大学を卒業して社会人になった私は、おしゃれなカフェでよくお茶をした。1杯のコーヒーが千円近くもするような所もあった。贅沢な日々を送っていた。友達と出かける時も必ずコーヒーを飲んだ。毎日、自由で楽しかったなぁ。と今になって思う。働くのは大変だけど、自分で稼いだお金で飲むコーヒーは誇らしかった。誰にも気を遣わなくていい。毎日飲めるコーヒーが大切なものだってことに、幸せだってことに気がつかなかった。当たり前だと思ってた。

 

社会人生活にも慣れて、充実した日々を送っていたある日、偶然彼に会った。会えなくなってから、4年ぶりだった。心臓が飛び出しそうなくらいドキドキ鳴って、太鼓を体の中で叩いているかのような衝撃が私の中に走った。でも涙は出なかった。あんなに、泣いたのに。あんなに、好きだったのに。
でも私は嬉しかった。自分の中でけじめをつけれていた事。彼の元気そうな顔が見れた事。
こっちに気づいた彼は、優しそうな彼女と一緒で、私はそっと手を振ってお店出た。
爽やかな少し冷たい風が通り抜けた。体から力が湧いてくるような不思議な感覚があった。そうか、私はもう強くなってるんだ。前を向いて生きてるんだ。絶対忘れる事なんて出来ないと思って泣いたのに。
人はまたがんばれる。
私は思い立って、近くにある美容室に髪を切りに行って、顔馴染みの店長さんにこの事を話した。
よかったね。そう言われた時、そうだ、もう私は大丈夫なんだって心の底から思えた気がした。よかったねって言われて初めて気がついた。
パーマをかけていると、店長さんがあったかいコーヒーを出してくれた。
一口飲むと、ホッとした。ああ、よかったね。自分で自分を抱きしめてあげた。体の中があったかく感じた。心の中に詰め込んでいた辛かった思いも、悲しみも全部吹き飛んでいった。
今は毎日、主人とコーヒーを飲んでいる。穏やかで当たり前の日常を過ごしている。30代になって、やっと気づいたことがある。それは、1杯のコーヒーがこんなにもおいしいってこと。実は、幸せに満ちた瞬間をたくさん過ごせているってこと。
コーヒーが飲めなくなったあの日。私は人生のどん底にいたけれど、今はこうして元気に暮らしている。だから、この何気ない生活を大切にして時間を紡いでいきたい。
これから先、40代になった時もおいしいコーヒーを飲んでいたい。主人と飲む何気ない毎日のコーヒーが幸せだと感じられる人間でいたい。そのために、今ある小さな幸せを集めて、守っていきたい。

 

50代になって、子供たちとコーヒーが飲めるようになった時、おいしいコーヒーを一緒に飲みたい。子供たちにこれから先、辛くて悲しい事があったら、温かいコーヒーを淹れてあげようと思う。私の母がしてくれたように、そっと側にいてちょっと苦いコーヒーを飲みたいと思う。ただ、黙って話を聞こう。どんな気持ちなのか、どんな事があったのか。子供たちに愛する人ができてら、その人たちともコーヒーを飲みたい。一緒に時間を重ねていきたい。
60代になったら、孫が生まれてまた忙しくしているかもしれない。かわいい孫と家族といい時間を過ごしているといいな。その時は、また幸せに満ちたコーヒーを飲みたいと思う。おいしくて温かいコーヒーを。
家族と1つ1つ、積み重ねた思い出のアルバムを見てそう思う。これからの人生にも毎日きっとコーヒーを飲むだろう。アイスコーヒーの好きな主人のために、毎日コーヒーを淹れるだろう。

あの時、たくさん流した涙もきっと無駄じゃなかった。今はそう言える。もし、もう一度彼に会えたら、今度はおいしいカフェラテを一緒に飲みたいと思う。もう、あの煮えたすっぱいコーヒーは飲めないな。何時間もファミレスにはいれないな。あんなにも楽しい時間は過ごせないだろうな。温かい場所で、おしゃれなカフェで、もう一度でいいから話をしたいな。あれからどんな人生を送ってきたのか、どんな今を過ごしてるのか。また、話したいと思う。お互いの話をしながらコーヒーを飲みたいな。
そして、文句を言ってやろうと思う。ケンカを1度もしたことなかった私たちだったから、言いたいこと、言えなかったことを言ってやろうと思う。冗談まじりに、笑って伝えたい。大好きだったって。彼女になりたかったって。まぁ、分かってただろうけどね。今なら何でも言えるから。今なら素直に言えるから。何で彼女になれなかったかも聞きたいな。今なら言ってくれるかな。聞いたところで何も変わらないけどね。
いっぱい辛かった気持ちも、全部全部言ってやろう。彼は何て言うかな。呆れるだろうな。もう何年も昔の事じゃないかってね。でもそんな呆れ顔を見たいな。また歌声を聞きたいな。好きとかそういう気持ちじゃなくて、同窓会で懐かしい友人に会えた時の喜びの様なそんな感じに似ているのかもしれない。
これは、私の妄想だけどね。きっと会う事もないだろうけどね。

 

今どこで何をしてるんだろう。そんな事を考えながら、1人でコーヒーを飲むのもなかなかいい。
さあ、今日は何をしよう?よし、今からがんばろう。そんな時は必ず1杯のコーヒーを飲んできた。私を支えてくれた。くたくたに疲れた夜も眠れない夜にも。これから先もきっと眠れないくらい悲しい夜があるかもしれない。涙が止まらない日々がくるかもしれない。でも、私は1つ1つの思い出を胸に、1杯のコーヒーを頼りにこれからもがんばっていこうと思う。

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コーヒーと、君と

大好きなコーヒーの香り。
苦いような、酸っぱいような、古本みたいな、都会のような、旅行のような、明け方のような、夜のような香り。
コーヒーの香りはいつも、誰かと過ごす楽しい時間の香りで、それは母だったり親友だったり。そして、なにより、心の奥にしまい込んだ大切な彼との時間だったりする。

 

彼と出会ったのは、私がフリーターとしてバイトを掛け持ちする日々だった頃のこと。私よりも半年ほど後に入って来た彼は、他の女の子たちがちょっとテンションが上がってしまうくらいの、容姿の整った男の子だった。年齢は私よりも少し下。就職浪人で公務員を目指しているという。年上にしか興味のない私は最初、可愛い男の子が入ったな、程度の印象だった。

 

そこのバイトは男女ともに仲が良く、彼もすぐに打ち解けることができた。
休憩中、彼はよくコーヒーを飲んでいた。コンビニで買ったコーヒーなのに、彼が飲むと何だかサマになっていて、それをからかったりした。私も同じコーヒーをいつも飲んでいたから、余計に笑えた。
シフトが同じ日は、二人で一緒に帰ることもあった。読書家の彼とは、本の話で盛り上がる事もあり、メールアドレスも交換して、たまに、ご飯を食べて帰る日も増えて来た。その時も、私たちはお金もたいしてないくせに、必ずシメにコーヒーを注文していた。
彼は中身こそとても素敵な人だった。
男女問わず誰にでも優しく、真面目で、何事にも一生懸命で、とても、穏やか。とても読書家でそして、カフェ巡りが趣味だった。
仲良くなったのに、その事を知ったのは少し時間が経ってからで、よく考えて見たら、彼は自分の話をするよりも、私のことばかり聞いて来ていた。
「コーヒー飲みに行きませんか。」
ある日のバイトの帰り、彼はそう言って、最近見つけたという小さなカフェに連れて行ってくれた。!コンクリートが丸見えの、いわゆる打ちっ放しの内装。木の枠で飾られた窓。アンティーク調の、ほんとにギシギシ鳴る繊細でお洒落な椅子。都会の片隅にある、雑誌にコッソリ載るようなカフェ。
それまでほぼ、チェーン店しか入った事の無かった私には新鮮で、とても印象的だった。どのカフェでもコーヒーの香りに満ちているのは当たり前だけど、そのカフェの香りは、彼の香りにピッタリだった。
「勇気を貰いたくて。」
彼はそう行って慣れないブラックを頼んでいた。何のことかわからなかった私は、笑って、甘いカフェ・オ・レ。
その帰り道、カフェの近くの公園で、私は彼に好きだと告白された。

 

彼とのデートはいつも大きな本屋さんか、カフェが中心だった。
彼の知っているカフェを行き尽くした後は、二人で雑誌や本、ネットで検索して色んなカフェに出向いた。だけど、結局落ち着く店はいつもの決まっている。約束なんてしてなくても、カフェで何となく本を読んで待ち合わせる、なんて事もあった。初めて彼の部屋へお邪魔した時も、コーヒーの香りがしていた。台所に朝飲んだインスタントのドリップコーヒーがそのまま捨ててあっただけの事で、彼は恥ずかしそうなしていたけれど、やっぱり彼の香りはコーヒーだな、とその時思った。
ある時彼は、「コーヒーの淹れ方」なる本を買って来た。それまでは、家の中では適当にインスタントコーヒーで済ませていた私たちだったけれど、その本を読んで手間暇かけてドリップしたりなんかして、どちらが美味しいコーヒーを淹れることができるか!?と言うのが、一時、二人の中で大流行した。
勝負は結局、どっちが淹れても変わらなかったし、しばらくしてブームは去ってしまったけれど、コーヒー専用のお洒落なお揃いのコーヒーカップだけは、のちに、二人で暮らし始めた時もいつも二つ並んで飾ってあった。

 

