店長も客も、昭和の古き良き『喫茶店 狩人』

【店舗情報】

狩人 075-721-4467
京都府京都市左京区高野泉町40
7時~18時(水曜定休)

 

『喫茶店』と『カフェ』は、どちらもコーヒーを飲む店を指しているけれど、イメージはずいぶん違うと思う。
カフェラテに泡立てたクリームが乗っているのが『カフェ』で、コーヒーと牛乳と、まぜずに出てくるのが『喫茶店』。オシャレな雑誌が置いてあるのがカフェで、週刊誌が置いてあるのが喫茶店。BGMに、ボサノヴァや星野源などが流れているのが『カフェ』で、クラシックが流れているのが『喫茶店』・・・。
人それぞれ、『カフェ』と『喫茶店』の定義に違いはあれど、とにかく2つは、間違いなく別物である。
タバコもお酒も飲まない私は、コーヒーの存在は本当に大きい。コーヒー、いやむしろ、“コーヒー様” のおかげで、毎日仕事を頑張れているといっても、過言ではない。家で毎日、一回一回ミルで引いたコーヒーを飲んではいるけれど、ちょっと仕事がうまくいったときは、自分へのご褒美として外へコーヒーを飲みに行く。
さあ、今日はどの喫茶店へ行こうか!!
そう、選ぶのは専ら『喫茶店』。10代のころは、雑誌に載っている、新しくできたオシャレなカフェに一生懸命通っていたが、三十路を越えたあたりから、急に『喫茶店』の方が落ち着くようになった。自分でもよくわからないのだが、たぶん、30代というのは、そんなものなのだろうと思う。寿司の好みが、サーモンやハマチから、イカやタイに変わるようなものだと思う。喫茶店で、コーヒーを待つ間に、週刊誌や新聞を読むのが習慣になってしまったため、カフェを否定するわけでは全くないけれど、もはやカフェ住民には戻れないだろうなあ、とつくづく思う。あと、私自身はたばこを吸わないけれど、仕事の先方さんなどは年上の男性の方が多く、喫煙者も多い。最近は、喫煙や分煙のカフェが多いので、途中で気を使ったり、あちらにイライラされたりするのが嫌なので、こちらが場所を指定するときは、ほぼ確実に喫煙ができる『喫茶店』をチョイスするようにしている。喫茶店には、公私ともにお世話になっているというわけだ。
さて京都でも、下町にあたるこの辺りには、カフェよりも喫茶店が多く、私ごのみの喫茶店が、徒歩圏内にも選べるほどある。
近くにいくつか大学や専門学校、芸術大学などがあるため、学生の多い町ではあるが、このあたりの学生さんはなぜだか、””オッサンくさい”雰囲気があり、通常の若者が避けがちな、老人の常連ばかりがたまるような店にも、平気で居る。よって、オシャレなお店よりも、昔ながらの店が幅を利かせている。私はこの町にきてまだ十数年だけど、町の雰囲気は、おそらく30年前と、あまり変わらないのではないだろうか。
その中で、私が大好きな喫茶店がある。ここぞという時や、心がざわざわとして落ち着かない時などは、その喫茶店へ行って心を穏やかにする。

