自分のカフェを持つって憧れるけど、実際やっていけるのかな?凄く興味はあるけど、素人がカフェ経営なんて無理なんじゃないかな?
将来カフェ経営を本気でやりたいと思ってるから、「お客さんに愛されるカフェ経営の方法」を知りたい!
今回は、こんな方に向けて「失敗しないカフェ経営の秘訣」を紹介していこうと思います。
・立地が悪くてもリピーターが途切れないカフェ経営の秘密とは?
・閉店に追い込まれず安定したカフェ経営の仕方とは?
・「人が人を呼ぶ」←これを実現する具体的な方法とは?
・遠方のリピーターを増やす方法とは?
・座席が少なくても賑わうカフェと閉店するカフェがある。その差は?
・行列ができても閉店に追い込まれるカフェの小さなミスとは?
・カフェ経営での「単価を上げ方」とは?
・雑誌を見て来店してくれる方ほど、リピーターにならないという事実
・などなど
飲食店経営の大半は、5年で倒産してしまうと言われています。
それくらい難しいと言われている飲食店の経営。
でも、自分のカフェを楽しく経営できたら、「仕事だけでなく人生も充実しそう!」と思う方は多いかもしれません。
好きなことを仕事にできるのですから、「きっとお金のためだけにいやいや働くより、何百倍も楽しいのでは?」と思う方も多いでしょう。
では、どうしたら閉店に追い込まれず安定したカフェ経営を続けられるのでしょう?
カフェ経営ノウハウ満載です!
いつか飲食店を経営したい方は必見ですので、
カフェ経営を夢見るブロガーマリコちゃんが、近所のカフェに行ってオーナー順子さんとお話する中で、経営だけでなく人生観まで学んじゃうというお話です。(*^_^*)
目次
- 1 第1話「夢はカフェオーナーのOLマリコが、15年も愛され続けるカフェ“R”の秘密を探ってきた!」
- 2 第3話「無礼でもいい。“許される無礼”は居心地のいいカフェを作ってくれる」
- 3 第4話「今は取材も断ってる。でも最初から“愛されるカフェ”だったわけじゃないのよ…。byカフェオーナー順子」
- 4 第5話 「ときにはお客さんに“素敵な嘘”をつく。その嘘を求めてるお客さんもいる!」
- 5 第6話「あなたの夢は上辺だけかも?開業費・保健所の申請、壁の色、オープンの日、平均単価、粗利…。どこまで考えてる?」
- 6 第7話 「カフェなんていつでもオープンできる。資金とか今の仕事が辞められないとかは、所詮言い訳…」
- 7 第8話「イメージという名のスイッチを連打できれば、カフェ経営は上手くいく!」
- 8 第9話「カフェオーナー順子がお客さんに隠している裏の顔とは?」
- 9 第10話「カフェオーナーがお客さんの前で避けるべき話題とは?そして、マリコの決意とは!?」
第1話「夢はカフェオーナーのOLマリコが、15年も愛され続けるカフェ“R”の秘密を探ってきた!」
はじめまして。
私は、現在28歳、都内某企業OLマリコ。
夢は、カフェオーナーです。
私は、カフェが好きで、全国のカフェ巡りをしながら、様々なお店をレポートしてきました。
ブログにも沢山のお店を紹介してきましたが、もう閉店されてしまったお店、なんとかやっているお店、物凄く流行っているお店とイロイロです。
そのイロイロなお店の中の一つ、今回はうちの近所にあるカフェの紹介です。
そこは決して繁盛店というわけでもなく、今にも倒産しそうな危ういカフェでもなく、何故だかわからないけど、もうかれこれ15年も続いているお店なのです。
そんなに続いているお店なのに、私は一度も入ったことがない。
いえ、私だけではなく近所に住む友人たちも入ったことがない。
カフェを開業しても、殆どが1年から5年で閉店してしまうという現状で、その大きな壁をクリアされているカフェ「R」には、何か秘訣があるに違いない!
と思い立ち、パソコンに向き合う仕事を卒業して、カフェオーナーになるという夢を叶えるべく、カフェ「R」のオーナーに話を聞きに行ってみたのです。
と、恐る恐るなわたし。
決して作り笑顔などではなく、心から迎え入れてくださる「R」の店主。
初めて入るお店への緊張がほぐれ、私も笑顔になった。
メニューを見ると。。
- たんぽぽコーヒー
- チコリコーヒー
- 黒糖ココア
- 生姜茶
何だか体に優しい飲み物ばかり。。
店主が説明してくれる。
この一言で、毎日会社のインスタントコーヒーで胃をやられている私は、
という思いで早速注文。
ハート型のカップで運ばれてきたたんぽぽコーヒーは、本当のコーヒーとは違う優しい香り。
口をつけると、コーヒー。。ではないんだけど、コーヒーっぽい。
皆同じ反応をされるせいか、店主は「どう?」っと言った顔で私を見て、
と促した。
そんな会話の糸口から、少しづつお店の経営について、失礼のないように探りを入れてみたんです。
おばさんという感じではなかったので、あえてお姉さんと呼んでみた。
ちょっとバツが悪かった。
「うちは殆ど公な宣伝をしていないの。
そのかわり、素敵だなと思うお店にチラシを置かせてもらってる。
そこで、うちのチラシを手に取ってくださった方が御縁の方なの。
なぜか遠方の方が多いのよね。そして人が人を連れてくる。
月に1度か2度の来店だけど、確実な常連さんよ。
それに、遠くからここに来ることがある種のイベントになっているの。
カフェにいらっしゃるお客様ってね、
・ただお茶を飲む人
・リラックスして仕事を兼ねる人
・お友達とおしゃべりする人
それが大半。
それだけだと、回転率を上げなければやっていけない。
でも、席数も少なく立地も悪いうちは、回転率上げるなんてちょっと無理があるんだよね。
だから、そういう席数も少なく立地も悪いカフェこそ、何か「ウリ」がなければ、ダメなの。
それで、“楽しめること”を沢山取り入れたら、遠方からでもわざわざ楽しみにいらっしゃる方が安定していったってわけ。」
確かにお茶を飲むだけなら、フランチャイズ系の安いカフェは沢山ある。
お友達とおしゃべりするのに、ちょっとおしゃれなカフェを探して行ったりはするけど、、、。
楽しむカフェって??