彼は公務員試験に失敗した。
もう一年だけ頑張りたいと言い、予備校に通い始めた。それから、予備校近くのチェーン店のカフェが私たちの待ち合わせ場所になった。
予備校に行く時、私は、再びあの本を引っ張り出してきて、何回かに一度、ドリップしたコーヒーを持たせてあげたりもした。ちょっと奥さんになった気分で楽しかったし、それはそれで幸せだった。
だけど、残念なことに彼はその年も試験に失敗した。夢を諦めた彼は、深く落ち込むこともなく、「そろそろちゃんと働かなくちゃ。」と、バイトを続けながら就職活動を始めた。
時期が悪く、なかなか就職先が決まらなかったけれど、真面目で、何にでも一生懸命な彼は何とかめでたく、就職先を見つけることができた。
小さな、いわゆるベンチャー企業で、朝早く、夜は遅いという日々が続いた。
社長も同僚もいい人たちに囲まれて、彼も徐々に素敵な社会人になっていった。
私もまた、その頃、バイトから派遣社員へと仕事を変えた。
正社員も考えたが、彼との生活を大切にしたかったし、彼も、無理して働くことないよと意味深な事を言ってくれていた。
料理を作り、彼のためにコーヒーを淹れるのが私の幸せになっていた。カフェで飲むコーヒーも良いけど、お酒の飲めない彼が帰って来てから淹れて飲む、深夜のコーヒーはとっても幸せだった。
お風呂から上がると立ちこめている、コーヒーの残り香の中、私たちは一緒に眠った。
付き合って6年。
一人の男の人とこんなに長続きしたのは初めてだった。
彼も正社員として落ち着いてきている。
彼の奥さんになりたい…!
誕生日が来るたび、記念日がくるたび、イベントがあるたび、私は期待していた。
生まれて初めて私は結婚を強く意識するようになっていたのだ。
だけど、それに反して、何度も何度も肩透かしを食らっていたのもまた、事実だった。

 

しばらくして、急に、私の中で何かが変わってしまった。
何があった、と言うわけではない。
ただ、結婚願望が薄れてしまった。
そうなると、これまでの彼への気持ちも、薄れてしまうような感覚になった。
これじゃいけない。きっと、倦怠期だ。
今まで一度も感じなかった倦怠期だ。
すぐに元に戻る。
私はそう自分に言い聞かせた。
だから、そんな気持ちになっても、変わらず二人でコーヒーを飲んだ。
だけど、夜中に起きてコーヒーを淹れることは無くなった。

ある時、派遣先から声をかけられた。
正社員になりませんか?
私はその時なぜか、「はい」と答えてしまった。
彼は私のその決断に喜んでくれた。
「おめでとう!」と。
でも、私はその彼の笑顔が腹立たしく感じた。
どうして?一緒にいる時間が減っちゃうかもしれないよ?ご飯だって作れなくなっちゃうよ?
口に出していたら何か変わったのかもしれない。だけど、喧嘩するのも違う気がして、私は言葉を飲み込んだ。

正社員になって、私もこれまで以上に沢山の人と関わる機会が増えた。
中でも、仕事のできる年上の先輩と親しくなった。先輩はよく私をランチに誘ってくれた。そして、彼がいる事を知った上で、私が好きだと言った。結婚を前提で付き合いたいと言われた。
先輩は眠くなるから本はあまり読まない人間だった。コーヒーは缶コーヒー派で、好きで飲むと言うよりは、何となく惰性で飲むタイプの人だった。お洒落なカフェも知らないし、カフェ巡りなんて面倒な事はしない人間だった。
彼とは全くの正反対。
だからこそ、私は先輩を選んだ。
彼への当てつけもあったのかもしれない。

私は、彼に別れを告げた。

彼は気づいていたようだった。
私の気持ちが離れていることを。
私の淹れるコーヒーの味が変わってた、なんてドラマティックなことはない。ずっと一緒に居たからこそ、気づいただけだ。そして私も、気づいてしまった。彼が私に内緒で、婚約指輪を選んでいたことを。
最低だと思った。
自分自身も。タイミングも。
だけど、もともと気が強い私は、そこで引き返すことはなかった。本当は引き返したかったけど、勇気がなかった。彼は、私の言葉を待っているようだった。本当は引き止めて欲しかった。だけど、彼は引き止めてくれなかった。
それが、彼の優しさであり、愚かさだったのだと、今ならわかる。
最後にウチを出る時、私は「それじゃあね!」と笑ってみせた。まるで、ちょっと出かけてくる!と言うように。そんなわたしを、彼はただ真っ直ぐ私を見て、「うん。」とだけ答えた。
コーヒーの香りで溢れた、私たちの部屋を一度も振り返らなかった。

私の大切な6年。
コーヒーを飲むたびに思い出す、彼との時間。幸せと未来を感じた、あの香り。今は、思い出す度に、胸がチクチクと苦しくなってしまう。
そんな自分が嫌で、「コーヒーだけに、ほろ苦い思い出」だなんて強がってみせたりもする。
あれから私は、コーヒーにこだわりが強くなった。チェーン店も嫌いじゃ無いが、小さなカフェを見かけたら、思い切って一人で入るようになった。豆専門店で豆を買ってみたりするようになった。何か頑張ろうとする時、ブラックコーヒーを飲むようになった。
私は何も変わっていない。未来は少し、変わってしまったけれど。

あの職場の先輩が、私の今の夫だ。
夫とは、本の話で盛り上がることもなければ、二人でカフェ巡りなんてしない。夫のために、私はコーヒーを淹れることも無い。お揃いのコーヒーカップすら、私たちには必要ない。
別に仲が悪いわけじゃない。ただ、私たちの間には、コーヒーは、ない。

今、私には一歳の娘がいる。
(もちろん、夫の子どもだ。)
現在はまだ授乳中で、コーヒーはディカフェしか飲むことが出来ないが、それでも十分、香りを楽しむ事はできる。
娘が出来てから、少しだけ、胸のチクチクが和らぐようになってきた。それは、今が幸せだからだと思う。
娘が起きる前の一杯。
娘が昼寝をしている時の一杯。
そして、娘が寝た後の一杯。
私は娘のことを考えて、コーヒーを飲んでいる。
ご飯は何にしよう、今日はどこへ行こう。
娘がもう少し大きくなったら、一緒にカフェ巡りをしよう。最初はホットミルクから始めて、次はカフェ・オ・レ、そしてブラックに挑戦だ。受験生になったら、夜中に苦いコーヒーで応援してあげる。そしていつか、娘にも一緒にコーヒーを飲んでくれる素敵な彼氏ができたら、私が美味しいコーヒーの淹れ方を伝授するんだ。
きっと、彼は虜になるはず。

私は、コーヒーの香りが大好きだ。
これからも、きっと、嫌いになる事はないだろう。

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笑顔が素敵なコーヒーショップの彼女

私が23歳の頃に住んでいたアパートの近くにフラワーショップと一緒になっているコーヒーショップがありました。
アパートはいつも通勤で利用している最寄りの地下鉄駅から1キロほど離れた小高い坂の上にあって、コーヒーショップは坂の登り口にありました。
いつものようにモーニングコーヒーを飲もうとしましたが、昨日でコーヒー豆が無くなっていたことを思い出しました。

 

昨日仕事が終わったら、会社の近くのいつもの店で買って帰ろうと思っていたのを忘れていました。
その日は土曜日で休日だったこともあって、いつもの店までコーヒー豆を買いに行くのには大変なので、坂の下にあるコーヒーショップで買ってみようかと思い、脱いだままの状態で近くに置いてあったTシャツを着て、髪の毛を手で軽く整えてサンダルを履いて財布だけ持って行きました。

 

毎日店の前を通っていますが店に入るのは初めてで、ウインドガラスが意外大きかったんだなぁ・・とちょっと外から店内を覗いてみました。
アンティークな飾りが下げられているお洒落な入口のドアをあけると「いらっしゃいませぇ~」と明るく透き通った声が響いてきました。
正面を見るとショートヘアに薄いグリーンのハンチング帽がとても似合っている女性店員の姿がありました。

 

想像していたよりもお洒落で綺麗なお店で、若い女性が気に入りそうな飾り付けがされていて、とても素敵な雰囲気をかもしだしていました。
もう少しきちんとした服装で髪もセットして来るべきだったと思いましたが、今さら気が付いたところでどうしようもありません。
コーヒー豆が並んでいるガラスケースの前に行って、どれにしようかと考えていたら、私より先に隣で見ていた40歳くらいの女性が「フレンチ300g、コナ300g、ブルーマウンテンブレンド300g、コスタリカ300gをドリップ用に挽いて下さい」と注文されました。

「ずいぶんと沢山買うんだなぁ」と思いながら、自分は気軽にブルーマウンテンを買えるほどお金が無いなぁと心の中で呟いていました。
その女性の会計が終わると、静かに笑みを浮かべたハンチング帽の彼女が寄ってきて「お決まりになりましたか?」と優しく聞いてくれました。
「フレンチを200g豆のままでお願いします。」と注文をすると、彼女は「初めてのお客様ですよね?お住まいは近くなんですか?」と聞いてきました。

 

私は少し照れながら「はい、そこの坂の上です」、「よく店の前を通るのを見かけるので、近くに住まれているのかなぁ・・と思っていたんです。」
「私のことを知っていたんですか?何か恥ずかしいなぁ・・」と答えながら、本当にどうしてこんな寝起きのような格好で来たんだろうと後悔していました。
「良かったら、またご利用下さいね」と丁寧にガラスケースからすくい取った豆を優しく袋に入れてくれて、さらに真空状態にして渡してくれました。

 

帰りのドアを開ける時に「ありがとうございましたぁ~」と背中から耳元に響いてくる心地良い感じに浸りながら、外のウインドガラスをさり気なく覗いてみると、はち切れそうな笑顔の彼女が小さくお辞儀をして見送ってくれました。
この何とも言えないドキドキ感はなんだろう・・・

 

部屋に戻って、さっそく彼女が詰めてくれたフレンチの豆をミルに入れて、僅か数分前に起こった彼女との会話を思い出しながら、ゆっくりとハンドルを回している自分がいました。
「俺、どうしちゃったんだ?まだ胸の鼓動が落ち着いてこない。」まさしく恋に落ちた瞬間でした。

 

彼女が言っていた「よく店の前を通るのを見かけるので」の一言が、私の脳裏から離れなくなってしまいました。
あの言葉が出てくるということは、彼女は私の存在を気にしているという事ではないか!?
そうでなければ、初対面の私にあのような言葉を掛けたりしないだろう・・・と勝手な妄想が始まりました。

 

よし!これからはあの店でコーヒー豆を買うことにしよう。
もっともっと顔なじみになって彼女に近づきたい。
それからというもの、私はあの”パルファン”に通うようになりました。

 

