街角の喫茶店

Pocket

よく、仕事で何かアイデアを絞り出さないといけないときとか、プライベートなことでも、何かじっくりと考えたいときなんかに、よく喫茶店にこもって作業をするんです。
やっぱり職場とか、自分の家とかっておもいっきり日常の空間なんで、そこであれこれ考えごとをしていても、結局いつもどおりのことしか思いつかないことが多いんですよね。
なので、 非日常、というほどではないかもしれないけれどいつもとちょっと違う場所に入って考えると、自分でもおどろくくらいポンポンとグッドアイデアが出てきたりするんですよね。
なので、喫茶店も、地元の小さなところから、有名なチェーン店を日替わりで、などなど、行くお店をちょこちょこ変えています。
いえ、変えていました、と言ったほうが正確ですね。

ここのお店は、接客も明るいし日当たりもよくて、周りも静かで
なんとなく、お客さんものある人が多いというか・・・とにかく、落ち着いて作業するにはぴったりなんですよ。
あと何より、コーヒーへのこだわりがすばらしい。
普通のお店だったら、
まぁブレンドコーヒーにするのか、アメリカンにするのか、カプチーノにするのか、とかそのくらいじゃなくて、選ぶときって。

ここは、豆から選ぶことができるんですよ。
そうそう、今日もいろんな豆を入荷してましたね。
で、今日のおすすめのやつは、
えーと・・・えっとおすすめは・・・

「どれになさいますか??」

あ、えっと、えーそれじゃあさっき言ってた、今日のおすすめのやつを・・・

「はい、かしこまりました・・・
って、ねぇ、ちゃんと聞いてましたぁー?どうせもう豆の名前忘れたんでしょー?」

えっと、その・・・
はい、正直に白状いたします。
僕は、正直、そんなにコーヒーへのこだわりがないので、豆の名前を言われても、なにがなんだかさっぱりで・・・キリマンジャロとブルーマウンテンっていうフレーズしか知らないくらいのもんで・・・

ほんとうは、
この店に通う本当の理由は、いろいろなコーヒーをおすすめをしてくるる・・・
あなたに会いにきたんですっ!!

・・・なんて言えるわけもなく。

あなたをくださいっ!!
・・・なんてことをその場のノリっぽく言えるキャラだってらいいのに・・・
多分、彼女の中では僕は
物静かな口数少ない、どちらかというとちょっと暗めのキャラに映ってるんだろうなぁ。

ということで、今日も本当のおすすめをゲットすることはできず今日の・・・
あぁもう、もう豆の名前忘れた。
今日のおすすめコーヒーを啜る。

あー・・・
まずいなあ・・・
いいアイデアをたくさん、ポンポンと出すために、喫茶店に通い始めたはずなのにすっかり頭の中は・・・

僕は、まともに女性とお付き合いをしたことがない。
大学時代に、ほんの2ヶ月くらい付き合って、
「やっぱりなんかしっくりこないの、ごめんなさい・・・」
なんて言われてしまって。
もう自分の中では、あれは付き合ってるとかではないことにしている。
だから、恋愛とかは、苦手だ。

ある日、職場に行くと
後輩の女の子が、なにやら頭を悩ませていた。
「う~ん・・・う~ん・・・」
どうしたのだろうか。声をかけてみる。
「実は、来週の新商品の企画会議なんですけど、
何かいいアイデア1個出してプレゼンしろ!
って部長から言われたんです。
パワーポイントを使って資料作るとか、
そういうのは私得意なんですけど、
アイデアとかそういうのが苦手で・・・」
「新商品の企画か・・・どういうテーマなの?」
「いまどき女子の癒しになるグッズ・・・」
「結構ざっくりだな・・・ あ、そうだ、
この前の研修で習った、ブレインストーミング!
女子とか、癒しっていう言葉から連想するものを
たくさん書いていくやつ」
「それ、もう昨日の午後にやりました。
何人かでやってみたんですけど、なんかこうこれといった
パッとした、いいものが思い浮かばなくて・・・」
「うーん・・・そうか・・・
あとは何があるかなあ・・・ネットで調べてみようかな・・・」
「あーっ、なんか頭使いすぎて疲れた~!
ちょっとコーヒーと甘いもので休憩しようかなぁ」

そうだ。いつも僕がやっている方法だった。

「ずっと会社にいても、環境がいつもと同じなんだから
なかなか画期的なアイデアは出てこないよ。
こういうときは、外に出て、環境を変えてみれば
急にひらめくことも多いよ。ちょっと喫茶店にでも・・・」

と、言いかけたところで。
まてよ。いつもの喫茶店に行こう、と思ったけど
女子とふたりきりであのお店に行くのはちょっとなあ・・・

「スタバにでも行こうか!」

「いただきまーす!」
なぜか、コーヒー代はぼくがおごることになった。
彼女が頼んだのは、
期間限定メニューだという「さくらブロッサムクリームフラペチーノ」。
うわぁ、甘そう。
「先輩は普通のブラックコーヒーだけでいいんですか?」
「うん。いつもコーヒー屋さんに行ったらそうだからね。
特にこだわりはないけど、習慣かな・・・」
「習慣・・・というか、なんというか
惰性みたいな感じじゃないんですか?
もっと、新しいことにチャレンジしていかないと!
人生は常にチャレンジの連続ですよ!チャレンジ!」