カフェ「R」は、古民家を改装した2階建ての建物だった。
駅から昭和の香りのする商店街を抜けて、住宅街の入り組んだ静かな場所。
緑豊かな広いお庭があって、鳥の鳴き声が響く。
こんなわかりにくい場所に遠方からわざわざ楽しみに来るお客様って、いったいどんな人たちなんだろう?
店主は、昔マンションの1階のテナントでカフェをされていたそうで、そこでは思い描いていたカフェ経営とは違う現実に疑問を覚え、今の形態の経営に変えたらしい。
テナントでの経営は、ランチタイムは忙しく外には待ちのお客様もいて、表向きはとても流行っているお店のようだったそうですが、バタバタするばかりでランチ850円に150円のコーヒーでは、毎月自転車操業状態。
もっと楽しんで頂けて、私自身も楽しめて、笑顔がいっぱいあるお店にしたい!」
私は、既にお姉さんとの時間を「楽しんで」いた。
順子という名前がピッタリな順子さんの笑顔は、長い間飲食業に関わってきて沢山の経験を持った安定した素敵な笑顔だった。
第2話「カフェ経営の夢はあるけど、休日はダラダラ寝てる…。そんなマリコが、動き出したキッカケとは?」
初めて入ったカフェ「R」 一度慣れてしまえば、2回目は行きやすい。
「いったいどんな人がやっているの?」と思ったけれど、 店主順子さんは気さくで可愛らしい方だった。
話も楽しくて、また逢いたいと思った。
もしも私がカフェを経営したら、お客様は「また私に会いたい」と思ってくださるだろうか?
順子さんのように、ニコニコとお客様に楽しい話を提供できるだろうか?
何となく会社へ行って仕事をこなし、帰宅してテレビを見て寝る毎日。
そのテレビの内容も、次の日には忘れてしまう程の内容のなさ。
時々友人と食事には行くけれど、仕事の愚痴かこれからの不安の共有だったりして、あまり実のある話じゃない。
大した趣味もなく、それでも図々しく夢だけはでかい。
「いつか自分のお店を持つんだ!」という意気込みはあれど、実際何か準備しているわけでもなく、気ばかり焦って。。。
このままの私がお店をオープンしたとしても、うまくいくわけないだろうなぁ。
我ながら、「面白みのない人間だなぁ」と自己嫌悪な気持ちを抱きながら、順子さんに会いに行った。
昨日ちょっと打ち解けたせいか、順子さんがさらに魅力的に見えた。
今日みたいに突然の来客も面白いわね。」
順子さんは、そう言って私ににんまりした。
順子さんの言うように、寝ていれば何も考えなくて済む。
不安からも自己嫌悪からも逃れられる。
順子さんは言った。
私がそういうと、順子さんは声を上げて笑った。
順子さんの言っている意味がわからなかった。
順子さんはまた笑った。
そうかもしれない。
もし順子さんの言うように、エリカが自分を大きく見せようとしての投稿ならば、それが彼女にとって虚しさなのであれば、そんな彼女に嫉妬している私はバカみたいだ。
あー、私知ってた。
世界で一つだけの花の歌好きだもん。
順子さんの言葉で、エリカのことがどうでも良くなった。
私は得意げに答えた。
身体の力が抜けた私に、順子さんは続けた。
「でしょ?いらないいらない~人間はね、混乱した現状を夢で処理することが出来るの。ちゃんと寝て、リセットして、また新たに進む。夢の登場人物って誰だかわかる?」
寝ることはすごく大事なのよ」
ここ最近、騙し騙し自分と過ごしてきた。
今の会社、ずっといる気はないし、だからと言ってすぐにお店を開く自信もない。
カフェの夢を実現したくても、何から始めていいのか、そもそも本当にカフェの仕事が自分に合っているのかどうかもわからないのに…。
カフェ巡りは好きだけど、経営となると難しそうだし。
そんなこんなが頭の中をぐるぐるして、結局考えるのが面倒になって今までは寝ちゃってた。
それは、「現実逃避にほかならない」と思い込んでいたけれど、順子さんは私を完全肯定した。
たった一言で、「それでいいのよ」というたったその一言で、私の中に流れるエネルギーの温度が上がった。
今日も本当はこれから帰って寝るつもりだったけど、それよりもまだまだこのまま順子さんと話していたいと思った。
第3話「無礼でもいい。“許される無礼”は居心地のいいカフェを作ってくれる」
カフェ「R」は、古民家を改装したベジタリアンカフェである。
コンセプトはゆる~く、まったり。 食事は体に優しいベジタリアンのプチコース。
完全予約制の為に突然行っても食べられない。
常連になると飲み物だけも可能。
けれど、予約がないと順子さんはショッピングに行っちゃったりするので、フラッと行っても玄関の鍵が閉まっていることが多々あるらしい。
今日は、
明日も来ます!
という私の言葉を覚えていてくださったので、順子さんは私に付き合ってくれている。
なかなか帰りそうもないと思われたのか、お昼の心配をしてくれた。
たんぽぽコーヒー1 杯 500 円で、順子さんの午前中を奪ってしまった私としては、このパスタで、あと2~3時間は順子さんとおしゃべりしていられそうだと嬉しくなった。
そういうと、順子さんはまだ二つ折りにしていないフライヤーをたくさん持ってきて、二つに折っていく作業を私に託した。
「コーヒー代だけでは悪いな」と思っていた私が、「更にパスタまでご馳走になるなんて申し訳ない」と思いながらも、順子さんが私に仕事を与えてくれたおかげで、遠慮なくまかないを受け取れた。
フライヤーを二つに折りながら、私は何だかスタッフになったような気がして、まだ2回目の来店なのに、もうず~っと前からの常連のような気分になって嬉しかった。
飛び込んで入ってきたのは、後ろに髪を束ねたスタイルのいい背の高い女性だった。
私は、小声で順子さんに尋ねた。
と、順子さんが2階の説明をしようとすると、
そう言って早口で簡単な挨拶をして、バタバタと2階へ上がっていった。
私の自己紹介をする間もないくらいに。
玄関の方で、音がした。エステのお客様いらっしゃったのかな?