実は初めて行った時から彼女のことを考えると、いつもドキドキしていて店の名前も3回目に行くまで目に入っていなかったのです。
店名は”パルファン”、調べてみるとフランス語で「香り」という意味です。
何度も通ううちに、彼女との会話の中で少しづつ彼女のことが分かってきました。

彼女の名前は真壁美恵さん、北海道富良野市の生まれで、地元の高校を卒業後に札幌に出てきて短大在学中にこの店でアルバイトをしていたんだそうですが、この店のオーナーさんから「良かったらうちに来ない?」と誘われて、雰囲気が気に入っていた店だったので、そのまま就職をしたそうなんです。
年齢私の1つ下のは22歳です。

初めて会った時から2ヵ月ほど経った頃に、彼女をデートを誘ってみたい思いがMAX状態に達していました。
店に行った時に交わすほんの数分間の他愛もない会話で、彼女への想いが私の心の中の大部分を占領していました。
そんなある日の週末の午後、いつものようにコーヒー豆を買いに彼女のいる店に行きました。

 

するといつも笑顔で迎えてくれる彼女の姿がなくて、違う女性の店員さんだけしかいませんでした。
「真壁さんはお休みですか?」と聞いてみると、3日前から体調を崩していて休んでいると言うのです。
「いつ頃から店に出て来られるんですか?」と聞きましたが、「かなり調子が良くないようで、しばらくは出てこないと思いますよ」との事でした。

 

私は彼女に会えなかったショックよりも「彼女の身体にいったい何が起こったのか?」という心配のほうが強く込み上げてきました。
彼女と会う度に会話も少しづつ自然になってきていましたが住所は聞いていなかったのと、今と違って携帯電話も無かったので電話番号も知りませんでした。
女性の店員に電話番号を聞こうかとも思いましたが、変に警戒されるのが怖くて聞く勇気がありませんでした。

「ただの体調不良で、何かの病気になっていなければいいのになぁ・・・」と思う日々が2ヵ月を過ぎた頃に思わぬ場面で彼女の事が私の耳に入ってきたのです。それはいつものようにコーヒー豆を買いに店に入った時に、先に来ていたお客さんの婦人と店員の雑談をしていた声が少し離れた場所に居た私の耳に入ってきたのです。

「美恵ちゃん、そんな大変な事になってたのぉ」、「そうみたいなんですよ」、「まだ若いのにねぇ」、「エッ!大変な事って・・・いったい何!」
さらに耳を澄まして聞いていると、「でも分かって良かったわね。私もこんな年だけどちゃんと検査に行くようにするわ。」
そのご婦人は、そう言って店から出ていきました。

「あのぉ・・・ちょっと聞こえてしまったんですが、真壁さんは何かの病気で休まれているんですか?」と婦人と話しをしていた店員に聞いてみました。
「いつも店に来るたびに話しかけてもらっていて、最近ずっと姿を見ていないので心配していたんです。」
するとその店員が「あらっ!聞こえちゃった?そうなんですよ、彼女体調が悪いと言っていたんだけど、検査をしたら乳がんが見つかって最近まで入院をしていたんです。でも大丈夫みたいですよ。今は自宅療養中で来週から店に出て来ると言ってましたよ。」

「エ~、そんなことになっていたんですか、じゃぁ来週来たらお目にかかれますね。」そう言って店を出ました。
まさかそんなことになっていたとはビックリしました。
来週店に出てくるということは、元気になっているんだなぁと思い少し安心をしました。

それから毎日店の前を通る度に、それとなくウインドガラスから店内を覗いて彼女が居ないか確認をするようになりました。
そして翌週の水曜日の夜に店の前を通って店内を覗いた時でした、女性店員の姿が2人見えました。
一人は彼女のことを教えてくれた店員でしたが、もう一人は見たことのない女性でした。

「まだ彼女は出て来てないんだなぁ」と思って通り過ぎようとした時でした、そのもう一人の女性があの薄いグリーンのハンチング帽をカウンターの後ろから取って被ったのです。
「アッ!彼女だ、真壁さんだ。」私は思わず声に出して立ち止まりました。

通り過ぎそうになっていた足を何歩か後戻りさせて、店のドアを開けました。
「いらっしゃいませぇ~」久しぶりに聞く彼女の声でした。
「やっぱりあなただったんですね、お久しぶりでした。」

彼女は以前と髪型が違っていたので、私は一瞬気が付きませんでした。
「実は私、乳がんになってしまって仕事を休ませてもらって治療をしていたんです。」
「久しぶりにやすしさんの顔が見られて嬉しいです。」と以前と同じ優しい笑顔で話してくれました。

彼女の髪型が違っていたのは、抗がん剤治療の影響で髪の毛が抜けてしまったためにカツラを付けているんだそうです。
特にためらうこともなく彼女は教えてくれました。

それと何よりも嬉しかったのは、私を名前で呼んでくれたことです。
休む前まで彼女は、私のことを苗字の菅原で呼んでくれていたからです。
私はつい嬉しくなって、今までにないくらい彼女に話をしていました。

「実は美恵さんの姿を見かけなくなったので、とても気になって隣にいる彼女に聞いていたんです。元気になってホントに良かったです。」
と私も今まで読んでいた彼女の苗字の真壁さんではなくて、名前の美恵さんと呼んでいました。
気が付いたら、お互い何の違和感もなく呼びあっていました。

私は「そうだ!ここの店はフラワーショップと一緒になっているんだった。」と当たり前のことですが気が付きました。
彼女にいつものように「フレンチ豆のまま200gを2個お願いします」と頼んでから、彼女が準備をしている間に隣のフラワーショップに行って薄いピンクのバラの花束を作ってもらいました。

そしてまたコーヒーショップにもどって「退院おめでとうございます。またあなたの優しい笑顔にお目にかかることが出来て嬉しいです。」と何の恥じらいもなく言って彼女に花束を渡しました。
「これを私にですか?ありがとうございます。」彼女はとても喜んでくれて、うっすらと目に涙を浮かべながら、あの私の大好きな優しい笑顔で受け取ってくれました。

その日をきっかけに、彼女とお付き合いをすることになりました。
数年後に私が仕事の関係で九州に転勤になり、遠距離恋愛をしていましたが自然消滅の形になってしまいました。
風の噂で聞こえてきた話では、彼女は結婚をして子供が2人いて現在も元気で暮らしているそうです。
なぜ数十年も経っているのに、そんな事が分かるのかというと、彼女は結婚をした今でもあの店”パルファン”で働いているからなんです。

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一人静かに

「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
今日の最初の会話。挨拶なんて大した意味はない、形だけのものだと思っていたが、どうもそうではないらしい。いちごか桃かと思わせる濃厚な果物のような香りを感じながら、ハンドドリップで淹れられたばかりのエチオピアを一口。あの手から生み出されたのかと思うと、喉を落ちる一滴一滴がひたすらに甘く感じられる。
半年ほど前、自宅から最寄駅までの道の途中にコーヒースタンドができた。以前からあったヘアサロンの片隅にオープンしたのだ。片隅というだけあって、道路に向かって開いたごく小さな小窓、その小窓の近くに置かれたスツールが一脚、それだけ。昔からあるタバコ店のようにも見える小窓で、その奥、店内側にはエスプレッソマシーンやグラインダー、コンロが所狭しと並んでいる。そんな店構えなのでのんびり座って一服とはいかず、ほとんどの客がテイクアウト利用、あるいはそのヘアサロンの客がカットやカラーをしている途中に飲むらしい。ヘアサロンの片隅にそのスタンドができていく様子を通勤途中にずっと見てきた。工事業者と話をしているスタンドの店主の姿をある日見かけた。真っ黒なロングヘアーを1つ結びにして、薄化粧、背はすらりと高く、細身のデニムがよく似合っていた。ヘアサロンのオーナーと知り合いか何かなんだろうかと、ぼんやり思った。スタンドがオープンした日も平日でいつもどおりの時間に前を通りがかり、こんな早い時間からもう開けているのかと驚いた。

 

小窓にペイントされている文字をちらりと見ると、どうやら平日の7時オープン、17時クローズらしい。学校の部活みたいだと思う。ここでうまいコーヒーが買えるなら、毎朝自分で淹れる手間がはぶけるな、などと思って、オープンしたその日に初めてそこで一杯頼んだのだ。店主は「おはようございます」と僕を迎え、注文をとった。ハンドドリップを選ぶと、豆が3種類あると言い、ごく簡単にそれぞれの説明をしてくれた。グァテマラを選び、会計を済ませると、「少しお待ちください」と言い店主は静かに動き出した。豆を計る、グラインダーに入れる、ドリッパーに乗せたフィルターにお湯を通す、フィルターに挽いた豆をあける、お湯の温度を確認する、粉状になった豆にお湯を落とし始める…一連の仕草が、すべて静かだった。道路に面した小窓に対して45度の位置に作業用のカウンターがあり、コーヒーを淹れている店主の横顔が見える。スツールに座って、見るともなしにそれを眺める。「お待たせしました」とロゴも何も入っていない白い紙のカップを渡される。蓋を断り、小窓に背を向けると「行ってらっしゃい」の声が追いかけてきた。小さく振り返って「行ってきます」と答える。人から「行ってらっしゃい」と言われるのは、久しぶりだった。
コーヒーは好きなのだが、コーヒーが大好きでそのことについてとにかく人と話したくてたまらないという人が苦手だ。例えば、注文の時にやたらと詳しく豆やメニューの説明を始める人。「おしゃれな」コーヒーショップで、カウンターに陣取り店員とコーヒー談義に花を咲かせる客。コーヒーが好きなのか、写真映えのするラテアートが好きなのかよく分からない人も苦手だ。ラテアートが施されたカプチーノやカフェラテを受け取ると、テーブルの上、カウンターの上、あるいは自分の手で持って、何枚も写真を撮り続ける人。

 

