コーヒーがつないでくれた恋愛

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私は、コーヒーが大好きで、自分でハンドドリップして毎日飲みます。コーヒー豆も気になるお店で美味しいものを紹介してもらったり、色々な国・農園のものを試したりして楽しんでいました。最近では、サードウェーブコーヒーをきっかけに、たくさんの新しいコーヒースタンドができていますが、当時はまだここまでの人気はなく、女子でこんなにコーヒーにはまっているのは、周りには私しかいませんでした。オシャレな女子はみんな紅茶を飲んでいました・・・。

 

そんな私には、家の近所に通っているカフェがありました。そこでは、オリジナルなブレンドの豆を使って、エスプレッソを提供していました。素材にこだわったお店で、提供しているお菓子やサンドイッチなどもとっても美味しかったです。こじんまりとしたお店で、そこまでお客さんも多くなく、でも「好きな人は好き」という独特な雰囲気がありました。私の家から駅に向かうまでの道の途中にあるお店だったので、出かける時にエスプレッソを一杯飲んで、帰ってきてまた寄って一杯飲む、みたいなそんな使い方をしていました。常連さんの中に、一人、利用時間がよくかぶる
男性がいました。バイオリンよりもちょっと大きいような楽器のケースを持っていて、いつもお店の端っこでエスプレッソを飲んでいます。私は会うと会釈をしたりしていましたが、会話をすることはありませんでした。

ある日のあさ10時ごろ、そのお店に行くと、またその楽器を持った常連さんがいました。私はカウンターに座り、そのお店のスタッフの女の子と会話をしていました。するとそのスタッフの子が、今日の夕方に近くに新しくできたカレー屋さんに行こうと、私を誘ってきました。私はその日はたまたま予定が空いていたので、私は快諾しました。そのお店は駅の近くにできた、ちょっとおしゃれなレストラン(カフェ?)で、雑穀と豆を使ったカレーを提供しているお店でした。すると、カウンターの反対の端に座っていた、あの常連さんが「僕も行きたいです」と言い出したのです。

 

私は断るようなこともなかったので、その男性のことはよく知りませんでしたが、結局3人で行くことになりました。夕方、そのカレー屋さんで再び待ち合わせ、3人で食事をしました。3人はお互いのプライベートは全く知らない同士でしたが、スタッフの子はよくしゃべる子だったので、会話にそれほど困らず、楽しい時間を過ごせました。
自然な流れでお互い連絡先を交換し、その日は別れました。

家に帰ってすぐに、常連の男の人から連絡が来ました。
「狩野です。今日はありがとうございました。」
「佐伯です^^こちらこそ、楽しかったです。」
たわいもないやりとりを何通かして、彼の方から、
「今度、僕の知っているカフェに行きませんか?ここのコーヒーも美味しいですよ。」
と誘われました。この時は彼に特別な感情は持っていなかったのですが、
美味しいコーヒーは大好物なので、
「ぜひ、お願いします^^」
と返信してその日は眠りにつきました。

 

3日後、約束の17時にそのカフェのある神保町で待ち合わせました。その間はいつものお店で出会うこともなかったので、狩野さんと顔を合わすのはなんだか恥ずかしい感じもしました。彼は「やあ」と言いながら笑顔で現れました。
(「やあ?」ってなんだろう・・・)とちょっと可笑しくなりましたが、彼もきっと少し照れていたのだと思います。その日はたくさんしゃべってくれるスタッフの女の子がいるわけでもなかったので、お互い何しゃべろうという感じで、終始ギクシャクしていた気がします。私は、彼がいつも持っている、バイオリンより少し大きめな楽器についてたずねました。それはヴィオラという楽器でバイオリンよりも少し低い音が出るそうです。彼はそのヴィオラを小さい頃からずっと習っていて、今は会社に勤めながら、学生時代の友人とクラッシックとポップスを融合させた楽団を組んで活動しているそうです。
カフェのコーヒーは狩野さんの言う通り、とっても美味しくて、私はすごく好きな味でした。わたちはお互いのことをポツポツ話し、すごく盛り上がるわけではないのですが、なんだか優しい時間が流れていていい雰囲気になりました。
彼は、話してみると、少しかわった人で、楽器とコーヒーが大好きで、友達は少なく、ほとんどの日を楽器を弾いて過ごしているようでした。会話の中には私の知らないたくさんのクラシック音楽の話が出てきて、私はほとんど知らなかったのですが、彼の楽しそうに話す姿を見て、少し音楽を聴いてみようという気になりました。

その後は、いつもの店で狩野さんと顔を和え合わせれば、隣に座って一緒にコーヒーを飲むようになりました。家もお互いすごく近かいことがわかり、距離はどんどん近づいていきました。スタッフの女の子からは、
「二人って付き合ってるんですか〜?」
と聞かれたりして、お互い照れながら、
「いや、そういうわけではなくて・・・!」
なんて言ったりして、なんだかそんな雰囲気が楽しかったです。