順子さんは全くその音を無視していたので、
と聞いてみると
古民家特有の横にスライドさせる玄関の戸はガラガラガラという軽快な音を立てるでなく、ガラッ、ガガガー、カッ、と突っかる感じの音がしている。
なかなか開かない戸と格闘しているお客様を想像しながら、くすくす笑っている順子さんは、完全にそれを楽しんでいた。
なんとか開き、ふぅ~っと言いながら両手に荷物を持ったお客様が
と、ふさがった両手のまま順子さんに寄っかっかっていった。
順子さんもお箸で片手がふさがっていたので、よしよしと片手で彼女をハグした。
立て付けの悪い引き戸と出迎えない店主に文句も言わず、大喜びで順子さんの胸に飛び込むそのお客人は、どうやら長い付き合いの常連さんのようだった。
順子さんは、「あとで一緒に食べようね」と言わんばかりに、私にピースをした。
恵さんと紹介された女性は、愛想のいい会釈を私にして椅子に腰をかけ、当たり前のようにフライヤーを二つに折り始めた。と、2階からなにやらパン!と手を叩く音がした。
どうやら、今日のエリさんの出勤は早い方らしい。
ドタバタと準備をする音が、急に静かになったと思ったら、パン!という手を叩く音。
恵さんが言った。
パスタを茹でている順子さんが振り向いて、
確かに1階まで響く澄んだ音がした。さっきバタバタと駆け上がっていったエリさんは、別人のような静かな足音で階段を降りてきて
と、巫女のような笑みで恵さんを施術に案内した。
そのパスタはニンニクと玉ねぎしか入っていなかったのだけれど、すごくすごくすごく美味しかった。
ニンニクはホクホクと芋っぽい食感と揚げてパリパリした食感のもの、玉ねぎはスライスされたものと、すりおろしたもの、そしてパリパリ揚げたもの。
2つの食材だけなのに、こんなに深い味わいのパスタが出来るなんて。。
この人、やる気があるんだろうか。。
スープを飲みながら順子さんは言った。
そう言われて、いつも何を考えながら作ってたかわからないくらいだったんだと、気がついた。
順子さんは、ぶんぶん首を横に振った。
順子さんは頷いて
順子さんのユーモアに、私も既に上機嫌になっていた。
第4話「今は取材も断ってる。でも最初から“愛されるカフェ”だったわけじゃないのよ…。byカフェオーナー順子」
ケラケラと笑っていた私達の笑い声を止めたのは、お店にかかってきた電話だった。
そう言って順子さんは、その後受話器を持ったまま、 しきりに、
と、 何度も何度も見えない相手にお辞儀をしながら恐縮していた。
受話器を置いて、有り難いけどな、と呟く順子さんに、
と聞いてみた。
「えぇ」
確かに、私はたった一日でこのお店にハマってしまった。
このお店が 15 年も続いているのは、きっと私のような気持ちになった人が、沢山いるに違いないからだ。
順子さんは、笑いながら呆れ声で言った。
私は、自分の人生の中身がスカスカのような気がして、恥ずかしくなった。
あれこれ考えていると、順子さんは言った。
順子さんは続けた。
順子さんは、おもむろに立ち上がって、冷蔵庫を開けた。
っと言いながら、チーズケーキを取り出して、
と、チーズケーキを高く持ち上げた。
そう言いながら、お風呂上がりのような上気で恵さんが2階から降りてきた。
顔がツヤッツヤしている。
二人は、漫才コンビのようにハイタッチをして笑った。
と、順子さんが2階に向かって声を張り上げると
という声が返ってきた。
恵さんは、さっき私が食べたニンニクと玉ねぎのパスタを、私とエリさんはチーズケーキを、
後で恵さんが一人でケーキの時間を過ごさないように、順子さんはこういう小さな気配りが出来る人だった。
私とエリさんはすっかり顔が緩んだ。
順子さんが嬉しそうに言った。
恵さんも加わって、カフェ「R」は笑顔でいっぱいになった。一つのお鍋をつついて絆が高まるように、ホールのケーキをカットして分け合うのも、同じなんだろうな。
私は、常連気分とスタッフ気分の入り混じった心地良さにすっかり甘えていた。
あぁ、こんな空間を作りたい。
こんな場所を職場としたい。
だけど、順子さんは、いきなりこんなまったりした空間を作り上げたんじゃない。
色んな人生経験が反映されていて、お客さんやスタッフさんのキャラクターも手伝って、今がある。
会社と自宅の往復をしている私がこれからカフェをやるには、どうしたらいいんだろう?
順子さんの言った私には、私に合った経営ってなんだろう?
私にとっての成功って何だろう?