その写真をSNSにアップデートして、「このラテアートのためにこの店に行った」だの「このカフェラテは表情がいい」だの述べる人。そういうのが、僕は苦手だ。そういった人を否定しているのではない、楽しみ方は人それぞれだ、ただ僕は苦手、それだけ。何を頼むか迷った時に懇切丁寧に説明をしてもらえると大いに助かることもあると思う。コーヒー好き同士話し合えば、きっと新しい知識や情報が得られるだろう。出来栄えのいいラテアートの写真を共有すれば、世界中の人から何かアクションをもらえるのかもしれない。ただ、僕にとってのコーヒーは誰かとわいわい楽しむものではなく、一人で静かに楽しむものなのだ。そのルーツは子どもの頃の父との思い出にある。休日、父はたまに一人で出かけて行くことがあったのだが、どこに行っているのか小学校の高学年になるまで知らなかった。小学校高学年になったある日、また出かけていこうとする父に何の気なしに「どこ行くの?」と訊いたのだ。父はにやりと笑って「来るか?」と言い、僕は訳もわからず「行く」と言った。母はそんな僕の様子をなんとなく楽しそうに眺めていた。父の向かった先は家から10分ほど歩いて行った先の喫茶店だった。喫茶店なんて入ったことがなかったので、ひどくびくびくしながらも、大人の秘密を覗くような甘美な背徳感を覚えた。店の中の照明は薄暗く、タバコのにおいが充満していた。どの大人も無言。馴染みのない音楽がかかっていて、今にして思えばあれはジャズだった、食器と食器が触れ合う音もそこに混ざっていた。父はごく慣れた様子でカウンターに座り、隣に僕を座らせた。カウンターの中のベストを着て髭をはやしたおじさん、今にして思えばそれはマスターだった、が何も言わずに父にメニューを渡した。父はメニューの後ろの方を僕に指し示して、「ジュースかココアでいいだろ?」と言う。その静かな店の中で声を出すのが何故か憚られて、僕は黙ってりんごジュースを指差した。父は「りんごジュースといつもの」とマスターに告げて、ただ黙って座っている。僕も黙って座って待ったのだが、とにかく所在がない。大人にとってはごく短い時間でも子どもにとってはそれは永遠にも思える時間なのだ。

 

そのあふれんばかりの時間を持て余し、カウンターの中のマスターを眺めた。後ろの棚からコーヒー豆を取り出し、計り、何かの機械に入れるとゴーッという音が響いた。コンロで沸いている薬缶を取り上げ、これまた後ろの棚から取り出したコーヒーカップと漏斗とフラスコのような容器にお湯を注ぐ。フラスコにせっかくお湯を入れたのにそれを流しに捨てる。それから漏斗のような器具に乗った紙に粉を入れ、空になったフラスコの上に乗せ、真っ赤な細長い注ぎ口をしたお湯さしからお湯を注ぐ。するとどうだろう、驚くぐらいに甘くて香ばしいコーヒーの香りが広がった。思わず隣の父を見やると、父は黙って微笑み返してくれた。フラスコには茶色い雫が溜まっていく。マスターはそのうちお湯を注ぐのをやめると、フラスコの中身を銀色の棒でそっとかき回し、カップに注いだ。それが父の前に出されると、いつの間に用意したのか僕のりんごジュースも目の前に置かれた。カップを受け取った父は黙って静かに飲んでいる。それに倣って静かにりんごジュースをすすり始めたのだが、またここでも時間を持て余す。静かな店内にストローを吸う音がやたらと響く気がして、何だか恥ずかしくなりながら黙々と飲んだ。一杯のコーヒーをたっぷりと時間をかけて飲んだ父は、満足げなため息をつくとしばらくぶりに僕を見やり、「行こうか?」と言った。とうにジュースを飲み干していた僕は黙って頷き、会計を済ませた父に続いて店を出た。店を出てからもあの喫茶店の空気が自分の周りにうっすらと残っている気がして家まで黙って歩いた。あの静けさや所在のなさは重たくもあったけれど、自分の知らない大人の世界を垣間見たような、そんな奇妙な充実感も覚えていた。その後、毎回ではないが父について喫茶店に行くようになった。父と言葉を交わすわけではないのだが、2人で喫茶店で過ごすその時間が男同士のひそやかな楽しみのような、そんな風に感じられるようになった。もちろん年頃になれば親を疎ましく思ったものだが、それでも父とそうしてたまに喫茶店で過ごす時間は変わらず、高校に入る頃には父と同じコーヒーを僕も飲むようになっていた。そんな不思議な時間は、大学に入学して一人暮らしを始めるまで続いた。
1人で静かにコーヒーを楽しみたい、そんな気持ちに、その新しいコーヒースタンドは十二分に応えてくれた。オープン以来、平日はほとんど毎朝通うようになっても、相変わらず店主の口数は少なく、余計なことは話さず、そしていつもさりげなく「行ってらっしゃい」の一言で送り出してくれる。「お近くにお住まいですか?」「昨日はいらっしゃらなかったですね」そんな言葉が、例えば他のコーヒースタンドの常連になれば投げかけられるのだろうが、このスタンドでは全くない。ただただ必要最低限の言葉がだけがやりとりされることが続いている。そのことに居心地の良さと安心感を覚えると共に、コーヒーをドリップする店主の姿に見とれている自分にそのうち気づいた。出張などで店のオープンより早い時刻に出かけざるを得ない日は、何だか物足りない感じがする。例えば新幹線に乗る前に駅内のコーヒースタンドで丁寧に淹れられたコーヒーを買い求めて飲んだとしても、店主のあの姿を見て「行ってらっしゃい」と送り出されなければ、正しい一日が始まらない、そんな気がする。あのコーヒースタンドに通い始めた直後は、エスプレッソベースのドリンクを頼んだこともあった。カフェラテを頼んだ時には、シンプルな美しいハート型が表面に描かれていた。それはそれで美味しく、そして好ましかったのだが、結局ハンドドリップしか頼まなくなった。理由は単純で、エスプレッソマシーンに相対している時よりも、ハンドドリップしている時の店主の所作が自分は好きだと気づいたからだ。人にこの話をすれば、それは恋だ、とか、もっと話しかけろ、とか、連絡先を訊け、とか言われるのだろう。これを恋だと呼ぶのなら、それはそれでかまわない。確かに恋なのかもしれないし、恋に似た別物なのかもしれない。ただ、これ以上踏み込むつもりは僕にはさらさらないのだ。

平日、家を出てあのスタンドに寄る、店主がコーヒーを淹れる姿を見る、「行ってらっしゃい」と送り出される、駅に向かう道、店主が淹れたコーヒーを1人静かに味わう、それだけで自分にとっては十分過ぎるほど十分なのだ。

フルーティーな香りの立った一滴一滴が、ひたひたと僕の中に浸透していき、今日の僕を形作っていく。

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チャラ男とアイスコーヒー

私は新宿歌舞伎町のカフェでバイトをしている22歳のフリーター。名前は桃花。
可愛い名前だけど、私は可愛くない。髪は地毛の黒、後ろで長い髪を一つに束ねている。眼鏡をかけている地味女子。少しコミュ障的な所があって、人と話すのが苦手、カフェで働き始めたのは、この内気な性格を直して、彼氏を作ろうと思ったから。
なぜ歌舞伎町を選んだかって? なんか楽しそうだったから。歌舞伎町ってちょっと危険で猥雑な感じがいいと思ったから。オシャレな代官山や原宿のカフェは、自分みたいな喪女は無理。オシャレ人間たちに気後れして、さらに自己嫌悪に陥ってし舞うのがオチ。
自分では「カフェでバイト」なんてカッコいいこと言っているけど、日本中どこにでもあるチェーン店。正直言ってしまうと、バイトの面接に10回以上行ったけど、そこしか雇ってもらえなかったから。
接客はマニュアル化されている。制服は既定のもの。

 

バイトはフリーターや学生ばかり。バイトはコーヒーはいくらでも無料で飲んでいいと店長から言われている。コーヒーなんてせいぜい1日3杯が限度。正直、値段が値段なので、すごく美味しいコーヒーとは言えなかった。豆をまとめてガーッとでかい機械でひいて、朝一でアイスコーヒー用のすごく濃いコーヒーをジャグいっぱいに淹れる。コーヒーを淹れるというより、機械的業務だった。自分はコーヒーは、どちらかというとあまり飲まない方だった。
仕事内容はつまらないけど、お客さんを見ていて飽きない。歌舞伎町という土地柄、水商売のお客さん、外国人、変わったお客さん、色々なお客さんが来る。実は、私の趣味の一つは人間観察。
開店は朝の6時。開店早々のお客さんはホストクラブのホストさんグループ。4、5人の団体で来て、コーヒーとパンを買って、店内で食べる。とにかくうるさい。リーダー格の背の高いホストさんはひっきりなしに喋っている。「歌舞伎町で生き残るのはやっぱり金だ」とか「歌舞伎町のルール」とかヤンキー漫画みたいなことしゃべくりまくっている。地方から上京してきたんだろうな。少し訛りがある。ホストさんのオーダーを取る時、私は「は、はい」とおどおどしてしまう。大勢で来るから、注文の品数が多くなるからレジ打ったり、コーヒーやパンの用意をする人にオーダーを伝えるのが大変なのだ。そんな、とろい私にもホストさんは優しい。

 