ある時、彼から
「エスプレッソマシン、買っちゃった^^」
というメールが来て、マシンの画像が添付されていました。
「え〜!?うそっ!すごい。自宅で飲めちゃうね。」
「そう。でもあの店にはこれからも通うよ。」
「よかった^^」
「とりあえず、飲みにくる?」

・・・飲みに・・・くる・・・???
私の頭は混乱と喜びとでグルグルしてきました。飲みに、くる?っていうことは・・・。
誘われてる?よね?ということで、かなり緊張しながら、狩野さんの家に向かいました。以前の会話から、この辺りかな、というところまではわかっていたので、歩きながら電話をすると、狩野さんがアパートの一室から電話をしながら出てきてくれました。
彼は、
「やあ」
と言って、家の中に案内してくれました。
(また「やあ」って言ってる)と思って可笑しかったですが、彼も緊張していることがわかりました。彼の部屋は想像通り、楽器と楽譜で埋もれていましたが、そこまで汚い感じではなく、テーブルの一角に小さ目なエスプレッソマシンが置かれていました。
「わ、かっこいいの買ったね。」
と言って近くまで行くと、
「そう。いいでしょ?」
と言って、彼はエスプレッソを入れる準備をしてくれました。

彼がいれたエスプレッソは、お店のものとは全然味は違いましたが、それでも美味しかったのを鮮明に覚えています。
私たちは、エスプレッソを飲み終え、音楽の話になりました。彼は、CDを流したり、自分でヴィオラを弾きながら、色々な音楽を紹介してくれました。私も徐々にクラシック音楽を聴くようにしていたので、知っている曲などもあって、楽しい時間を過ごせました。
気がつくとあっという間に時間が過ぎ、夜の11時になっていました。
すると狩野さんが、
「そろそろ帰った方がいいかな?」
と切り出してきました。私は複雑な思いで、
「そうだね、お邪魔しました」
と答え、帰り支度をしました。
狩野さんが家まで送ってくれるということだったので、二人で私の家まで歩きました。歩いている間は全く会話はなく、狩野さんの顔を見ると、彼はぼーっとしているように見えました。私は急に気持ちが高ぶってしまい、もうすこしでうちに着くと言ったところで
「ね、私がハンドドリップコーヒーでさっきのお返ししてあげるから、ちょっとうちにあがりなよ。」
と、彼に言ってしましました。自分から男性を誘ったことなど一度もなくて、緊張して声が上ずりました。彼は、
「やった」
と笑いましたが、特に意識している感じでもなさそうで、私は伝わってないのかな、と少し不安になりました。もう私は開き直っていて、彼とコーヒーを飲めればいいや、くらいに思うことにして、夜道を歩きました。私の家に着くまで、また、彼は無言のままでした。
私は、直前になって、部屋を綺麗にしてたかどうかが気になってきて、もしかしたら下着とか置いたままにしてたかも、と不安になりました。
玄関まで来て
「ごめん、ちょっと待ってて、片付けてくる」
と彼に告げると
「待てない」
と彼は言って、そのままドアを押して、部屋の中に入ってきました。私はびっくりして、目を丸くしていると彼はそのまま、私にキスをしてきました。

その夜、彼はうちに泊まって行き、私は翌日の朝、彼にハンドドリップコーヒーを入れました。
「おいしい。僕が入れたのより全然おいしい。」
と言って笑ってくれた彼を見て、私はほっこり幸せな気持ちになりました。

そのあと、私たちのお付き合いは始まり、コーヒー好きがこうじて、たくさんのカフェに一緒に行き、たくさんのコーヒーをお互いに入れました。彼は相変わらず、クラシックに夢中で、一緒にいると彼はずっと音楽とヴィオラの話をしていました。時々、もし私たちのどちらか片方でも、コーヒーが好きじゃなかったら、きっと二人は付き合ってなかっただろうな、と思うことがあります。彼と話すこともなかったでしょう。そう思うと、本当に不思議な気持ちになります。

 

今では、近所のカフェには二人で一緒に出かけるようになりました。私はある時、最初に私達をカレー屋さんに連れていってくれたスタッフの女の子に、
「本当にありがとう」
と言って、お店で売ってるクッキーを買って渡しました。女の子は、一瞬、?な顔をしましたが、ピンときたようで
「おめでとうございます」
と言ってくれました。

そして、先日、私たちは結婚式を挙げました。
コーヒーがつないでくれた縁、ということで、披露宴の食事の時には、お気に入りのコーヒーを提供したり、参加者へのお土産はコーヒーカップとコーヒー豆。私たちらしい結婚式になったと思います。今は、家に彼の持ってきたエスプレッソマシンと、私のハンドドリップ用のサーバと、たくさんのコーヒー豆があります。これからもお互いにおいしいコーヒーを入れ続けてあげたいと思います。

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