恵さんが得意げに言った。
エリさんが暴露した。
順子さんがそう言うと、恵さんとエリさんは顔を見合わせて静かに笑った。
目を見開いて順子さんに尋ねると、
と、順子さんはお茶目に笑った。
どうやらここのカフェは、食事とエステと占いで成り立っているようだ。
第5話 「ときにはお客さんに“素敵な嘘”をつく。その嘘を求めてるお客さんもいる!」
占い。
大抵の女子は好きだし、そんなに興味はない人でも今日の星占いなんてあったら、つい自分の星座に目をやってしまう。
それが当たっていようが当たっていまいが、多くの女子達はいい事だけを信じて、楽しんでいる。
そういう私も、占いなんて信じないわ!と思う派なんだけど。。。
ちょっと楽しんでいる。
そして今、今、すごい順子さんに観てもらいたい。
迷える羊は、行き場を失うと占いさえも頼りたくなるのである。
そう言えば、昔住んでいたマンションの近くに前世喫茶というのがあった。
そこはいつも若い女の子たちで溢れていて、ものすごく流行っていた。
一度だけ行ったことがあるけど、そこのママが前世を観てくれて、それが今世どんな影響を与えているのか、自分の才能はなんなのか、今後のアドバイスをしてくれるのだ。
女というのは、未来を不安がる生き物。
だから、大丈夫だという安心が欲しい。
私は中世フランスに居て、古い絵やアクセサリーを扱うギャラリーの店主だったと言われた。
そう言われて、ヨーロッパのアンティーク物が好きな私は、強ち嘘ではないかもしれないと信じた。
これが嘘か本当か確かめる術は、どこにもない。
けれど嬉しかったのは、今世も何かお店の店主になるかもしれないと言われたこと。
鑑定が嘘だろうが本当だろうが、私が気分が良くなったのは、確かだった。
因果応報ってやつだ。
順子さんは、声色を変えて続けた。
と、悪代官のような口調で順子さんが言った。
きっと順子さんの性格からして、順子さんの占いは幸せな嘘もあって、人を元気にするものに違いない。
恵さんがせっついた。
恵さんの興味深そうな促しが、妙に怖くなって、
と、私は小さくなった。
エリさんが言う。
イイ事あるってワクワク信じる心が本当にイイことを引き寄せるの。当たるわけないとかインチキだとか批判するのはナンセンス!
ただ、占い師は選ぶ必要がある。大して経験もないのに高額な料金を設定していたり、不幸な予言をしてみたり、そんなとこへは行かないほうがいい。」
恵さんが問うと、
全員でツッコミを入れながらも、それが本当の話なのか、単なるダジャレなのか、でも、オーラの視えるというエリさんが言うと本当っぽかった。
マリちゃんのオーラは黄色。でも、さっきみたいに浮かない顔だとくすんでくるのよ。そうやって楽しんだり笑ってたりしたら、どんどん輝いてくるわよ」
私はオーラは見えないけど、でも輝いている人、どんよりしている人っていうのはわかる。
恵さんがしみじみ言った。
大きな口を開けて、チーズケーキを頬張る恵さん。
もう10年もここの常連でエリさんのエステを受けているのに、パンパンのGパンのベルトの上にお腹が乗っかっていた。
ドレスを着せたら、ちょっとマツコデラックスにも似ている。
この人がオンになって、真剣に神のお告げでもしようものなら、もの凄いド迫力なんだろうなぁと思った。
エリさんがお皿を片付けようとすると、
と、順子さん。
どうやら私は、今日はすっかりスタッフらしい(笑)
遠くから来ているお客様にとっては、ここに来ること事体がイベントになっている。
昨日の順子さんの言葉を思い出した。
私は歩いて5分で帰れるけど、充分楽しい。
でも、ここが2時間半先の場所にあったら、もっと楽しいと感じるのかもしれない。
恵さんが荷物をまとめて身支度をすると、順子さんとエリさんは丁寧に玄関まで見送った。
なぜか、私もついていった。
エリさんがそう言うと恵さんは照れながら、
と、お腹を揺らしながら、嬉しそうだった。
立て付けの悪い引き戸を慣れた手つきでエリさんが開け、順子さんは恵さんの靴を揃えて、姫を誘うようにおどけた。
恵さんは大満足の笑顔で手を振って帰っていった。
順子さんとエリさんは、恵さんの姿がとっくに消えているのに、ずっと頭を下げていた。
何度も何度も、ありがとうございますと呟きながら。。
エリさんがパッと頭を上げて、慌てて2階へ準備をしに行く。
順子さんはフロアに戻り、お皿を下げて、私は洗い物を洗った。
順子さんにスポンジを渡して、私はお皿を吹く布巾を取った。
私はしばらく考えた。
第6話「あなたの夢は上辺だけかも?開業費・保健所の申請、壁の色、オープンの日、平均単価、粗利…。どこまで考えてる?」
人は、ちゃんと望み通りの人生を歩いているという。
本当はこうしたい、ああしたいと夢はあれど、実は今の現状の方がとても都合がよくて、文句や愚痴を言いながらも、変えようとはしない。
望み通りではないけれど、人生を変えたいほど困ってはいないからだ。
恵さんはダイエットをしたいと思ってここのエステに通っていて、痩せてスタイルのいい女を目指してはいるのだけれど、本当に痩せちゃったら、ここに来る原動力も痩せてしまう。
だから、今の体型を行ったり来たりしながら、順子さんやエリさんに会いに来ているんだ。
この場所が楽しくて通っている限り、恵さんはきっと痩せない。
そう言えば友人のエリカもイケメン整体師に会うために、身体を酷使しているのかもしれない。
3か月通い詰め、もう大丈夫だから来なくていいと言われたのに、1か月も経たない内にまた通い始めた。
身体を治す為に。。
ではなくて、イケメン整体師に癒してもらう為に。
私、今のつまんない会社をとっとと辞めて、一人で気ままに出来る小さなカフェでも開きたいと思っている。
だけどそれも潜在的な望みは今の会社に居る事で、安定を手に入れ、そこそこの生活で満足していたりするのだ。
覚悟を決めないと、ずっと「やりたいやりたい」で終わってしまって、妥協の会社勤めでお局になるか、
さもなくば、平凡な主婦の人生を歩むことになる。
順子さんはニタリと笑った。
「・・・」
自分の気持ちに気づいて、本当の自分の意思で進んでいこうっていうのが意図だから、それでもいい?」
ドキドキしてきた。
順子さんは「気楽にね」って言うけど、自分でもよくわからない自分の本当の気持ちって、知りたいようで知りたくない。
これからは自分の意思で進んでいく、それを聞いただけで物凄く怖くなった。
順子さんはエプロンを外し、奥の和室の部屋へカードを取りに行き、「こっちの部屋とそっちの部屋とどっちでする?」と私に選ばせた。
既に私の意志が始まっている。
奥の和室ですると逃げ場がないような気がして、さっきまで恵さん達と和んでいたフロアの席にした。
順子さんは私の真正面ではなく斜向かいに座り、大きく深く息をして、目を瞑ってカードを切った。
さっきまでゆるく柔らかく笑顔だった順子さんが、先程巫女のように降りてきたエリさんのように、優雅で凛とした天女になった。
順子さんの白い手で、扇状にカードが開き、
と、促された。
適当に10枚を選んで渡すと、順子さんは慣れた手つきで、カードを十字型に並べた。
まだカードを開かないうちに、順子さんが言った。
さっきとっさにカフェがオープンできるかどうかと聞いて、順子さんは、「できると言ったら信じるのか、できないと言ったら諦めるのか」と問い、私は何も答えられなかった。
カフェをオープンしたいけれど自信がないから、出来ると言われても困る。
でも出来ないと言れても諦めきれない。
質問の仕方がわからなかった。
正直に答えた。
順子さんは表情を変えなかった。
頭の中で浮かび、順子さんに伝えようとすると、順子さんは質問を変えて、また口を開いた。
壁の色は何色?音楽はどんなジャンルを流したい?保健所の申請に何を準備すればいいか、いつまでに提出すればいいか知ってる?オープンの日のこだわりはある?