「がんばってや」と大阪弁で励ましてくれたイケメンのホストさんもいた。ドキッとしたけど、ホストさんには恋はしなかった。
迷惑なお客さんは、何時間も居座る人。それも常連。無職のおじさん。いつも同じ作業着で来る。ぜったいこの人、仕事してない。安いアイスコーヒー1杯で2時間以上も居座る。先輩がその人のグラスを片付けようとすると、まだ飲みかけと言って拒否する。溶けた氷で薄まったコーヒーが少し残っているだけなのに。
あと、オバサンも迷惑だ。列に割り込んだり、オーダーしている途中で気が変わって「やっぱりそれやめて、こっちにするわ」、なかなか注文が決まらない。他のお客さんのサンドイッチを勝手に自分のだと思って間違って、持って帰ったときは、さすがにイラっとした。
このカフェでバイトしているのは、大学生やフリーターばかりだ。彼氏ができるような職場の雰囲気ではない。
お店に来るサラリーマンの人たちも疲れている人が多い。営業の外回りの途中の休憩なのか、ぐったりしながらコーヒー飲んでいる人を見ても、全然ときめかない。
たまにお店にくる水商売の女の人たちを観察する。水商売のおねえさんたちは、閉店前の9時ごろ来る。出勤前なのかどうかはわからない。おねえさんたちのメイクや服は派手だけど、よく見てみると超絶美人はいない。女の人って、髪型やメイクで女を盛れるんだなと思う。自分もメイクしたら、もてるだろうか。自信がつくだろうか。このカフェでバイトしている限り、派手なネイルや髪型はできない。規則でダメなのだ。
私もまだ22歳。もっとおしゃれして、女磨いて、恋愛してみたい。生まれてこのかた彼氏ができたことはない。高校の時、好きな男子もいたけど、告白なんてできなかった。どうせ自分なんて無理って思っていた。
お水のお姉さんたちは、恋愛のプロなんだろうな。そうじゃないと常連のお客さんをゲットできない。自分ももっとトークができて、明るい性格だったらいいな……そんなことをバイトしてながら考えていた。
ある日、バイトの帰り、歌舞伎町の大通りを歩いているとスカウトマンに声をかけられた。
「よく、ここ通るよね」金髪に髪を染めたチャラい感じの男の人だった。そういえば、ここの通りで女の子によく声かけて、無視されている人だ。歌舞伎町の路上のスカウトマンは、風俗関係のスカウトだって、私でも知っている。
「は、はい」なんか変な人に声かけられちゃったな。スカウトかな。あわわわ。
「どこのお店で働いているの?」にっこり。
「ああああ」言葉がとっさに出ない。
「そっか。あ、スカウトじゃないから緊張しないで。どこで働いているのかな〜いつも疑問に思っていたから」
チャラチャラしてウザい。黒いスーツに、花柄のネクタイ。うわっ派手。
「どういう意味ですか?」ムカッと来た。
「水商売ぽくないし、地味っていうか、なにやってんだろうと思って」ニヤニヤして私の顔を覗き込む。
つまり! やけに地味な私は、歌舞伎町で浮きまくっていたということだ。
「名前なんていうのかな?」営業スマイルを浮かべてスカウトマンは聞いてきた。
「水谷桃花」つっけんどんに答えてやった。名前だけは可愛いので自信があった。

 

その日から、その人は私を見かけるたびに「よっ! 桃花ちゃん、元気?」とか「お疲れさまでーす」とか声をかけてくれるようになった。
私をスカウトする気はないようだ。名刺もくれない。ただ名前だけは教えてくれた。
鈴木まさしという名前。本名かどうか知らないけど、まさしさんは、29歳で、福岡から上京してきた。東京に来た理由は教えてくれなかった。
ある日、まさしさんが私がバイトしているカフェにやってきた。私は、洗い場でグラスやお皿を洗っていた。
カウンター越しに「桃花ちゃん!」と声をかけてきた。
レジで注文取っていたフジオカがぎょっとして、私とまさしさんを交互に見た。

テーブルを拭きにホールに出ると、まさしさんが手招きする。
「遊びにきたよ!」とにっこりするまさしさん。
まさしさんと、立ち話していると、フジオカに怒られた。仕事さぼってないで、テーブル拭けと。
その日から、ちょくちょく、まさしさんが店に来るようになった。
見るからに派手なまさしさんと地味な私。バイトの人たちの間で噂になった。
嫌な噂の方が多かった。
スカウトマンと付き合っているとか、深夜は水商売の店で働いているとか、ヤバイとかどうでもいいことばかり。
まさしさんに会えることが楽しかったから、バイト仲間の悪意のある噂話なんてどうでもよかった。
まさしさんは、アイスコーヒーしか頼まなかった。外でスカウトしていると暑くて、のどが渇くからアイスコーヒーばかり注文するのかと思っていた。ある日、まさしさんが言った。「福岡で、ブルーマウンテンの美味しいカフェがあるんだよね。桃花ちゃんと行きたいなあ〜」
ブルーマウンテン? なにそれ? 自分は自称カフェ勤めだけど、コーヒーに関しては何も知らない。恋も何も知らなかった。
クリスマスの前、まさしさんが言った。
「俺、福岡に明日帰る。福岡で仕事探す」
「え?」あまりにも突然なことで、注文のコーヒーを落としそうになった。
「やっぱ東京は好きになれないし、このまま歌舞伎町でだらだら働いていてもしょうがないから」
そんな……。せっかく仲良くなれたのに。
「桃花ちゃんが淹れてくれるコーヒーも飲めなくなるなあ」まさしさんがつぶやいた。
寂しい気持ちとともに胸がどきどきする。
私、まさしさんのこと好きなのかもしれない。その時、気が付いた。
でも、告白する勇気もなかったし、もう遅かった。
次の日から、まさしさんがお店に来なくなった。まさしさんは、もう歌舞伎町にいない。働く気力が失せた。バイトもつまらなくなった。
正直、お客さんが、このカフェに来る理由は、値段が安い、コーヒーの提供時間が速いということだけだと思う。手軽に飲んでさっさと仕事に出かけるとか、立地条件とかそんな理由。こういうお店も忙しい人のニーズに合ってるから、お客さんがたくさん来る。そんなの最初から分かってたけど。
まさしさんが店に来てくれた理由ってなんだったんだろう。安いからって理由だけじゃないんだろうな。
まさしさんにメールした。「どうして、うちの店によくコーヒー飲みに来てくれたんですか?」
3日後、まさしさんから返信が来た。
「お店に通った理由? えーと、桃花ちゃんが好きだったからだよ。歌舞伎町は俺みたいなチャラ男がいっぱいいるから、他の所できちんとした仕事探せ! 俺からのアドバイス。 まさしより」
なにそれ……だったら、告白しておけばよかった。でも、「好き」ってただの営業文句とかかもしれない。まさしさんは、チャラ男だったけど、根は真面目だったよね。
まさしさんに言われた通り、カフェのバイトは辞めた。
正規の仕事を探すため就活を始めた。目標は、きちんと就職して、お金を貯めて、まさしさんに会いに福岡に旅行に行くこと。福岡で、美味しいコーヒーを2人で飲むこと。そういえば、うちの店、カップルとか恋人同士で来ている人たちは滅多に見かけなかった。お一人様が仕事のグループが多かった。

 

つまらなかった毎日がまさるさんのおかげで夢と目標を持てるようになった。
単に一人で舞い上っているだけかもしれないって冷めた目で自分をみることもある。あまり好きじゃなかったアイスコーヒーも最近好きになってきた。就活の途中でコーヒー店によることが多くなった。アイスコーヒーを飲むと、まさしさんのことを思い出す。面接落ちるのはきついけど、アイスコーヒーで元気がでてくる。
チェーンのコーヒー店も、そんなに悪いもんじゃないと最近思えるようになってきた。

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コーヒー心理テスト

世界中にはさまざまなコーヒーの種類があって、コーヒーと一言でいってもその飲み方は、ブラックコーヒー、カフェオレ、エスプレッソとさまざまです。
コーヒーの飲み方で性格がわかる心理テストなどもある程で、その心理を紹介させて下さい。
アイスコーヒー、カフェラテ、エスプレッソ、コーヒーを砂糖やミルクを自分でブレンドしたい人、カフェインレスコーヒー、インスタントコーヒー、ブラックコーヒーこの中で好きな飲み方を選んで下さい。
まず、アイスコーヒーが好きな人ははっきりと自分をもっていて、大胆な行動をとるタイプ。
カフェラテが好きな人は、周りを喜ばすことが好きで他人に寛大なタイプ。
エスプレッソが好きな人は仕事熱心で仕事優先なタイプ。
コーヒーに自分で砂糖やミルクを入れる人は今自分になにが一番必要か、大切かを分かっているタイプ。
カフェインレスのコーヒーを好む人は、自己管理がしっかりでき、自分のペースがしっかり出来ているタイプ、
インスタントコーヒーが好きな人は楽観的で融通がきくタイプ、
そして最後に、ブラックコーヒーが好きな人は、効率が良く、無駄なことはしないタイプだと言われています。
どうでしょうか。あてはまる方もそうではない方も少しは心理テストを楽しんで頂けたでしょうか。
この心理テストは恋愛にも置き換えられるのではないかと思います。恋愛に置き換えると、たとえば、カフェラテ好きは、時に大胆なタイプ、ブラックコーヒーを好む人は段階を踏むタイプなどと介することができるでしょう。
コーヒーの飲み方や選び方のタイプと恋愛時の異性を選ぶタイプには何か近いものがあるのではないかと思いました。
なぜなら、コーヒーは恋愛と似ていると言われることもあるからです。
コーヒーは、苦みも、甘み、酸味も風味がとても豊かです。そして、それぞれの個性があります。人間も個性がそれぞれに有ります。そして、恋愛ではよく、「苦い」や「甘い」という言葉でたとえられます。恋愛においてつらく悲しい体験などを「苦い」、幸せな感情を「甘い」といいますよね。青春時代などの若い恋愛などは「甘酸っぱい」と言います。
そういった点から恋愛とコーヒーは似ているように感じました。
そんなコーヒーもたくさんのコーヒーショップやカフェがあります。
コーヒーショップやカフェではたくさんの恋人達を見かけます。コーヒーは恋を引き寄せる飲み物なのかもれません。そんなカフェで見かけた、コーヒーが引き寄せた幸せなあるご夫婦の話を一つさせてください。
とある小さなカフェでの話です。4テーブルほどしかないような小さなカフェです。時間はちょうど正午を過ぎた頃でした。店内にはコーヒーの香りと、甘いケーキの香りでいっぱいでした。入店した人は、「良い香り!」と言う人がほとんどで、私自信、コーヒーも甘いお菓子の香りも大好きなので幸せな気分になれる、そんなカフェでした。
そこへ年配の白髪交じりの髪を綺麗に結っているのが印象的で綺麗なワンピースを着た奥様と、少し大きめのシャツを着た旦那様が入店されました。歳は大体75歳くらいでしょうか。夫婦仲良く腕を組んで入店されたのでお二人が仲が良いということは一目瞭然でした。
買い物の途中だったのか、お二人は買い物袋を2~3持っていました。
二人が頼んだのは、どうやら、甘いカフェラテと冷たいアイスコーヒー、甘いケーキを1つご注文されたようでした。
旦那様はアイスコーヒーを、奥様はカフェラテ、ケーキは奥様が食されていました。
孫の話や、これからどこへ行こうか、ご友人のお話などを談笑されている様子で、お二人共本当に楽しそうに笑顔でした。
見ているこちらもほほえましく、幸せな気分になりました。
近くに居合わせた若い女性達も「可愛いね、あんな歳の取り方をしたいね」と羨むほどでした。
旦那様がケーキを味見したいのか、奥様がケーキを味見させたかったのかは分かりませんが、奥様がケーキを一口旦那様の口へ運ぶと旦那様は美味しそうにほおばり、二人でニコニコしながら「美味しいね。美味しいね。」と言い合っていました。
歳を重ねてもなお、パートナーにいつまでも優しく出来ること、パートナーと同じ物を食べ、美味しいと感じられることがこんなにも幸せなことはないのだろうとお二人を見ていて感じました。お二人がケーキとコーヒーを飲み終えると、丁度外は雨が降り出しました。
その日の天気予報は確か晴れだったと思います。
お店にいたお客達も雨だからと席を動かず、突然の雨に食べ終わっても席を動くものはいませんでした。実際に私も傘を持ち合わせておらず、雨がやむのを待っていました。そんな中、新しいお客さんが雨宿りを求めて入店してきました。
あいにく、お店は満員だったのですが、年配の夫婦は立ち上がり、店員さんに一言、「私たちは食べ終えたから、こちらの席へどうぞ案内してあげて」とおっしゃりました。
店員さんは、「ありがとうございます。でも、外は雨なので、もう少し雨宿りされてはいかがでしょうか」と年配のご夫婦を気遣いました。きっと、ご年配だったこともあり、店員さんも気を遣われたのだと思います。
奥様は、「ありがとう。でも、傘を持っているか大丈夫よ」と言い、にこにことお二人で一つの傘をさし、奥様が旦那様の腕に手を添えられ仲良くお店を後にされました。
そのカフェにいた誰もが、「素敵だね」と話していたのを覚えています。お二人は何十年も共に歳を重ねても、仲良く、常に恋人でいられていることが微笑ましく、素敵なことだと思いました。
甘いコーヒーとお二人の甘い時間に、嫉妬心や嫉み、恨みなどの負の感情が一切なく幸福感を周りに振りまいていたのは確かでした。