その喫茶店は、京都の中心を流れる「鴨川(分岐以北は、高野川)」を、ずーっと上流の方へ上っていって、「もうこれ以上行くと、山に入ってしまうんですが!」というところまでいく寸前の川沿いにある。隣接に割と広い駐車場もあるので、使い勝手もいい。『狩人』を越してそのまま北上をすると、京都のツーリングコースに入っていくこともあり、ツーリングの行き帰りのバイク・ライダーさんたちがここで休憩しているのも、たまに見かける。
『狩人』の外見は、いわゆるどこにでもあるクラシック系の喫茶店。目印の赤いテントは、ぼろぼろのこうもり傘状態になってしまっているので、引っ越したての私は、「この喫茶店は、営業していないのね」と思っていた(すみません 笑)。
はじめて店の中に入ると、理由がわかった。たいそうお年を召した、頑固そうなマスターと、「長年つれそってきた経験で、余計なことは言いませんよ」といった雰囲気の、無口そうな奥様が、きちんとした衣装でカウンターに立ち、てきぱきと仕事をしている。店の中はキレイに整頓され、机なども清潔にされているので、単に、年齢的な問題であろう。こういうきちんとした格好をしているご主人というのは、とても格好よくて印象がいい。仕事に対する“こだわり”や“意気込み”みたいなものを感じる。
私が、喫茶店が好きといっても、単に古ければいいというわけでなくて、ちゃんとした『いい喫茶店』に行きたい。
飲み物を出すところだから、当然清潔で掃除がされていること。パッと見た戸棚にホコリがビッシリ・・・では、食欲がなくなる。
そして、家庭的すぎるのも、私てきにNGである。ありがちなのが、ママの趣味の油絵が所狭しと飾られたり、近所の人のバザー会場のようになっている店や、商店街のキャンペーンのおまけでもらったような、知名度0のマスコット・キャラクターが何体も置いてある店など。そうなると、なんだかあまり親しくもない友達の家に呼ばれて行ったようで、全然落ち着かない。
もちろん雰囲気だけでなくて、コーヒーが美味しいことが重要だ。そう考えると、たくさん喫茶店はあれど『いい喫茶店』は、意外と少ないものだ。『いい喫茶店』は、今後もがんばって営業を続けていただきたいと思う。
わたしの中で『いい喫茶店』の代表選手の、ここ『狩人』は、カウンターが10席、4人掛けテーブルが6つ。昔ながらの喫茶店にしては、わりと広々しているほうだと思う。私は奥のテーブル席に腰かけた。もちろんコーヒーはブラック派なので、ここでもホットのブレンドを注文した。小腹も減っていたので、なにか食べるものはないかとメニューを見ると、なんと、私の愛する「ホットサンド」があるではないか!!
ホットサンドって、私と同年代の人だと、きちんと食べたこともない人も多いかと思う。いわゆるサンドウィッチを、ホットサンド用の鉄板で焼いたものだ。まあ、ただそれだけなんだけど、サンドウィッチの端の部分が、鉄板でつぶされたままカリッとこんがり焼きあがっている、その食感と味がたまらなくおいしい食べ物である。トーストのいいところと、サンドのいいところを足して割らないような、2倍美味しい(私の独断ですが)食べ物。ホットサンドの中でもランキング1位(私の独断ですが)の、カツのホットサンドがメニューにあったので、それも一緒に注文した。
注文を待っている間、店内を見回すと、カウンターの壁には、多数のポスターが貼ってあった。よく見ると、すべて高倉健であった。確かに。高倉健さんを好きそうなご主人だ。「その気持ち、わかります。とてもかっこいい昭和を代表する名俳優ですよね!!」と、勝手にテンションが上がって目線を上げると、そのほかに、芸能人のサインなどがたくさん並んでいた。もしかしたら息子さんかご親戚の方が、太秦映画村や東映関係のお仕事をされていて(京都では、そういうことが珍しくない)、そのつながりでその店にもいらしたのかなあ?とか、得意の妄想を巡らせてたのしんでいた。
はじめての喫茶店では、そういう楽しみが色々とあって、週刊誌を読む暇なくコーヒーが来てしまう。この日もそうこうしているうちに、とっても真面目そうな学生のお兄ちゃんが、注文したコーヒーを運んできた。マスターと奥さんも愛想タイプではないのに、バイトのお兄ちゃんまで全く愛想がない。しかし動作は皆とても丁寧だ。なんだかおもしろくなってきた。緩む口元を隠すように、コーヒーカップを口に運ぶ。
コーヒーは私の好みで、濃いめ。取り立てて個性的な味ではないけれど、丁寧にドリップして淹れてくれたんだなあという印象。それより、オリジナルの狩人カップが可愛いくてセンスがいい。
そしてホットサンドが続いて来た。ホットサンドは、想像をはるかに超えた。この瞬間から、私の中で『狩人』が『いい喫茶店』の殿堂入りを果たしたと言っていいかもしれない。
薄すぎずぶ厚すぎず、ちょうどいい厚みと脂加減で、なおかつちょうどいいソースのかけ具合のホットカツサンドが、綺麗に切りそろえられ、大皿の中央に美しく盛り付けてある。添えられているのは新鮮な細い細い千切りキャベツと、ちょこんと丸い控えめなポテトサラダ。さらに、ホットサンドを切り落としたこんがりのミミ4切れ。フォークは、先を丁寧にペーパーナプキンでくるくるとくるまれている。
もう、完璧だった。何が完璧なのかわからないけれど、とにかくその“ホットカツサンド”という「料理」が、完璧だった。誰にも恥じる必要はないのだけど、つい誰かに感動を隠すように、もう一口コーヒーを飲んで、平静を装ってから、フォークのペーパーナプキンをはがし、カツサンドを手に取った・・・。

 

人には味の好みがある。もしかしたら、これを読んで『狩人』を訪れてくださった方がいて、この「ホットカツサンド」を食べたからといって、意外と普通やん。と言われるかもしれない。それでもいいと思う。
私にとっては『狩人』のホットカツサンドは、完璧なホットカツサンドであることに間違いない。それだけではなく、それに合うコーヒーであり、それに合うカップであり、それに合う無口なマスターとバイトさんであり、それに合う高倉健なのだ。それが、私の思う『いい喫茶店』だ。
マスターのご年齢と状況からみて、きっと、この店の後継ぎは特にいないんだろうなあと思う。いればいるに越したことはないけれど、少なくとも、今の内に『狩人』での時間を満喫しようと思う。店に入る前は、どんなに落ち込んでいても、緊張していても、店を出るころにはなんとなく心がすっきりして、明るくなる喫茶店『狩人』。
先日気づいたのだが、レジの奥の壁に掲げてある小さな書の額に書いてある、とても素敵な書一字を、よく見ると「明」。まさに、その通りだなと、イメージ通りでうれしくなったものだ。

京都の辺鄙な下町にある喫茶店ですが、狭い町京都なので、祇園からも電車や車で30分もかかりません。他府県の皆様も、京都に遊びに来られた時には、ぜひ『狩人』のドアを開けてみてください。

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