駅から何分?お家賃はいくら?
何時にオープンして、何時に閉店?ターゲットはどこ?HPは自分で作れる?チラシはどうするの?お金を頂ける内容のお料理を作れる?お客様の平均単価は?それが月にどのくらい見込めて粗利はどのくらいで、
自分の収入と見合った生活が見える?」
おっとりした順子さんが弾丸のように喋った。
私、そんな事考えもしなかった。
同時にいつもカフェをオープンしたいと思い描いていたことが、明らかに『漠然』である事に気づき、言葉にならなかった。
店舗を探す術にもなるの。」
順子さんはにっこり笑って、やっと3枚カードをめくった。
うんうんと頷き、あ~~と納得をし、えっと…と、言葉を選んだ。
順子さんは「あはは」と笑いながら、
その言葉には、今までになく重みがあった。
第7話 「カフェなんていつでもオープンできる。資金とか今の仕事が辞められないとかは、所詮言い訳…」
開いているカードは、依存・期待・他人任せ・才能・執着の5枚。
順子さんは、まだ開いていないカードを見つめながら言った。
お金がないから出来ない、会社が辞められないから出来ない、したいことに言い訳をつけているうちは、本当はしたくないという事。
或いは、今は時期ではないという事。さっきも言ったけど、オープンなんていつでも出来る」
私は、しぶしぶ同意の頷きをした。
「だからオープンは、さほど問題じゃない。大事なのはオープンしてからよ。なんでもそうだけど、続けていくって凄いことなの。多くの人は我が強いので、人の言うことを聞かない。
でも、その中で聴く耳を持っている人がいる。その聴く耳を持った人の中で、今度はやる人とやらない人が出てくる。次にやる人の中で、ただやった人とずっとやり続ける人と分かれてくる。そのずっとやり続けた人が成功者。
パッと華々しく見えて、物凄くお金を儲けた人でも、すぐに消えちゃう人は成功者とは言えない。成功者はずっとやり続けて位置が決まっている人」
人生経験の浅い私にも順子さんのその台詞は、胸に刺さった。
「マリちゃんが嫌だ嫌だと言いながらも会社に行き続けていることは、それはある意味凄いことなのよ。嫌だからって2~3ヶ月でやめちゃう人もいっぱいいるわ。
その会社で何となくやっていることも世の中の歯車の一つになって、役に立っているのよ。会社が10年務まれば自信にもなる。それが20年30年になればもっともっと力になる。信用にもなる。だから自分が身を置かせてもらってお給料を頂いている場所の悪口は、言わない方が誇りになるの。
ただ、そこへ行っていることが自分の人生を犠牲にしてまで耐え忍ばなければいけないような職場なら、さっさと辞めて転職なさい。飲食業へ転職して現場を見るといいわ。
吸収できる事を沢山吸収して人間力をつけて、その傍らで夢を事細かく思い描き、いつでもチャンスの波に乗れるように準備しておいて。
嫌だと思って安易にやめたら、その代償はカフェを開いた時にやってくるわよ。仕事を辞める時は、あー沢山学べましたありがとうと、感謝に変わった時。
問題を抱えたまま辞めたら、次の場所で同じ問題が待っているだけよ」
私は、すっかり押し黙ってしまった。
沁みる。
順子さんの言葉が深く沁みる。
「まだまだ、あなたにはお店を持つ資格なんかない」と言われたような気がした。
「あなたがお店を開いたってどうせすぐ潰れちゃうわよ」って言われたような気がした。
順子さんはまた3枚カードを引いた。
真実・愛・繋がりの文字が見えた。
今夜ノートにビジョンを事細かく書いてごらんなさい。真実であればあるほど、怖くなってくるわ。そしていっぱいワクワクもしてくる。そしたら本物。
本当に自分のお店を持つんだって、覚悟をしてみて。でも、さっきも言ったようにお店をオープンするのは誰でもできる。肝心なのは、それを維持していくこと。
まだまだ先は長いわ。まずは、覚悟という扉を開けて!」
カードの残りは2枚。
そのカードはマリちゃんが恐れているもの。
私は恐る恐る順子さんの顔を見ながら、ゆっくりめくった。
カードは「成功」。
成功?成功が恐れ?