 

長い間パートナーと時間を共にすると、気持ちは薄れ、やがて最初は相手のことばかり思っていたのに、それが感じられなくなりがちだと思います。そして、子供が出来るとパートナーへの愛情は子供へシフトしがちだと思いますが、目の前の相手を大切にすることがどれほど幸せなことかを気付きました。それが、恋愛のパートナーや家族だけでなく友人、職場仲間においても同様だと思います。
きっと素敵なご夫婦の暖かさと、コーヒーのリラックス効果で周りも幸福感を得たのだと思います。
コーヒーにはリラックス効果があるとされています。
コーヒーにはカフェインという成分が含まれます。カフェインと言えばコーヒーと思う人も少なくはないと思います。
コーヒーは飲み過ることはあまり良いものではないですが、コーヒーは一日に2~3杯程度であれば身体に良いと言われています。
人によってではありますが、カフェインには覚醒効果や倦怠感がなくなる効果がある言う人もいるくらいで、飲み過ぎることで中毒になってしまうこともあるようですが、少量であれば、リラックス効果も期待できます。
よく、コーヒー好きな人は分かるとは思いますが、コーヒーショップなどでふわりと香るコーヒーの香りが好きな方は多いと思います。
このリラックス効果とカフェで出会ったご夫婦の暖かさが重なり、あのときに幸福感が生まれたのではないかと思います。
コーヒーの香りはリラックス効果があると言われています。
中毒にならない程度に一日1~3杯程度飲むことはメンタル的にも良い飲み物だと思います。
デカフェの名前の付いているカフェインレスコーヒーと唱われているコーヒーは大体90パーセント以上のカフェインがカットされていることがほとんどでカフェインを気にすることなくコーヒーを楽しめます。コーヒーの香りがリラックスに良いとされているので、妊婦さんや療養中の方もたのしむことができます。
上記でコーヒーの飲み方の心理をご紹介しましたが、コーヒーを飲むカップの色で気分が変わるのを感じたことがありますか。
普段あなたがコーヒーを飲むコップは何色でしょうか。
白色、青色、黄色、緑色、ピンク色、赤色この6色の色での気分や心理をご紹介します。
白いカップは、コーヒーの色を引き立てます。コーヒーが美味しそうに感じるのも白いコップです。
青いコップは鎮静効果があります。お砂糖を入れなくても甘く感じることがあります。
黄色のコップは明るい気持ちになります。コーヒーは黄色いコップだと薄くかんじることがあります。
緑色のコップは集中力を高めるといいます。食欲をそそる色でもあるようで、コーヒーをついついのんでしまいそうです。
ピンクのコップは、女性らしさを表します。ピンクは甘みも感じられる色です。お砂糖の量が抑えられそうですね。
赤いコップは、疲労や食欲不振のときに良いとされています。やる気や、食欲が出る色とされ、赤いコップで飲むとコーヒーは濃くて美味しく感じるといわれます。
本当にピンク色のコップで甘みを感じるのか、赤い色のコップでは濃く感じるのか、試してみるのも楽しいかもしれませんね。
会社やお家でコーヒーを飲む際には、気分に合わせてコーヒーを飲むとよりリラックス効果があるのではないでしょうか。
パートナーが疲れているとき、そっと青いコップでコーヒーを入れるとほっとリラックスしてくれるかもしれませんね。
恋愛において、相手を大切に思う気持ちは一番大切なことだと思います。そんな大切なことを時間と慣れとともに忘れてしまったりします。そのことを、年配のご夫婦に気付かされました。コーヒーを入れるときも優しい気持ちで入れると美味しくなると言います。そしてやっぱり、コーヒーは恋を引き寄せる不思議な飲み物なのだと思います。ブラックコーヒー。甘い香り漂うカフェオレ、苦みのきいたブラックコーヒー、アイスコーヒーにバニラアイスをのせてデザート感覚でコーヒーフロート、今日はどんなカフェで、どんな色のコップでコーヒーを飲もうかなと、どんな恋愛が待っているのかわくわくしながらカフェに行くのも楽しいのかもしれませんね。

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その甘さが、素直に嬉しい

「かつて、コーヒーは毒だと言われたことがあるそうだよ」
コーヒーカップをソーサーの上に戻すと、硬い音がする。遅れて、ふわりと香りが漂った。
淀みなく言葉にしたものの、付け焼き刃の豆知識だ。僅か三十分前にスマホから得た程度。けれども向かいに座る彼女は、真摯な顔で頷いた。
「私、こういうコーヒーは美味しいと思いますけど、缶コーヒーって苦手なんですよ。甘味が強かったり、苦かったり。あれを子供の頃に飲んでいたら、毒って思うかもしれませんねえ」
「……今の話は、500年くらい前のことだからね」
「あ、そうなんですか?」
恋は盲目と言ったもので、はにかむ彼女の笑顔がただただ眩しい。

 

始まりは、しがない大学院生に成りたての頃だった。学部生の頃に所属していたサークルに、ちょっとした所用ができたことで、僕は彼女と出会った。
当時の僕は「学生の身分とは言え、『引退したOBが我が物顔で現れる』などという、唾棄すべきことをする人間には絶対にならない。ましてや若くて可愛い現役生にちょっかいをかけるなんて、男としてあるまじき行為だ」と固く決意していた。おおよそ、実体験に基づく理念である。この理論に基づいて、他の生活はほとんど変わり映えしないにも関わらず、四年間入り浸った部室には一切足向けずに半年ほど過ごしていた。
その決意が氷解するまで、10分もかからなかったように思う。
来訪する旨を事前に連絡していたとは言え、現役の学部生たちは、見知らぬOBに対して丁寧にもてなしてくれた。あろうことか、「当時の話、聞かせてください!」という社交辞令まで差し出す始末である。言い訳ではあるが、当時、教授や博士課程の先輩たちから、学業的な意味で滅多打ちにされていた僕の心は豆腐のようにもろかった。上の者として仰がれる空気に晒された僕は「じゃ、少しならいいかな」なんて偉そうに呟き、室内のソファに腰を下ろしたのだった。
身分と財力は彼らとほとんど変わらないものの、僕はここぞとばかりに先輩風を吹かす。座ると同時に「じゃあ、飲み物でも買ってきてくれる?」とお札を渡した。爽やかに応じる彼らが買ってきたのは、大半が刺激的な炭酸飲料だ。その中に一本だけ、見慣れぬブラックコーヒーがあった。一般的に、このような場面では同じような系統で揃える方が無難だ。二本ずつ、あるいは全種類お茶とすれば揉めづらい。誰かの嗜好だろうか。それとも「良い年してジュースとか、太りますよ」という僕への気遣いだろうか。
迷う僕の胸中を見透かしたのか、彼らは礼儀正しく「先輩からどうぞ選んでください」と飲み物の群れを指し示す。僕は「ありがとう、お釣りは良いから」と言いつつ、鷹揚に構えたふりをしてコーヒーに手を伸ばす。正直に言えば酸味が強く、好みの味ではなかった。
だが、それが人生最大の好機だったと思っている。

 