人生は、チャレンジ、か・・・
そうだな、ちょっと臆病になりすぎていたかもな・・・。
と、あの人の顔が頭によぎった。
もう恋愛はしなくていいや・・・
なんて思ってたけど、単に傷つくのを怖がってるだけじゃないか。
「そうだな、新しいことにチャレンジしてみよう!
ところで、新商品の企画は何かいいアイデア浮かんだ?」
「いいえ、そのへんはさっぱり・・・」

新しいことにチャレンジ!
と思ったものの、
なかなか喫茶店に通いつめても
彼女との距離を縮めることはできなかった。
「今日は何にしますか?今日もいい豆入荷しましたよ」
じゃあ、そのおすすめで・・・
が、いつもの口癖だ。
そうですね、じゃあ、・・・
このままいつまで同じことを繰り返すのだろう?
人生はチャレンジだ、と誰かが言っていた気がする・・・
「あの、それって、お店としてのおすすめですか?」
「えっ?ええ、まあ、オーナーが仕入れてきたので
お店としてのおすすめってことになりますけど・・・
あ、一応私も試飲してみて、意見はちゃんとオーナーに
伝えてますよ、その上でお出ししてるので、つまりは
お店のおすすめってことになりますけど・・・?」
「そうなんですか・・・わかりました。
じゃ、じゃあ、その、今日のおすすめとかは抜きにして・・・お姉さんの好きなコーヒーは何ですか?」
「えっ、・・・私のですか?
そうですね、このマンダリン・フレンチっていうコーヒーが飲みやすくてとっても美味しいので私は好きですよ」
「そ、そうなんですか。
飲みやすくて美味しいんなら、ちょっと
試してみようかな・・・」
「あ、はい、わかりました・・・」

これは、後輩のあの子が言うところの
「新しいチャレンジ」に該当するんだろうか?
というか、もしかして、僕は結構どストレートなことを言ってしまったんじゃないだろうか・・・
捉えようによっては、
まるで、愛の告白のような・・・
その、マンダリン・・・なんとかの味はさっぱり頭に入らなかった・・・。

一方、
後輩の新商品のアイデアはまったくもって進行していなかった。
僕は一応彼女の教育係のようなものを担当していて、
新人研修のときも、みっちり1対1で指導していたから、
こうも困っていると、なかなか放っておかずにはいれなかった。
「せんぱぁ~い・・・もうだめですぅ・・・」

泣きつかれたら、逃げるわけにも行かない。
こうして、僕は来週のプレゼンまでの数日間、
毎日終電を気にしながら、アイデアと格闘することになった。
あるときはドトールへ、
またあるときは趣向を変えてモスバーガーへでも・・・
「どこに行っても、先輩は相変わらず
ブラックコーヒーだけなんですね。
せっかくモスに来たんだから、
バーガーのひとつでも食べればいいのに」
と、口元をケチャップの口紅を塗りたくって後輩は言う。
「別にさあ、メシを食べに来たんだからさあ。
だいたい、メシはさっき会社出る前におにぎりで
済ませてきただろう?」
「メシじゃないんなら・・・
なんかまるでデートみたいですね!」

いきなり何を言い出すのかと思ったら。
長いこと恋愛を拒否してきたから、
もうデートの基準がよくわからない。
どこまでがデートじゃなくて、いったいどこからが
デートなんだか・・・。
「バカ言ってないで、さっさとアイデアを考えろ」
「どうして、先輩は、こんなに毎日夜遅くまで
私に付き合ってくれるんですか?」

そりゃもちろん、かわいい後輩だし、自分は
教育係だから・・・

という言葉を思いっきりコーヒーで飲み込んで。
そこからはとんとん拍子だった。

急に画期的な新商品のアイデアが飛び出してきて
それが上司に好反応を得て、現在発売準備中。
そして、これは私事ながら
僕は、後輩と無事に結ばれ、付き合うことになった。

 

とはいえ、やっぱりいまだに恋愛の仕方はよくわからない。
デートは、基本的に彼女が主導だ。
でも、それを彼女自身も楽しんでいるようだし、
そのうち、恋愛のやり方がわかってきたら、
いろいろデートプランを提案してみることにしよう・・・。

「あ!なんか、いい感じの喫茶店!
うーん、なんかこう、隠れ家的というか、
大人の社交場、って感じ!ねえ、入ってみようよ!
もう歩きすぎて疲れたし・・・」
なんというか、女の勘は鋭い、ってやつなんだろうか?
黙っていると後からややこしいことになりそうだったので、先に話をした。
「最近は全然行ってないけど、ここはたまにアイデアを出すのに来てたんだ。
静かで落ち着くし」
「えっ?そうなの?
じゃあなんで、あの新商品のアイデア出すときに
つれてってくれなかったの?!
ここ、会社からもそんなに遠くないのに!!」

あー、どっちにしてもややこしいことになってしまった。
どうも、僕は恋愛に関しては要領が悪いらしい。

「いらっしゃいませ! あ!お久しぶりです!」
彼女は、相変わらずのまぶしい笑顔で出迎えてくれた。

「ごめんなさい。最近、仕事でバタバタしてて
なかなか来れなくて・・・
今日の”お店のおすすめ”は何ですか?」”

コメント