順子さんは、カードを手にとって
そう言って、山の頂上で万歳をしている成功のカードを私につきつけた。
だから慣れた場所、そう、うまくいかなくてずっと愚痴を言っていた世界へ戻って、文句を言いながら安心するの。人や物のせいにできるからね」
じゃあ、最後のカードを開いてみて。
それが、今マリちゃんに一番大切な事。
成功する為にすべき事。
今度はカードをしっかり見て、めくった。
「信頼」
それは自分で自分を抱きしめている格好をした人間が、更に大いなるものに抱きしめられているような絵だった。
順子さんは言った。
本で読んだことがある。
松下幸之助さんは面接の最後に必ず「あなたは運がいいですか」と聞き、そして運が良いと言った人を採用すると。
美容業界で有名なカリスマ美容師は面接の際、「ご先祖様を大切にしていますか?」と聞いて、大切にしている感謝していると言った子だけを採用するという。
これは、神仏を信じるかということではない。
心の持ちようを問うたもの。
運は考え方や心の在り方が引き寄せるもの。
抽選で天が与えたわけじゃない。
良いことが起こるというのは、絶対に以前に良い種を蒔いているからなのである。
そしてここに今自分が「在る」のは、父母、祖母祖父、曾祖父母・・・ご先祖様のおかげなんだ。
私は、私をもう少し「信頼」してみようと思う。
第8話「イメージという名のスイッチを連打できれば、カフェ経営は上手くいく!」
エリさんが下りてきた。
二人目の施術が終わったようだ。
続いて、お客様も下りてきた。
ビフォーを見ていないので違いはわからないけれど、施術後でキラキラしていた。
広げられたカードを見て、エリさんは私の頭を撫でた。
と、お客様。
どうやらこのお客様はここが初めてのようだった。
私は自分の気づきの興奮も手伝って、そのお客様に意気揚々と体験を話した。
女子は占いが好き。ほぼほぼ当てはまる。
私もカフェをオープンしたら絶対占いを取り入れよう!
順子さんが、そのお客様のお相手に入るのを機に、私は帰ることにした。
順子さんとエリさんはうんうんと優しく頷いていた。
二人は玄関まで見送ってくれて、なぜか初めて来たばかりのそのお客様もお見送りしてくれて、私は清々しい気持ちで、カフェ「R」を後にした。
外は日が暮れていて、真っ暗だった。
順子さんは、ごちゃごちゃした気持ちは書き落とすのが一番だと言っていた。
活字にすることで、整理がついていくと。
私は駅前の雑貨屋さんでノートにしてはちょっと値段の張ったものを手にした。
100均にもノートはあるけどね、なんか気分的に高級ノートに書きたかった。
自宅マンションに帰って、手を洗い、私はまず柏手を打った。
ぺちゃ!
あ、順子さんの言っていたぺチャだ。
違う違う。
仕切り直し、右手を少しずらして心を澄ませ、もう一度打った。
パン!
パン!
部屋の空気が・・・変わった。
私の中の歪みが張り、淀みが澄んだ。
ラメの入ったゴールドのノートの表紙に、なんて書こう?
『成功の心得』
ちょっと違うなぁ
『失敗しないカフェ経営に向けて』
いや、いきなり表紙に失敗の文字は縁起悪いな。
『するべきリスト』
堅苦しい。。。
あぁ、ダメだ詰まってきた。
表紙のタイトルごときにもう1時間も考えている。
気分を変えてコーヒーを淹れよう。
先日買ってきた生豆を手煎りの焙煎機器に入れる。
火にかけ、生豆を転がしていくと徐々に色を帯び、表皮が向け始める。
青々とした煙が火事でも起こさんばかりに立ち上がり、生豆が茶色になっていく。
剥けてきた表皮が舞い上がり、だんだんと香りも立ってくる。
生豆の水分が飛んで軽くなるとやがて軽くハゼる音。
この小さな爆発音と変わりゆく香りを頼りに、火を止める。
きっとこの香りは外まで走っているはず。
あぁ、このコーヒーを届けたい。
私が「お店を持ちたい」と思った一番のきっかけは生豆だった。
会社で飲む酸化しまくったコーヒーとは違い、生豆から炒ったコーヒーは薬にさえなるほど体にいい。
ブラックでも飲みやすく、何杯飲んでももたれない。
炒った豆を冷ましている間、キッチンを掃除した。
順子さんが言う掃除掃除掃除は、自分の心の整理整頓だ。
すっきりした気持ちで飲むコーヒーは、きっと美味しく味を変えてくれる。
冷めたコーヒーの豆をミルでガリガリと挽き、布のフィルターをセットして、ゆっくりとお湯を注いでいく。
粉がお湯を含み、布の淵まで上がってくると、呼吸をするように今度は下がっていく。
何度か呼吸をした後の、カップに落ちたコーヒーは丁度いい温度だ。
一口飲んでひらめいた。
責めの赤いマジックを手にとって、表紙に書いた。
を。
つべこべ言わずににっこりマーク。
言葉よりも感覚で伝わってくる図柄。
多分これから私はいろんなところでニッコリマークを見る度に、自分のノートの内容を思い出すだろう。
コーヒーの香りと共に味と共に、ノートの事を思い出し、笑う度に自分の夢の事を思い出し、スイッチが入るだろう。
心して書き落とそうと思った。
これからしたいこと。
すること。
した方がいいこと。
・照明の明るさや角度をちゃんと見る。
・素敵な雑貨屋さんがあったらその都度名前をチェック。
・素敵な音楽がかかっていたら、恥ずかしがらずに定員さんにCDのタイトルをきく。
・育てやすい観葉植物は何か。
・駅から10分圏内 駐車場があること
・席数は・・・
具体的に色んな事を書いてみた。
こうやって色んな事を思い描きながら書いていくことで、心が踊る。
イメージが湧いてくる。
怖いけど、怖さは痺れてやがて切れていく。
カフェの講習にも行ってみよう。
お料理やパンもちゃんと習いに行こう。
もっとカフェのオーナーの話を聞いてみよう。
いい事ばかりじゃないはず。