「コーヒー、お好きなんですか?」
時間にすると45分、後輩たちとの交流を終えて部屋を辞した後のことだ。僕は道端に突っ立って、さて、研究室に行って心を千切りにされるか、自室の温かなベッドで魂の安息を取るべきか、と思案していたところだった。
ぎょっとして振り返れば、一人の女性が朗らかな笑みを浮かべて立っている。先ほどの団らんの中で、控え目に笑っていた女性だ。最初に飲み物を買いにいくメンバーの一人でもあり、その小柄な肩先に触れるか触れないかの黒髪が印象的な子だった。
僕は激しく動揺した。サークルの現役生たちは他にいない。普通なら「あのOB、空気読んで早く帰れよな」なんて悪口大会が開催されているはずなのだ。その輪の中には彼女もいて、曖昧に笑っているに違いない。
だが、現実問題として、彼女はそこにいた。
「ジュース、ごちそうさまでした」
「いや、別に」
律儀に頭を下げる彼女に、一切気の利かない返事をしてから、僕の頭はようやくフル回転を始める。過電流で発火してもおかしくないほどに。
「あ、えっと……コーヒーは好きだよ。なぜ?」
「さっき、一本だけあったコーヒーを選んでましたよね」
「うん。まあ。炭酸はちょっときつくてね。年かな」
これは嘘だ。大嘘だ。研究内容がまとまらず煮え切った夜中や明け方に、憂さを晴らさんばかりに炭酸飲料を一気飲みする。そしてげっぷをだしてせいせいとする。口が裂けても言えないその真実は、硬く蓋をして心の中に押し隠した。
「こんなことを言うのも変ですけど、あれ、おいしかったですか?」
「いや、うん……まあ、悪くはないと思う。僕の好みではなかったけれどね」
「そうですよね!」
恐る恐るの返答に、なぜか彼女は喜色満面の顔になる。
「みんな、このコーヒーならいいだろとか、先輩飲まないなら俺がのむーとか言ってたんです。私はちょっと、酸味がきつくて!」
「ああ、分かるよ。まず舌先に酸味が来ると感じたね」
「あれが苦手ということは、先輩も、深煎り派ですね?」
「まあ、そうかな」
「でしたら、是非このお店に行ってみてください」
彼女が左肩にさげていたトートバッグは大きい。その中を引っ搔き回していたかと思うと、僕の眼前に小さなカードが突き付けられた。見知らぬ横文字。電話番号と住所。裏側には「cofe」をモチーフにしたと思われるデザインのイラストがある。
「そのお店、とっても美味しいコーヒーが飲めるんです。フレンチの煎り方なので、きっと先輩のお口にも合うと思います」
「ここからだと、徒歩10分というところだね」
言いたいことは色々あったものの、相手の勢いに飲まれた僕はそんなことしか言えなかった。住所は今いる大学のキャンパスから徒歩圏内のようだったものの、全く見た記憶の無い店だ。
「はい。でも、うちの大学も含めて、若い人はあんまり来ないんですよ」
「なるほど。君のお気に入りのお店ということだ。……でも、なぜ僕に?」
「あのコーヒーが苦手な人、なかなかいなかったんです。香料が強くて、飲みやすいとは思うんですけど、酸味を感じちゃうともうダメ!って感じです。私はこのお店のコーヒーが今一番大好きで、同じ感想を持った先輩にはぜひ味わって欲しいなって思いました!」
「それで、わざわざ名刺を用意してまで?」
「お店のマスターから何枚か頂いてきたんですよ」
彼女はなぜか自信満々に宣言した。
「だから、行ってみてくださいね。私の大好きなお店ですから」
絵に描いたように可愛らしいと感じる女性から、こんな言葉を面と向かって言われて、その場で断るような無粋なことを言う男がいたら、お目にかかりたいものだ。

 

だが、実際に僕がその店に足を踏み入れたのは、それから実に一週間後のことだった。普通なら翌日、遅くとも三日以内に行くだろう。遠方地にあるわけでもないし、大学に来ていないわけではない。学部生の教室と院生の研究室棟はそんなに離れているわけではないし、正門は同じだ。僕は、いつ何時、「先輩、行ってくれないんですね」という彼女の声が後ろから飛んでくるだろうかと気が気ではなかった。気にかけているなら、すぐに行けば良い。そして、時間が経てば経つほど行きづらくなるのも自明の理だ。
だからその日、僕がその店に足を向けることができたのは、奇跡に近いといっても良かった。
簡単に言えばストレスが溜まっていた。僕の不勉強さや視野狭窄な考えを指摘されることは慣れている。事実だと反省しきりなことも多い。だがその日、僕の前に立ちはだかったとある先輩は、完全に僕のことを馬鹿にするためにそこにいた。「お前みたいな人間、ろくな研究できねえんだよ」という言葉には、理論もなにもない。単なる罵倒であり、侮辱だった。
僕は歯を食いしばってその場を後にした。他大から入院してきた同級生の不安そうな視線を振り切り、叫び出したい言葉を押し殺して外に飛び出た。外に出たら出たで、眩しい日差しに出迎えられ、腹立ちまぎれにその場から駆け出してしまう。周りから見れば、完全に頭のおかしい男だっただろう。何人もの人が狂人めいた僕の姿を指さしていたような気がしたが、その事実すら僕の足を止めることはできなかった。
やがて、汗だくの上、見知らぬ住宅地の中にぽつねんと立つ僕がいた。怒りと酸欠から息が完全に上がっている。だが、久々の全力疾走は、負の感情すら取り去ったらしく、いつしか「バカバカしい」という気持ちにすり替わっていた。そうなると途端に視界がクリアになる。はて、ここはどこだろうと辺りを見回すと、どこかで見たと思わせる文字列が目に飛び込む。何度もカードを見返したのだから、今更記憶をひねり出すもない。彼女いちおしの店だった。

 

衝動的に辿り着いたことで、僕の心も軽くなったらしい。普段ならば物怖じしてしまいそうな重たいガラス扉を押し開けると、一瞬にして全身を包み込むコーヒーの香りに包まれた。からんころんと頭上で鐘が鳴り、コップを洗っていた店長らしい男性が顔をあげる。
「お好きな席にどうぞ」
「どうも」
店長の渋い声は、まさにレトロな内装に打ってつけだった。短い言葉には愛想笑いすらない。
店内には誰もいない。カウンター席が三つ。四人掛けのテーブルが三つ。瀟洒な刺繍がほどこされたテーブルクロスの白と、テーブルセットの艶のある黒檀(こくたん)色がオセロのように際立っている。ふらりと気の向くまま足を進めて、店長の作業スペースとはやや離れた、カウンターの端に落ち着くことにした。
コーヒーについては、知識が左程あるわけでもないが、彼女のあの表情を思い出す度に胸がざわざわしたので、一通りのことは調べていた。雑誌風の写真やイラストの多い入門書も一冊、図書館から借りたままだ。だから、メニューにある言葉の内容はある程度は理解できたし、この店のコンセプトは一瞬で把握できた。
「ブレンドを。酸味より、深いのが好きです」
「少々お待ちください」
家族からお前は持って回って考えすぎだと言われる僕でも、『名称にこだわらず、お好みの味わいをお教えください』と書かれたメニューを見れば、それに従うというものだ。
出てきたコーヒーは、見た目は想像のものと相違ない。つるんと丸いコーヒーカップに注がれた黒い液体は、ほっとするような香りを立てている。コーヒー豆の缶を開けた時の感動に似ていた。そして、ここにきて「恐らく彼女もこの匂いを楽しむに違いない」と思い至って、思わず胸いっぱいに空気を吸ってしまった。
「砂糖もミルクも、こだわらずお好きにどうぞ」
儀式めいたことをする僕に不愉快な顔もせず、店長はそっとミルクと砂糖のポットを置く。所作こそ丁寧なものの、必要がなければ脇に捨て置いてくれと言わんばかりだった。
「作法などは、ないんですね」
「何を美味しいと思うかは、人それぞれ違いますからね。私は、難しいことを考えずに楽しんで貰えれば、それが一番だと思っています」
僕はまた、黒い世界に目を落とす。無遠慮にスプーンを突っ込むと、小さな波が立つ。
二人しかいない店内では、店長が作業する微かな音だけが続いている。かちゃり、とソーサーとカップが奏でる心地よい音を耳にしながら、僕はまず、コーヒーを口に含んだ。一口の苦みが喉に広がり、その香りが鼻に抜けていく。そして、思うがままに砂糖とミルクを入れて、誰の目も気にせずに、濃厚な甘味を堪能した。そう言えば、今日は朝からなにも口にしていなかったと思い出す。
「お好みの味になりましたか」
「さっき、言われたんですよ」
立ち上がって財布を取り出しながら、僕は自然と語っていた。
「『コーヒーにミルクと砂糖をいれるような甘ちゃんに、まともな研究ができると思うな』って。僕、それが頭に来て飛び出してきちゃったんですけど、あっちは二日くらい寝てなかったっぽいんで、もう不問にしようと思います。こんなに美味しいものを知らないなんて、馬鹿だと思いますし」
「お口にあったようで」
「御馳走様でした」
鈍い銀のトレイに小銭を並べる。ワンコインではきかないコーヒーの代金。バイトしながらの貧乏大学院生にとっては重たいものだが、決してもったいないとは思わない。古いレジスターのキャッシャーが開く、ちん、という音を耳にしながら、僕は思いきって店長の顔を見据えた。
「不躾ついでに、一つお伺いしたいんですが」
「はい」
「こちらのお店のこと、とある大学生の女性から伺ったんですが。小柄で、肩先くらいまでの黒髪で。彼女は、よく来ますか?」

 

その時店長がなんと答えて、僕がどう行動したのかは、語るまでもないだろう。数週間の後、僕のバイト代の一部は「コーヒー代金」と呼ばれるようになった。やがて、「コーヒー代金(デート用)」として確保されるようになったのは、それから実に八か月後のことだ。

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嬉しい甘さ

「かつて、コーヒーは毒だと言われたことがあるそうだよ」
コーヒーカップをソーサーの上に戻すと、硬い音がする。遅れて、ふわりと香りが漂った。
淀みなく言葉にしたものの、付け焼き刃の豆知識だ。僅か三十分前にスマホから得た程度。けれども向かいに座る彼女は、真摯な顔で頷いた。 続きを読む 嬉しい甘さ

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コーヒーと恋愛が教えてくれた事

コーヒーを初めて飲んだのは小学生の低学年の時でした。

初めて飲んだときの印象は単純に
「ニガいな。」
という感想のみでした。
それだけでも嫌いなのに、飲み終わった後にお腹が気持ち悪くなってトイレで鏡を見ると血の気がひいていって顔面蒼白の状態になった後に私は二度とコーヒーなんか飲まないと決めたのです。

 