それもちゃんと聞く耳持とう。
素敵なオーナーのいいとこ取りをして真似をしよう。
順子さんの言うように忙しい店を形相変えてするのは嫌だ。
占いやエステを取り入れたり、お客さんにお部屋を貸して教室や講座をやったりして、一緒に楽しんでいきたい。
順子さんは言っていた。
スタッフやお客様が空気を作り上げ、私のお客様だけでなく、エリさんを始め、様々な人が部屋をレンタルしてお客様を呼び寄せ、繋がりができて広がっているのよ。年月とともに、お店が進化しているの」
15年も同じ場所で、繰り広げられている繋がり。
縮んだり伸びたりしながら、必ずいつも心地いい状態にある。
いつもいつも経営戦略を考えるでもなく、どうやったら儲かるかなんて順子さんにはどうでもいいことのようだ。
楽しめること、面白いこと、笑えるネタ、それが一番の優先順位だった。
順子さんは、つまんないお店にしない為には、自分自身が面白い人間になること、魅力的な人間になる事だと言っていた。
現に、私は順子さんが面白い。
たった2日の交流だけど、まだまだ順子さんの経験や体験、知識や考え方に興味が尽きない。
順子さんのスイッチが、オンの時もオフの時も面白い。
順子さんのスイッチは、エプロンだって言っていた。
エプロンの紐を結び終えると仕事のスイッチが入り、脳内にトップガンのテーマが流れるそうだ。
そしてエプロンの紐を解いてオフになる。
或いはカードを手にし、切り終えて深呼吸をした時占い師のスイッチが入り、ロッキーのテーマが流れるそうだ。
曲目が昭和の順子さんらしくて笑える。
順子さんは全てを楽しんでいる。
「しあわせだなぁ~」と思える瞬間をいつもキャッチしてエネルギーに変えていた。
第9話「カフェオーナー順子がお客さんに隠している裏の顔とは?」
10代で感じていた一年間と、20代で感じる一年間は、全然違う。
すっかりカフェ「R」の常連となった私は、順子さんと出会って、あっという間の一年を過ごした。
パソコンを持ち込んで自分の部屋化する迷惑な客となる日もあれば、借り出されてスタッフと化す日もある。
今日は「R」のクリスマスパーティ。
早朝からパーティビュッフェのお料理のお手伝い。
7時に来てくれと言われ、私は10分前にキッチンに入った。
本来ゆるい「R」の事だから、少々過ぎても順子さんは怒ったりしないし、
「そういうこともあるよね」
「どっちでもいっか」
「後でいいんじゃない?」
と、大体の口癖がこれなので、7時ジャストでもいいのだけど、私は以前学習したので、10分前に入った。
夏のパーティの時、早く行き過ぎても段取りの迷惑かもしれないし、遅く行ってルーズに思われたくもないし、というわけで7時ジャストに行ったことがある。
すると、既にほぼほぼお料理の下準備が出来ていた。
仕込みの量を見ただけで、どれだけ早起きをしていたかがわかる。
味を染み込ませたい物は前日までに、青いものや色が変わってしまうものは出来るだけ当日に扱う。
完璧な段取りに、
と、聞いてみると、
私は今脱いだばかりの靴をまた履き、順子さんについていった。
順子さんは近くの神社へ私を連れて行った。
一緒に鳥居の前でお辞儀をし、中に入って手水で手を洗い、お賽銭をあげて、礼をする。
それだけでいいから。
そう促されて、心の中で「ありがとうございます」と呟いて、参った。
帰り道。
住まわせて頂いていること、無事でいること、そういうこと全部ひっくるめて、ありがとうございますって、挨拶に来てるの」
朝のお手伝いがなければ、私は順子さんにそんな習慣がある等知り得なかった。
お店に戻って、二人で這いつくばって雑巾がけをし、順子さんは仕込みの続きを、私は玄関とお庭を履き、人数分のスリッパを出したり、トイレや階段の掃除、テーブルのセッティングをしていった。
この一連を経験していたので、今回は先に一人でお参りに行ってから、お店に入った。
順子さんの仕込みの流れを止めることなく、順子さんのタイミングでご挨拶へ行って頂くために。。。
順子さんのゆるさの裏には、完璧な周到があった。
そして、それは他人に見せたりはしない。
「R」のゆるさは、下手をすれば只のだらしない店になりかねない。
けれども、安心できる落ち着く空間として心が緩んだり和んだりするのは、影ですべきことをしている順子さんが創り出しているものなのだ。
そして、彼女はそれを努力と思ってはいない。
実は、順子さんはゆるいながらも遅刻が嫌い。
でも自分の遅刻を嫌うと、他人の遅刻も許せなくなってくる。
そうなれば、苦しいのは自分なので、自分を好きになる為にも遅刻を許すようにしているそうだ。
だからって順、子さんが遅刻魔というわけではない。
この一年、私は順子さんに待たされたことがない。
というか、私が早く着いた時も遅くなってしまった時も、ほぼ同時に待ち合わせ場所に現れるのだ。
順子さんより遅くなる事はたまにあったけれど、私は遅刻をしているわけではなかった。
もしも相手が10分前に来る方で、私が10分遅れて行ったら、私はその人の20分の時間を奪ったことになる。その大切な時間を奪ってしまう罪悪感に 耐えられないの」
時間泥棒め!」
その結果、順子さんは相手の姿が見えてから登場するに至ったのだ。
今着きましたと言わんばかりに、殆ど同時に。。
相手が早く着きすぎても待たせることもないし、遅れてきても同時に現れれば相手も罪悪感を持たなくて済む。
結局、順子さんは本当は物凄くちゃんとした人だった。
人には見せない裏方の周到が、緩みを生み出していた。
そして、お客様はそんな順子さんに、素直に甘えている。
早朝、薄暗かった空もすっかり明けてきて、朝というのはどうしてこうも時間が経つのが早いのだろうか。
あっという間にパーティの開始時間になった。