大人になった今思うと、子供目線から見ると大人が楽しそうにコーヒーを飲んで世間話をしているのを見ると、なんだか魅力に感じてきたのです。
休憩となると大人だけが煙草を吸い、子供ながらに興味が湧くのですが、初めて煙草を吸った時にもコーヒーと同じような感想を持ちました。
喫煙すると低血圧になり顔面蒼白になった事を今でもハッキリ覚えています。
そして「二度とこんな不味くて気分の悪くなるような煙草なんて吸わないぞ。」
心に決めた訳です。

 

まるで可愛くて綺麗で笑顔の素敵な異性を見て、その人に魅力的なものを感じて、その人に触れたい、一緒に人生を歩みたいと思って告白をして付き合うのですが、いざ楽しみにしていたその人とデートに行くと、以前まで思っていた人間的な魅力的が感じれずに
自分にとって嫌な所や苦手な部分しか見えなくなったり、思っていた優しく温かな性格とは裏腹に、尖った性格の持ち主で、わがままの連続に疲れてしまい、さよならを伝えて別れたり。
また、自分は相手の魅力に惹かれて相手の笑顔が大好きだから、それを見る為に沢山の努力(遊園地や映画館に連れて行ったり)をしても相手に伝わらずに別れを告げられたりした事もありました。

 

そして私は「二度と恋なんてしないぞ」と思うのです。
ここで感じた事は、コーヒーや煙草を初めて口にした時に抱いた感情と非常に似ていると感じました。
大人達が楽しそうにコーヒーや煙草を口にしているのが魅力的に見えたけど、実際に口にして見ると全てがニガい思い出に変わった。
恋愛と大変酷似していてなんだか不思議な気持ちになりました。

 

しかし、自分自身が大人になって気が付けば自然に煙草を吸い「美味しい」と言っていたり、
喫茶店などでコーヒーを飲んでリラックスしている生活になっている。

 

そして大人になった私は気持ちの通じ合う異性と恋愛をして、結婚もして子供もいます。
パートナー(異性)とは順風満帆にお付き合いから結婚、出産までいけたわけではありません。
大きな喧嘩をしたり、別れの危機なんて何回もありました。
それでも、どんな壁でも一緒に乗り越えたいと思ったのです。
その理由として、愛してるし、尊敬しているから多少の辛い事なんて対した事では無いと思ったのです。

 

この時に私が思ったの事は「二度と恋なんてしない」と感じていたのにも関わらず、私は今現在、パートナーと一人の息子と幸せに暮らしています。

 

それが出来たのは恋について、苦い経験を沢山してきて感じれた事や、恋について真剣に考えれた事、喧嘩ばかりしてしまっていた頃に私は、どのようにしたらパートナーと日々の暮らしを楽しく有意義に過ごす事が出来るのだろうかと自分自身としっかり向き合えた事が私の経験値となり新たな価値観を生み出す事が出来たので、今の暮らしが心地良いものになったと思います。

 

そしてこの恋愛から結婚まで幸せに暮らしている成り行きと、以前まで嫌いだったコーヒーを今では愛してやまない現状と重ね合わすと人生を楽しく生きるヒントに繋がる事を大変強く感じました。

 

恋愛については、まだ免疫も付いていなくて経験も浅い時にする恋は多くの場合が失敗に終わるのですが、
その失敗によって恋愛について深く、そして細かい大切な部分などが見えてきて、振られたり、振ったりを繰り返してその度に恋愛に対する免疫は少しづつ消えて行きました。
そして経験と学びの先に結婚、出産、子供の笑顔を見た時に、好きな人と一緒に過ごせる幸せを感じ、「二度と恋なんてしないぞ」と決めつけていたのが嘘のように今では恋をするって素敵な事だし、過去の恋愛に対するトラウマや悲しい、寂しい気持ちになったのも、その経験があったからと思うと、全てに意味はあったんだと思い返しています。
そして私は強く思いました。苦い思い出があるから良い思い出が作られて行くのだ。
恋愛を深く考える事によって恋愛は最高に良いものなんだと感じたのです。

コーヒーも最初は飲めなかったのに、今は美味しく飲めている。

それは初めに苦い思い出があったからではないか。
と考えました。

 

ある時に大好きな職場の先輩が目の前で手間をかけてドリップ・コーヒーを作って頂きました。
その時、私はコーヒーが苦手だったものですから飲めるか心配でした。
大好きな先輩だったし、手間をかけてドリップしているのを見ると断りにくい雰囲気でしたので、
ここは思い切って飲んでしまえ!となったのです。

 

今までコーヒーというものといえばインスタント・コーヒー、又は、缶コーヒーやペットポトルに入っているものしか見た事が無く、ドリップしている様子をまじまじと見たのが初めてでした。

そして、いよいよドリップ・コーヒーを飲んでみると、あら不思議!

「美味しい!」

これには凄く驚きました。
今まで苦くて不味いと思っていたものが、

「良い感じの苦みが最高に美味しい」

という感情になったのです。
そして、すぐさまドリップをしてくれた先輩に何故ここまで美味しいのかと沢山の質問をし、答えてくれてコーヒーの事を深く知っていきました。
そして私自身も自らコーヒーの事について調べていく事にしたのです。
それをすることによって、コーヒーの事をもっと味わえるようになるのではないかと感じました。

 

先ずは何故コーヒーは眠気覚ましとしての捉え方をする人が多いのだろうか?という単純な事から調べ始めて行きました。
一説によると、エチオピアという国に住んでいる羊飼いの人達がヤギにコーヒーの木になっている実を食べさしてみると、ヤギ達が元気よくはしゃぎ出し、踊りまわっているいる光景を見た時にカフェインの効能に初めて気づいたのが起源だと言われています。

 

これを知って先代の方々の発見によりコーヒーは生まれて行ったのだと思うと自分でも更に興味が湧いてきて、どんどんコーヒーについて調べて行くようになりました。

調べて行くとエチオピアの羊飼いだけではなく、アフリカのとある部族もコーヒーと関わりを持っていたそうです。
アフリカでは当初、飲み物としての扱いではなく食べ物として接種していたそうです。
コーヒーの実と脂肪を混ぜ合わせて””エナジー・ボール””として食べていたそうです。

 

当然ながら沢山の品種がある事を学びました。世界で70パーセントの消費量をほこるのが香り豊かでマイルドな印象を強く受ける「アラビカ種」であったり、
あとの30パーセントはアラビカ種よりもカフェインの含有量1.5倍でありに強い苦みが特徴の「ロブスタ種」だそうです。

 

と、このようにコーヒーが好きな私にとってはどこまでも調べたいし、語りたくなるのです。
コーヒーについての興味が湧き、深く調べていくと様々な行程において細かなアプローチが存在します。

コーヒー豆の質は当然大切なのですが、お湯(水)の質が低いとコーヒーのポテンシャルも同じように低くなります。
そして、お湯の音頭や注ぎ方など注意する点が沢山あり、
これらを確実にクリアしていくと、どんどん美味しくなっていきます。

 

コーヒーについて沢山考えて、実験を重ねて本当のコーヒーの良さや性質を理解していくということなんだと思いました。
そしていつしか私はコーヒーに深い愛を持ったのです。
コーヒーを飲む事で幸せすら感じるし、香りを匂っただけで夢のような気持ちにさせられます。

私は再びコーヒーに恋をしたのでした。
恋愛についても私は全く同じ事が言えると思います。

 

恋を知った初めの頃は愛や恋についてあまり知らない状態でしたので、
失敗したり(傷つけ、傷つけられ)を繰り返していましたが、
過去の失敗から多くの事を学び、パートナーについて深く、そして細かく知ろうとしたり、
注意すべき点が増えて喧嘩が減っていったりして、次第に笑顔で過ごす時間の方が多くなっていきました。

 

恋愛とコーヒー。
どちらも共通して言えるのが、それぞれと向き合って、表面だけでなくて(大人が楽しそうに飲んでるだけでコーヒーを飲みたいと思う感情)、それらの持つ性質や本質をしっかり見て、感じて、自分なりに時間をかけてでも解釈していく事が、美味しいコーヒーを飲むという事であり、良き恋愛をするという事に繋がると思います。

振り返ると、恋愛とコーヒーと出会った当初は苦い思い出が沢山出来ますが、
それぞれの本質や性質、細かなアプローチを知っていくと、
それは苦いだけの思い出から、美味しい思い出に変わるのだとコーヒーと恋愛がわたしに教えてくれた事でした。

これらから紐解いていくと、苦手な事や自分にとって嫌な事というのは、その裏ではもしかしたら人生を楽しく生きていく上で非常に重要なヒントを持っているのかもしれません。

自分自身の苦手意識に介入して、この苦手な案件について沢山調べてみよう!
この苦手な事(モノ、人)を好きになるには一体どうしたら好きになれるのか。
嫌いな事ではあるのだけれど、細かなアプローチなどをしっかり観察してみよう。
自分が困難にぶつかった時に私はこのように考えるようになりました。

このように全ての考え方をひっくり返せてポジティブな考えになれたのは、紛れも無くコーヒーと恋愛でした。

コーヒーと恋愛
どちらも苦手で初めて経験した時は「二度としない!」と言い放ったのに、
今では大好きに変わりました。

むしろ今の私は、困難や試練、自分の苦手な事や嫌な事が自分の人生に降り掛かってきた時に喜びすら感じるのです。
理由は、また”コーヒーと恋愛”の話のようにのこれからまた新たな幸せと発見が待っていると考えるとワクワクしますし、その困難や苦手な事と嫌な事を好きになれた時に自分の人生の中に楽しい事や趣味など、好きな事やモノが増えるはずだと言う事を確信しているからです。

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私の理想の夫婦はおじぃとおばぁ

私の理想の夫婦はおじぃとおばぁ。
母の両親です。
二人は沖縄に住んでいて私が小さな頃は毎年夏休みに一ヶ月くらい泊まりに行っていました。
それ以外にも旅行を兼ねて数年に一度はこっちまで遊びに来て何泊かするので
遠くに住んでいる割にはよく会っていたと思います。
今は歳を取って病気も抱えた二人が県外に旅行に出ることは難しく私も社会人になったため昔みたいにゆっくり遊びに行くことはできなくなった。
それでも事故で足を悪くした母の代わりに二年に一度程は顔を見に行っています。 続きを読む 私の理想の夫婦はおじぃとおばぁ

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