大皿に色鮮やかな野菜料理が並び、カラフルなパーティ用のカップやクリスマス仕様のBGM、参加者が持ち寄ったスィーツの包みを見るだけで、皆の声のボリュームが上がった。
今日のメインは、ピアノとボーカルのジャズライヴ。
夏に行われた時と同じユニット「ラムーン」さん。
好評だったので順子さんがまた呼んだ。
前回ファンが付く程素敵なライヴで、今日はクリスマスバージョンで私も楽しみだ。
ジャズというのはなにかしらアレンジされたりリメイクされたりして、結構耳にしていたりする。
ラムーンさんは、曲の前に必ず歌詞についてのエピソードを話してくださるのだけど、その前フリのおかげで、しみじみと聴き入ることが出来る。
あー、この曲、こんな歌詞だったんだー、と。
クリスマスソングで盛り上がり、アンコールの時間に、順子さんがリクエストをした。この曲は夏にもしていた。
ラムーンさんが歌う『この素晴らしき世界』
順子さんは泣いていた。
こんなに素敵な歌詞だったんだ。
こんな素敵な歌詞に涙する人生を送ってきた順子さんの涙に、つられて私も込み上げた。
イベントの中に静と動があり、順子さんの心に陰と陽があり、全てがお店に、素敵に反映している。
第10話「カフェオーナーがお客さんの前で避けるべき話題とは?そして、マリコの決意とは!?」
魅力的な人になる為に、大切な三つがあるそうだ。
旅をする事。 本を読むこと。 人と会話をする事。
順子さんはこの3つをクリアしていた。
順子さんは若い頃、バックパッカーで世界中を旅している。オーストラリアをジープで一周した話、ニュージーランドをヒッチハイクで廻った話、マイアミでパイロットと恋に落ちた話や、インドでサイババに会った話、香港で捕まりそうになった事とか、ラスベガスで大当たりした話、引き出しが沢山あって私もまだまだ聴いていない話がいっぱいある。
本は、小説やエッセイ、啓発本や精神世界、漫画も話題の本も、ジャンルを問わず沢山読んでいる。
そして旅と本で得た知識と経験を、会話の中で面白おかしく引用して順子ワールドに引き込んでしまうのだ。
私は順子さんに会うまでは、友人との会話が会社の愚痴だったり、彼氏への不満だったり、人間関係の悩みだとか、将来の不安だとか、ネガティブな話で盛り上がっていた。
それを楽しいと勘違いしていたのだ。
カフェ「R」に通って1年。
大きな地震があったり台風での水害があったり、テロだ無差別殺人だとか、世の中が大騒ぎをした日が何度かあった。
けれども順子さんは、決してそのような話題をお客様にふることはなかった。
ましてそこにいない人の話など以ての外。
お客様からふられるとサラッと流し、他の楽しい話題にすり替えてしまう。
ごもっとも。
以前行った美容室で、スタイリストがずっと気分の悪くなる話ばかりしていたことがある。
今日は天気が悪い、寒いから始まって、最近の日本の政治はどうかしているとか、天災が多くてきっとこの街に来るのも時間の問題だとか、事件の犯人への批判や起業の不祥事の疑念、
そんな話をその小さな美容室で話したとて、着地点などないのに。。
話をすり替える術を知らなかったので、ずっと聞いていたけれど、その負の思いのまま切られた髪の毛は、気に入るはずもなく、後日別の美容院へカットし直しに行った。
こうやって自分が体験すると、されて嫌なことは人にはしないようにしようと思うし、嬉しかったことはしてあげようと思う。
嫌な種は撒かないようにし、刈り取らないようにもする。
良い種はたくさん蒔いて、たくさん刈り取ってまた撒いていく。
シンプルだ。
経済的豊かさを持っている人は、実は傲慢だったり寂しがり屋だったりと、精神的豊かさつまり心の豊かさが伴っていないことが多い。
精神的豊かさを持っている人は、良い人だけれど経済的に乏しかったり、経営が上手くいかなかったり、こんな人多いでしょ。」
「私も最初聞いたときそう思ったわ。それって精神的豊かな人がとる行動ではないのではないのか。どんな立場や境遇の人にも、手を差し伸べるのが豊かな人なんじゃないかってね。」
「最初は手を貸したとしても、いつもいつも駆け寄って手を貸していたら、いつまで経ってもその赤ちゃんは立てないし歩けない。少し離れたところで、大丈夫大丈夫こっちまでおいでって見守っているのが相互の自立に繋がる。
少々転んで泣いても、放っておいたら勝手に立ち上がるわ。立ち上がらなかったら、こっちでものすごく楽しいことをするの。そしたら、その面白いことに参加したくなって歩いてくるわ。
精神的経済的に両立できている人っていうのは、そういうことが分かっているから、わざわざ手を差し伸べるということをするのではなくて、もう立っている人と付き合って楽しんでいるのよ。
冷たいと取る人もいるかもしれないけれど、そう取る人自体が精神的に豊かではないんだと思うわ。ありのままに物事を観る。判断しない。だから寛容で余裕があるとも言える」
片方だけの人がここに来たらバランスが取れるような場所にしたいわね」
私は順子さんを目指して、順子さんは更に理想を目指して、カフェ「R」は皆で進化を遂げている。
順子さんはこのお店を始めた時、2年位で終わるだろうなと最初から弱気だったそうだ。
蓋を開けたら、楽しい事や面白い事が多々あって、3日が3週間に3週間が3ヶ月に3ヶ月が1年に、1年が3年に。
そして、3年続いたら10年続けられる。10年続いたらいつでもやめられる。
いつでもやめられるって思ったら勝手にここまで来ちゃった。
そう言って舌を出して笑っていた。
丁度いい力の抜き加減を、これから順子さんの傍でしっかり学んでいきたい。
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